萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
私の手は繋ぐ為にある、そう言い切ったとしても私は響さんにはなれません。
この手は、誰かを守る為に武器を取れる手であり、血に染める覚悟のある手です。
誰かを傷つけるであろう敵を貫くのは、この手にしたガングニール。
『アルカノイズ、残存数60%。SG-XGはこのまま戦闘行動を継続。逃走犯の追跡は蛇喰補佐官はじめ一課部隊が引き続き行います』
「了解――……!」
アルカノイズを保有した犯罪組織を放置しておく理由なんてない、今回は麻薬密売人がアルカノイズを使ってきた為に公安から私達一課が引き継いだ形です。
しかし、私一人で戦うのも慣れたものです。
-Hyper Cyclone-
ガングニールの回転によって竜巻を起こし、ノイズを纏めて消し飛ばす。
「邪魔だぁああッ!!」
そして薙ぎ払い、瓦礫ごとアルカノイズを赤い塵へと還し、道を切り拓く。
『――准尉、すみません。敵アルカノイズの増援です、すぐに援護をお願いします』
「わかりました、決して無理はしないでください直ぐに向かいます」
残りのノイズは4割、撃ち漏らしは許されない――ですが……!
今の私には仲間がいる。
「待たせたな!」
ミサイルと銃弾の雨がノイズに降り注ぎ、剣の煌きが空を駆ける。
「ここは我々に任せて、詩織は援護へ」
「ありがとうございます!翼さん!クリスさん!」
S.O.N.G.は今、この日本にいるとなれば、対アルカノイズの為に出てくる事が出来る。
日本政府からの要請という事で、少しばかり時間はかかってしまいましたが!
ブースターを全開に交戦地点に私は移動する。
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車や建造物を盾にしながら一課の機動班がアルカノイズを撃つ。
本来のノイズよりも位相差障壁が弱体化しており、通常攻撃が効き易いとはいえ圧倒的に不利。
次々と死者が出る。
「へぇ……へっへっさすがのアルカノイズだ……それで旦那、約束したブツはもってきやしたぜ……」
麻薬の密売人の一人が錬金術師の男「ベル」に恭しく黒いスーツケースを渡す。
ベルがそれを開いて中身を確認すると大量の白い粉……「薬」が詰め込まれていた。
個袋一つを取り出し、それを確かめるとベルは満足げに笑う。
「よくやった、確かに俺達が求める程の純度の薬だ」
「へっへぇ、それでお代のアルカノイズは……」
「まあ待て、アルカノイズよりもこの薬には価値がある、見せてやろう」
ベルは手に取った粉薬を「練成」し、「赤い液体」へと変える。
「テレーネ、お勉強の時間だ」
「はい、先生」
ベルの言葉に応える様に、フードを被った少女がその場に現れる。
赤い液体と化した薬を少女テレーネの手に渡す。
「私が素材とした薬は人の意識をとろけさせるものだ、粉から液体、次はどうするかわかるかね?」
「はい、気体にして吸引させるのが最善と考えます」
「やってみなさい」
ふう、とテレーネが手の上の赤い液体に息を吹きかけると煙となった薬が密売人の男を包む。
「へっへぁ!?こっこれはぁっ!力が満ちてミチ……」
男はだらしなく表情を歪ませ、虚ろな目のまま肉体を膨張させ……異形の筋肉の怪物へと姿を変える。
「これがゾンビガスだが、不正解だ。気体にすればすぐに風で希釈されて効果範囲が狭まる。正解は水に混ぜるだ」
「申し訳ございません、してこのゾンビはどうしましょうか」
「せっかくだ、ゾンビだけを操作してあの連中を始末してみようか」
「わかりました」
少女テレーネの口から歌が紡がれる、それと同時にアルカノイズ達が動きを止めた。
様子がおかしいと顔を出した隊員の見たのは駆けて来る筋肉の怪物。
「撃てーッ!!!」
アルカノイズではない、だが人間でもない。
怪物であるのは間違いなかった、そう判断してから引き金を引くまでは一瞬。
しかし放たれた銃弾が怪物を止める事はない。
アルカノイズによって半分削られた車が吹き飛ばされ、振り下ろされた拳に後ろに居た隊員二人が一瞬で吹き飛ぶ。
「まずい、なんだアレは……!」
蛇喰補佐官はスナイパーライフルで肉の怪物の頭を撃ち抜こうとスコープを覗くが。
「頭が無いじゃない!」
隆起し、膨張した筋肉に埋もれて頭部が見えない。
そして怪物は落ちていた瓦礫を拾うと、それを投げる事で隊員の始末を開始した。
「させるものか!」
いくら怪物といえど少しは血が流れているなら殺せるはずだと手首を狙って無力化しようとする。
だが、感じた怖気に蛇喰は咄嗟に身を横に転がす。
それが命を拾わせた、投げつけられた瓦礫が寸前まで居た場所をクレーターへと変えていたのだ。
「化け物が……!」
崩れてきた瓦礫に足を取られ、蛇喰は動きを止められる。
これでは二撃目は回避できそうにない。
再び怪物が投石のフォームに入る、だが。
棒立ちのアルカノイズ向けて光が降り注いだと同時に、赤と白の輝きが蛇喰と怪物の間に舞い降りた。
豪速で飛び込んできた瓦礫は砂煙と化し、風に吹かれて消える。
「随分と、遅れてしまいました」
「加賀美准尉……!」
「あれはどうすればいいんですか、破壊ですか?捕縛ですか?」
この戦場に舞い降りたのは加賀美詩織、一人の防人だ。
「……アレは……破壊しろ」
肉の化け物の正体を蛇喰は知っている、麻薬密売人の男だったものだ。
捕まえて助ける方法も探せば見つかるかもしれない、何より詩織の手を血で染めるのは嫌だった。
だが無理な注文をして、彼女を危険に晒すよりはそれがいいと判断した。
「その怪物の破壊の責任は私が取る、頼む破壊してくれ」
「わかりました」
詩織にもなんとなくそれが何かわかっていた。
血、肉、四肢、膨張した筋肉に埋もれててもそれが「元」人間だと理解していた。
「……一撃にて!」
目を閉じ、右手のアームドギアを巨大なハンドユニットへと変換する。
赤い輝きを放つそれは聖なる輝きを放ちながら回転して突進してきた怪物に激突する。
-Blood Finger Tornado-
鮮血の竜巻と化して、怪物は跡形もなく吹き飛ぶ。
その余波は後ろに控えていた錬金術師ベルと少女テレーネにまで及んだ。
しかしテレーネの纏う白い光の球体によって衝撃は止まる。
テレーネの胸から溢れる輝き、そして「歌」。
聖詠。
「……これは……まさか……」
怪物を葬った一撃を受け止めたもの、それはシンフォギア装着時のバリアフィールド。
聞き取れた聖詠は「イカロス」のもの。
そして分解されたローブの下には風鳴翼によく似るが幼さの残る顔。
「そう、そうだよ。加賀美詩織、君が俺達にくれたものさ!これがぁ……!」
ベルは大笑いし、もったいぶるように宣言する。
「これがぁ!君と俺達のシンフォギアだぁっ!!」