萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
色々なモノを得て、色々なモノを学んで、色々なモノを知って、私はシンフォギアという作品と出会えた事にただ感謝するだけです。
部屋の中、私達は向かい合って抱きしめあう。
今日、私ははじめて自分から翼さんを抱きしめた。
抱きしめられ、抱きしめる、その温かさに苦しみは溶けて、涙と一緒に流れて落ちる。
「翼さん……私は、私は……翼さんと出会えてよかった。今日まで生きてきてよかったって心の底から思います」
違う心を持ち、違う意志を持ち、違う世界を見ている人と共に存在できる事、共に側に居られる事。
孤独で、どこまでも自分だけしか無かった私にとってそれは何よりも尊く、何よりも美しくて、何よりも……嬉しい事です。
今、ここにいるのは私と翼さんの二人だけ。
気を利かせてくれて二人きりにしてくれた事はとても嬉しい、けど私としては皆と一緒もよかったけど……その気遣いに感謝して……私は翼さんに伝えたいと思う。
「私はずっと怖かった、何も無い孤独な世界も、貴女と出会って変わっていく世界も、皆と共にある世界もいつまで続くのかと……でも今日まで生きてきて色んな事を知った。数え切れない程悩んだ、数え切れない程笑えた、数え切れない程に……私はあなたが愛おしくて……美しいなって思いました」
これは「愛」の告白……それは今更、でも私の本当に伝えたい事。
「だから私に、一つだけ……許しをくれますか」
「……何をだ」
「誰かを傷つけてしまっても、変わってしまっても、私が……加賀美詩織があなたのことを……風鳴翼の事を好きでいる事を、愛し……想い続ける事を許してくれますか?」
いつか翼さんに誰か好きな人が出来て結婚したりしても、いつか命に終わりが来て、言葉を交わせなくなったとしても。
片想いを、永遠に続ける事への許し。
「……誰かを想う事、感じる事、願う事……それに許しなんていらない。それでもというなら、それが詩織の本当にしたい事なら、私は詩織を許す」
翼さんの言葉としてそれを聞けた事に、私を縛っていた糸は解けた。
もう、進む事が出来る。
「……私は翼さんが好き、翼さんになら殺されてもいいと思ってるし壊されたって構わないぐらいに好き……ほんとに……」
変わらず翼さんの事を想う事が許されるというのならば、私はもう怖くない。
「私も、詩織の事が好きだ。楽しそうに笑う詩織の事が好きだ、バカな事をやって人を笑わせられる詩織の事も、仲間思いで無茶しがちな詩織の事も、自分の戦う意味を探し続ける詩織の事も、私の事をずっと追いかけてくれる詩織の事も大好きだ」
翼さんの手が私の顔を向き合わせる。
今、この瞬間だけは……二人きり、互いの瞳に映るのは相手だけ。
「だから詩織には笑っていて欲しい、誰よりも熱く、誰よりも強く詩織を抱きしめさせて欲しい」
痛いくらいに苦しい程に私の胸の中に愛おしさが満ちる。
「こう……ですか?」
今の私に出来る、一番の笑顔を作る。
「やっぱり、詩織は笑っているのが一番だ……私はそう思う」
翼さんとの距離がさらに縮まる、私も背伸びをして、近づける。
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空き部屋で留守番をしていたカメリアがむすっと不機嫌そうに頬を膨らませる。
「お姉さまから知らない女の匂いがします……!」
「知らない女じゃありませんよ!翼さんですよ!」
「ああ……お姉さまが大好きな……あの」
不機嫌は一応は納得したという表情にかわり、それに詩織は笑う。
「ええ、大好きも大好きの私の翼さんですよ」
「私のお義母さん候補という……」
「っそそそそそそれはですねぇ!……私どもの権限ではお答えしかねますが……」
激しくどもる詩織、それを見てカメリアは表情を笑顔とする。
「よかった、お姉さまが笑顔に戻って」
「ええ、沢山迷った、沢山後悔しました、それにこれからも沢山傷つくかもしれない……でも諦めない」
「……やっぱり私のお義母さん候補じゃないですか、翼さん」
自分も詩織の事を支える事が出来るのに、と少し嫉妬の気持ちも抱えながら、カメリアは翼に感謝した。
詩織は、お姉さまは笑っている姿が一番綺麗だ、お姉さまを世界で一番笑顔に出来るのはきっと風鳴翼という存在。
だけど私も諦めない、お姉さまを笑顔に出来るのは私も同じだということを教えてやろうではないかとカメリアが不敵に笑みを浮かべた。
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機能の復帰した本部の食堂で食事をしている翼の隣にマリアが座る。
「それで、詩織とはどこまでしたの」
「ななななななにをいうかマリア」
開口一番の直球に思わずどもる翼、それを見てすまし顔でマリアは指摘する。
「随分長い時間くっついていたようね、詩織の匂いがはっきりわかるわよ」
「それは私も気になりますなぁ!」
「立花ッ!からかうな!」
さらに逆サイドに響が座り、翼の逃げ道を防ぐ。
響は恋バナやアレやコレが大好きなのだ。
「詩織はまだ未成年よ」
「別に不純な事など決してしてはいない。ただ……自分でも思い出して恥ずかしくなるぐらい彼女に対する好意を熱く語りすぎただけだ」
「ほほー……!つまり告白!」
「端的に言えばそうとも言うが……だが……」
翼は静かに笑みを浮かべる、がそこには少し寂しさのようなものが混じっている事に響とマリアが気付く。
「互いに想いあっていたとしても、互いの全てを言葉と伝えるのはこんなにも難しいんだな」
「そうね……翼の言う事はよくわかるわ。相互理解を拒むというバラルの呪詛があるというけれど、それがなくともきっと人の心全てを伝えるのは難しいと私は思う」
それに響も思うところがあったのか共感を覚えた。
「私も、未来も……お互いに全部が通じ合えていると思ってた、けどそうじゃなかったし、今でもきっと互いの中でわかりあえてない場所があるかもしれないのかな」
誰よりも好きで、誰よりも愛している存在の全てを知りたい、でもそれは自分のワガママだ、と響は少し困った様に笑う。
「いいじゃないですか、誰も彼も成長するし変わっていく、だからどこかで違いとか、知らない一面が生まれる……と思いますよ?響お姉ちゃん?」
そこへやってきたのはカメリアと。
「人間の奥深さという感じでどうでしょうかね?海の様に深い心でそれを「許しあう事」が何よりも美しいと私は思いますよ?」
「……そうだ、そうだったな詩織」
翼の対面の席に詩織が座る、表情はさっきまでの死にそうだったそれとは違う。
穏やかで、満ちている笑顔だった。
「許しあうこと……」
「私もまだ、全てをどうするか決めてません……ですが……翼さんの許しを得た私は無敵ですから」