萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
スウェーデン語で「主人公」の意
また「偶像の王」「アイドルへの道」のミーニングも含む
死灯のレクイエムは静かに始まる
パヴァリア光明結社との戦いから一ヶ月、統制局長アダム・ヴァイスハウプトは斃れ、サンジェルマン達幹部も「去った」組織は崩壊。
元よりアダムという「力」によって支配されていた組織、抑えがいなくなれば離反するものも居るし、野に放たれた獣の様に暴れ出すものも居る。
アルカノイズという危険な力があるからこそ、余計にその国の戦力だけではどうにもならない、などという事もある。
今、S.O.N.G.は各国政府と共にそういった危険な錬金術師の捕縛に当たり、多忙を極めていた。
一方で、詩織もまた決して「暇」ではいられなかった。
「加賀美准尉、おはようございます」
「おはようございます、蛇喰(へびくい)補佐官」
車の後部席で寝ていた詩織が目を覚ますとそこにいたのは一人の女性だった、彼女は特異災害対策機動部に所属し、「指揮官」となった詩織を補佐兼監視を行う者。
特異災害対策機動部1課 加賀美詩織「准尉」
これまでは正式な階級を与えられていないにも関わらず護国災害派遣法の拡大解釈により指揮権が与えられていたが、今回の事件での「功績」から政府から正式に「尉官」としての地位が与えられた。
それは彼女をこの「国」に縛り付ける為の訃堂の思惑でもあり、彼女を多くの悪意から守ろうと思う者達の思惑でもあった。
迷惑な話ではあるものの、彼女自身にとっては決して悪い話ではなかった。
かつての詩織なら断固として辞退し、即座に帰ってピザの出前でも取って泣き言を吐きそうな仕事だとしても、今の詩織にとっては夢の為に乗り越えていく「道(ロード)」に過ぎない。
加賀美詩織には夢が出来た、「最強の希望(アイドル)」になりたいという夢が。
この程度の責任と宿命、背負えねば自身が望む理想(アイドル)には程遠い。
舞台の上の「主人公(lord idol)」になる為には強くならねばならない。
それは物理的な強さだけではなく、心の強さ、役目を果たす為の強さも含める。
「准尉が休んでいる間に進展がありました、捕縛した密売人の尋問で現在追跡中の結社残党の現在地が割れました」
「なら早く起こしてくださいよ、相手はアルカノイズを使うんですから。私しか対処できませんよね?」
「いえ、戦闘続きでしたから休んで貰わないと准尉が持たないので」
パヴァリア光明結社、の残党。
今、詩織が追っているのは国内でアルカノイズを「犯罪組織」に「売買」している錬金術師達だ。
やはりというか、日本国内でも結社は暗躍していた。
サンジェルマン達やアダムが計画を進める為に使用する場所の確保やアルカノイズの生産・運搬などを行っていた錬金術師達が存在した。
降伏・投降の勧告は毎度行っているが彼らは一向にそれに応じない。
というのも彼らは投降したくても出来ない。
彼らは投降しても政治的な理由で間違いなく極刑になる。
『シンフォギア以外ではまず対応不能なアルカノイズの製造方法を知っている』
それは「世界秩序を崩壊させる事が出来る」に等しい。
バルベルデに国連が武力介入を行ったのもそれが理由だ。
少し考えれば誰にだってわかる、ポケットに入れて運べる防御不能な大量破壊兵器が許される訳がない。
ただでさえヨーロッパやアメリカの情勢不安から、冷戦の再来一歩手前の様な世界情勢にこんな劇薬が投与されてしまえば間違いなく世界は終わる。
それ故に現在、S.O.N.G.や国連が各国を駆け回り、その危機を回避しようと尽力している。
だが一方で、そんな技術を欲しがる者も一定数居る。
暴力による秩序の破壊と革命を望むものや社会から爪弾きにされた悪。
そしてより強固な支配を目論む者。
「で、あのジジイにはもちろん漏れてる奴ですよね」
「ええ、なので准尉には「ついうっかり」錬金術師達の逮捕を配信して貰います」
風鳴訃堂もまたその「支配」を目論む存在だ。
だが今、その支配に抗い、新たな平和と秩序を願う者も居る。
『蛇喰』補佐官、経歴は謎に包まれているが少なくとも弦十郎と八紘の二人が信用するに値する「女性」だ。
なお本人は自身の年齢を17歳と主張しているが、少なくとも20年近く活動している事から最低でも30代後半である事が推測されている。
それはさておき、この国を裏から操る訃堂のやり方は今、非常に強引なものとなっている。
このままではかつての大戦の様に多くの人々を犠牲にするやり方を強いるだろう。
それは「正道」ではなく「外道」だ。
許すわけにはいかない。
「敵も、考える事も多いですね……」
「ですが何も准尉一人が抱え込む事ではありません、その為の「私達」ですからどんどん頼ってください」
「そうですね、ではそろそろ仕事を完遂しましょうか」
軽く体を解し、軽く発声練習をする。
「では、行きましょう」
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「嗅ぎ付けられるのも時間の問題ではあったが、案外上手く行ったな……」
「積み重ねて来た罪は消せない、私達はこれから死んでいく」
「けど「姫様」は生き残り、私達が生きた証は残る」
「そういうことだ……我々の事など忘れ、一人の人間として生きる。それでいい」
『被検体予定』と書かれた医療カプセルの中に眠る少女に優しげな目を向け、笑みを浮かべる者達が居た。
それは結社の残党達だ、彼らがどんな道を選び、どんな過去を歩んできたのか知る者は多くない。
だが、これから辿る道はもう既に決まっていた。
「結社の構成員として生まれ、道具として生きてきた私達に希望をくれた。だから今度は私達があなたを助ける」
「たとえ君が望んだ結末でなくてもな……」
「さて諸君、最後の舞台を始めよう……盛大に我らが「アイドル」を輝かしい未来へと送り出そうじゃないか」
暗い倉庫の中、4人の錬金術師達は不敵に笑う。
既に周囲一帯が包囲されている事など予測済み。
「各員、アルカノイズを放て!演奏開始!」
「了解!」
砕けたジェムから楽器を模した特殊なアルカノイズが現れる。
「さあ、来い加賀美詩織、シンフォギア装者。お前達よりうちの姫様の方が可愛い事を証明してやる」
ノイズ達が一斉に演奏を開始、それは統率が取れた「曲」だった。
その「不協和音」という名に似つかわしくない美しい「オーケストラ」は周囲に居た防御手段を持たない者達の精神を掌握し、行動不能にしていく。
彼らがここまで逃げてこれたのもこのノイズの特性の為だった。
直接的に攻撃をあてなくとも、範囲内に居るだけで対策を施していない人間は全て無力化できる。
「あー……やっぱ姫様の歌がないからモノ足りないねぇ」
「姫様を送り出す為の演奏なのに姫様を歌わせては本末転倒だ、ここは我々が歌うべきと思う」
「あ、それ賛成!」
これから彼らは死ぬだろう。
だがその顔には悲壮など浮かんでいなかった。
-希望があるから、未練があるから、笑顔で死んでいける
そんな彼らと加賀美詩織はもうすぐ出会う。