萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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今日は二回目の更新です。


遥か彼方から

 若き頃の記憶が蘇る。

 

 錬金術という技術を手にして浮かれていた頃の記憶、フランクは未知を解き明かさんと「黒い森」と呼ばれる呪われた禁足地へと立ち入った。

 

 無知とは罪であり、知りすぎる事もまた罪だ。

 

 そこにあったのはこの星のありとあらゆるものと「祖」を異とする、本物の未知であり「恐怖」だ。

 先行した教授を始め、同行した探索者達が次々と姿を消していく。

 

 狂った様な笑いと、鼓膜が破れ、脳が砕かれる程の「叫び」。

 

 深淵の彼方からやってきた「本物の恐怖」の前では人間などゴミ、いやカスにも満たない。

 

 だが「混沌」はそのちっぽけなものの恐怖が何よりも大好物だった。

 

 

 故に彼だけは生かした。

 しかも「深淵の叡智」の一つを授けた上でだ。

 

 それがアヌンナキの生み出した人類へ多くの恐怖と混乱を植え付け、悲劇と惨劇という喜劇を見せてくれるからと混沌は知っていたから。

 

 その混沌は、かつてアヌンナキ達と抗争を繰り広げた超越存在の一つであり、黒き森に封じられていたのは侵略の為の端末の一つ。

 

 だがその端末一つでも人類にとっては抗いようの無い脅威なのだ。

 

 

 

「……絶対的な力と、絶対的な暴力、恐怖をも塗りつぶす力、それこそ我々の「王」に必要なものだ」

 

 現在に意識を呼び戻し、分解したLinkerから製造法を「理解」する。

 

「俺を生かして返した事を後悔させてやる、それだけが……俺が望むものだ」

 

 錬金術思想とは未知を解き、神の摂理さえも引きずり細切れと解剖する事だ。

 

 自分の娘と生み出した者が、あるいは作り出した技術があの日の恐怖を踏み潰すのなら、あの傲慢で邪悪な混沌を滅ぼすのならなんでもいい。

 

 その手段が全てを焼き尽くす暴力であっても、大勢の人間を巻き込み犠牲とするものでも。

 

 

 

「ああ、やはりお前は面白い男だよフランク」

 

 

 その娘が、望んだ怪物の王こそが……混沌の依り代となっている事さえ知らずに。

 

 

 

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 虹色の結晶の広がる砂漠にはいつの間にかオアシスまで出来ていた。

 加賀美詩織の精神の中に広がる風景は随分と綺麗なものとなっていた。

 

 とはいえ、詩織がこの光景を見るのはフェニックスが関わっている時であり、眠りについている時だ。

 しかし、ファウストローブは今、手元にはない筈だった。

 

 詩織は反響から割り出し、そこに「在る」ものへと視線を向ける。

 

「……バラルの呪詛により断章のさらに欠片と封じられた我を感じ取り、よもや認識するとは」

 

 純白の肌を持つ人ならざる人、ほんの小さな欠片にも満たない存在であり、なによりも強固な「個」としての存在を確立した詩織をどうこうできる程の力はないが、確かに「超越的な存在」としての気配を放っていた。

 

 詩織は思考を巡らせる、目の前の存在が何か、少なくともバラルの呪詛の存在を知ってるという事は先史文明に関わる存在か。

 

「あなたは、誰?」

「我が名はシェム・ハ。お前達がカストディアン、アヌンナキと呼ぶものの一つ。お前達の創造者側の存在よ」

 

 どうやら読みは当たったらしい、だがその「神様」が一介の少女に何故宿っている?

 いや、詩織には心当たりがあった。

 

 詩織は神に関わった事がある。

 

 人柱の神、一つとなる事でその孤独と痛みから逃れ、安らぎを求めたもの。

 だが、かの神はこの星の生命の循環へと帰った。

 

「お前の想像の通り、あの「合一化」した者達が残した分の我が欠片とお前の中の欠片、そして多くの他者との繋がりが蓄積した結果、認識できるまでに我は再生した」

 

 なるほどと、詩織はあっさりそれを理解する。

 だがその神様を目の前にして、詩織はある感情が浮かぶ。

 

 それはシェム・ハも予想しないものだった。

 

 

「ありがとうございます、私達人間を生み出してくれて」

 

「……我々がどういうつもりでお前達ヒトを生み出したのかも聞かずにか」

 

「たとえ何か目的があったとしても、今日に私がここに存在できて、多くの人と存在できるのはあなた達アヌンナキのおかげです」

 

 ヒトはアヌンナキが居たから生まれた、そしてヒトが生きて歴史を紡いだから加賀美詩織という少女が今ここにいる。

 そこにどんな理由があったとしても、現実には変わりが無い。

 

「……はぁ、興が削がれた。お前を乗っ取って我が寄り代とするつもりが失せた」

「最初からそんなつもりがない様に感じましたが」

「仮にも神に対してなんだその態度は」

 

 アヌンナキも決して完全で完璧な存在ではない、同じ種族であっても争う個と個の存在だ。

 そんな中でシェム・ハは、繋がれない痛みと苦しみ、そして孤独を癒す為に全ての命を一つとする事を望んだアヌンナキだ。

 

 繋がれない、理解し合えない存在であるなら無理矢理にでも繋がろうとしただろうが、向こうから歩み寄り、理解しようとしてくるなら態々そうする理由はない。

 

 気安く、自然体で、あるがままを見せてくる詩織の存在は、決して悪くは感じなかった。

 

「それは置いておくとして、お前は我々アヌンナキが設計した状態から逸脱した存在にもかわらずに他者と繋がれる事が出来るのだな。我としても驚嘆に値する」

 

 フェニックスの因子により幾度となく死と再生を繰り返した詩織の存在は、当然ながら普通の人間と違う形を持つ。

 例えるならばスクラップ&ビルドが繰り返され、内側のソフトウェアさえもアップデートとオリジナルのプログラムでごちゃまぜになったスパゲッティコード。

 

 キメラアダプトとでも呼べるようなありさまだ。

 

「仮に私が前のままだったとしても、繋がる為に、共に存在する為に歩まなければいけない道のりはきっと苦しいし痛いし、悩んだり迷ったりしますし、全部を伝える事なんてできないですが……それでも私は私として存在する事を……他者と共に居られる事を祝福だと思います」

 

 そこに痛みが在る事も、苦しみが在る事もウソではない。

 すれ違う事も、伝えられない事もある。

 

 でもそれをひっくるめて、個で在る事を「祝福」とする少女。

 シェム・ハはそれを理解した上で、体の制御を乗っ取る事は無理だと判断する。

 

 それに「メガラニカ」からも、己の断片が浮上してくるであろう事も感じ取れている。

 「祝福」を実行するのは別にその断片であっても構わない。

 

 最後には一つとなる。

 

 この個で在る事を喜びと取る少女も、その少女が愛する者も、自分と分かり合えなかったアヌンナキ達も。

 

 だから今は動かなくとも良いと、シェム・ハの断片はそれを許した。

 

 

 


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