萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
「こいつらは殺さないのですか?」
「我々の道連れにする必要はない、その辺りに放っておけ」
「それもそうですね」
アルカノイズの製造設備がアルカノイズ自身に手によって破壊されていく。
それを尻目に、錬金術師達は今か今かと「彼女」を待つ。
「それで、来たらどうするのですか?投降でもします?」
「冗談はよせ、そう……そろそろ来るぞ」
男が言ったとおり、天井のガラスを突き破り一人の少女が「歌」と共に降りてきた。
赤と白のガングニールを纏ったシンフォギア装者、加賀美詩織だ。
「武器を下ろし、投降してください。さもなくば実力にて拘束させていただきます」
たとえそれが出来ないとわかっていても、彼女は勧告する。
もしも仮に彼らが投降しても、恐らく運命は変わらない。
覚悟は既にしていた、彼らの命を間接的にでも、直接的にでも奪う事になると。
だからそうさせない為の作戦であった「配信」を開始しようとするが、どうにも通信状況が悪く詩織は内心戸惑った。
おまけに頼りの補佐官にも通信が繋がらない。
「遅かったじゃない?残念だけどアルカノイズ製造装置は破壊させてもらったよ」
一人目の錬金術師は背の高い金髪の女。
「投降勧告はありがたい、しかし……どちらにしろ我々の運命は変わらないのでな」
二人目の錬金術師は大柄の初老の男。
「だが俺達は政治屋どもに殺されるのは御免だ、せめてお前みたいな強い奴と戦って死にたいと思ってな」
三人目の錬金術師は仮面をした男。
「そういう事、これ以上の問答は無用だよ……後は戦うしか道はないの」
四人目は詩織よりも小さな少女。
それは向こうもまた承知の上だった、戦い、抗い、死ぬ。
詩織はその勝手に付き合わなければならない。
「全く……最悪です、なんで私が手を血で汚さねばいけないんですか」
「そうはいいながらも覚悟は出来てる様じゃねえか?アイドル様よ」
「……それはあなた達がこの世界の平和を脅かすからです。どんな事情があったとしても、私はそれを許すわけにはいかない」
「そうこねえとな!あんたみたいな正義の味方と戦えて悪党冥利に尽きるぜ」
彼らは自分達がしてきた事が許されない事であり、悪である事を自覚している。
そしてここで死ぬ事こそが自分達の末路に相応しいとも。
覚悟して向かってくる者こそが一番厄介、それは詩織自身が「痛い程に」知っている。
だが引く事は出来ない、設備を破壊し尽した楽器型アルカノイズ達が動き出す。
「最後に一つ……あなた達の名前を聞いておきましょう」
「我々に名前はない、覚えておく必要はない」
「私達は闇に生きて、闇に還るだけよ」
四人の中で一番小さな少女が小さな赤い羽根を手にし、その姿を変える。
まるで「火の鳥」の様な衣装、それは「ファウストローブ」だった。
「フェニックス……!!!」
その姿と力は、間違いなく詩織が知っているソレ。
加賀美詩織と共に歩んだ力の一つであった。
「っ……土壇場だけど上手く纏えてよかった。あなたの知る通り、これはフェニックスの羽根を使ったファウストローブ……私達の切り札」
その力は詩織がよくわかっている、目の前の少女が何をしようとしているのかも。
「命の焼却……!」
そして後ろに控えていた三人から光の粒子となった「生命エネルギー」がフェニックスのファウストローブを纏う少女へと流れ込む。
「そういうこと!」
「それじゃ、後は頼むぜ」
「我々の命を……火を……」
それは錬金術による「生贄」の力、命をエネルギーへと変換する最後の術。
「四人分の命だけどこれを卑怯とは言わないよね?」
「卑怯も何もありませんよ……!」
彼らは自分の死に方を決め、実行した。
そこにどんな覚悟があったのだろう、それに対してどう向き合えばいいのだろう。
だがいつまでも迷っていられる時間はない。
だから詩織は自分が信じる選択を取る。
「……行きます」
「さあ始めましょう!最後の歌を!」
胸の中に流れる歌を信じて、詩織は二つの槍を手に駆け出す。
同時にアルカノイズ達が演奏をはじめ、目の前のフェニックスの少女も歌い出し、炎の剣を手にする。
槍と剣がぶつかり、衝撃が走る。
「フォニックゲイン……!あなたもキャロルみたいに!」
「そうだよ……私も歌うのは好きなんだ!」
「ッ!違う出会い方をしたかった!」
力だけなら詩織を上回る少女、だが戦闘経験が違う。
変わろうとしてあがき続けた事は無駄ではない。
炎の剣を両腕の槍で弾き、詩織は少女の腹に蹴りを放つ。
そして足の着地用スパイクを突出させ、必殺の威力とする。
-Stinger Kick-
「これが神殺しを成し、アダムを倒した力……!あやうくこっちも飛びそうになったよ!」
だがそれで勝負がつく訳がなかった、後ろに下がらせたものの「強化」されたファウストローブの防御力を突破する程の威力ではなかった。
「……アルカノイズの演奏で防御力を上げて、こちらの威力を減衰させたのですか」
「もう気付かれた……さすが歴戦の装者」
「いえ、ただ単にアルカノイズが演奏しているだけなのはおかしいと思っただけです」
とはいえ、今の一撃で今の所は相手より詩織の方が技量で勝る事が判った。
そして周りのアルカノイズさえ始末すれば普通に攻撃が通りうる事も。
アームドギアの槍を砲身へ変形させ、チャージを開始する。
「ノイズを先に始末したいですか?でもそれはダメだよ。上を見るといい」
「……!」
言われたとおり、上を見るとそこには医療カプセルに入れられた少女の姿があった。
「その辺りで拾ってきた子だよ、非常に申し訳ない気持ちで一杯だけど……あなたと対等に戦いたいが為に人質になってもらったんだ」
「……アルカノイズを攻撃せずにあなたを倒せばいいのですか」
「そういう事、逆に言えば私を倒してからアルカノイズを始末するなら全然問題ないよ」
「……最低ですね」
「私達は何一つ自分の思う通りに生きられなかった……せめて死ぬ時ぐらいはワガママでいたいんだ」
まるで慈しむような表情でフェニックスの少女が人質の「彼女」を見ている事に詩織は気付く。
炎の剣一つだけを武器に少女が翔ける、紡ぐ歌からは悲壮さなど感じさせない。
それがまた詩織にとって、痛い程に気持ちが伝わった。
「……ウソが下手ですね、あなた達は」
「ウソなんてないよ、最後まで全部」
「誰かの為に死ねる、それは幸せかもしれません……ですが!」
再び炎の剣と槍が交わる、今度は拮抗する事なく、炎の剣が砕け、穂先がフェニックスの少女の胸に突き刺さる。
周囲のフォニックゲインで強化されていたのはファウトローブだけではない、詩織のガングニールもまた強化されていた。
だが詩織は驚愕の表情を浮かべた、本当なら相手を貫くつもりなどなかったのだ。
「……やっぱり、あなたを選んでよかった」
「なにを……」
「あの子をお願い、あの子が普通に生きられる様に……」
「あなた達はまさか最初からその積もりで……!!」
笑みを浮かべたファウストローブの少女が炎と共に灰と崩れていく。
「ごめんなさい、こんな形でしか出会えなくて……」
それが誰に向けた言葉なのかはわからなかった、ただそれだけを呟くとそこには彼女は崩れ、灰の山となった。
それを見届けるなりアルカノイズ達も次々と自壊をはじめ、その姿を消していく。
『……加賀美准尉!詩織さん!聞こえますか!?』
おそらく通信状態が悪くなっていたのもアルカノイズの影響だったのだろう、蛇喰補佐官の声がようやく届いた。
「……はい」
『そっちは……どうやら終わったのですね……錬金術師達は……』
「確保できず、皆死にました……ただ人質になっていた少女を確保、保護をお願いします」
『……わかりました、すぐに手配しましょう』
彼ら・彼女らは死ぬしかなかった、その死に方だけがただ一つ選べたものだった。
死を選んだ者達の過去を詩織はまったく知らない。
だとしてもそこに「愛」があったという事だけは理解できた。
そして、生き残らせたかった「希望」があった事も。
詩織はそれを踏みにじる事ができなかった。
「卑怯ですね、本当に」
アルカノイズ製造ラインの一つを破壊した事により平和へ一歩近づいた。
だがその代償として虚しさが詩織の心を埋め尽くした。