萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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繋ぐ手、伸ばす手

「そちらの事情は理解した、S.O.N.G.は君達を助ける事を約束しよう。急ぎ日本政府でも俺の兄である風鳴八紘が動いてくれる筈だ」

「……本当に助かります」

「稀血も、カメリアくんの件で十分に用意してある。必要ならいつでも言ってくれ」

 

 至れり尽くせりな待遇にヴァネッサ感謝と共に弦十郎に頭を下げる。

 

 詩織が行ったのはS.O.N.G.とノーブルレッドの繋ぎ。

 彼女達が今日を、明日を生きるために必要な事である「助け」だ。

 

「君達が提供してくれた多くの情報は俺達にとっても重要なものだ、南極から浮上する「棺」の存在や、錬金術の事、そして敵である錬金術師「ベル」と「フランク」の事もだ」

 

 ヴァネッサ達はS.O.N.G.に足りてなかった多くの情報をもたらした、その中には「敵」の情報もあった。

 

「風鳴訃堂に依頼されて彼らの始末を任された時に、彼らの写真を見て驚いたわ。まさか良く知る人物、私達を怪物と貶めた者の一人……私達の標的として選ばれるなんて復讐の女神でも舞い降りたのかと思った。でも今は……復讐なんてどうでもいいわ」

 

 以前に詩織が戦闘した際の映像に映っていたベル、そして彼の「相棒」であるフランクをヴァネッサは良く知っていた。

 まだ「構成員」としてファウストローブの研究に携わっていた頃から、彼らは「問題児」としてよく話題となっていた。

 

 怪物を作りたいがあまりに、スカウトしてきた錬金術師を材料にしたり、見つけた聖遺物を横領したり、ただアダムにはある程度の忠誠があり、サンジェルマン達も存在を把握してはいなかったが。

 

 

「ベルあるところにフランクあり、彼らはコンビを組んで好き勝手をしていたわ。私達の改造には直接は関わっていないけれど「怪物部門」の中でも大きな力を持っていた。底の知れない男達よ」

 

 

 正直、彼らの戦闘技能は大した事はない。

 だが彼らの作りだす怪物は間違いなく脅威だ、たとえ万全であってもノーブルレッドの三人だけで勝てるか怪しい程に。

 

 

 

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「わぁ!ケモミミデース!!」

「マリアのあの髪型と違って本物の耳!!」

「そっそこは!びっびんかんなのでやめるであります!」

「あっごめんね、切ちゃんもモフモフはやめよう」

「ごめんなさいデス、でもエルザちゃんはカワイイデース!」

 

 ヴァネッサが弦十郎と情報交換を行っている間、エルザとミラアルクは装者達と交流を深めていた。

 

「随分苦労をしたんだな、アタシも昔バルベルデで捕まって奴隷にされてが……やっぱり世の中にはそういう趣味の奴も多いんだな」

「ウチを攫ったクラブの奴らも結社の奴らもロクな奴じゃなかった、だからエルザがいきなりここと繋がりを持ちたいだなんて言い出して、ウチは心底肝を冷やしたぜ」

「安心しな、ここはきちんとアタシらに居場所をくれる。それに帰るべき場所だって出来る筈だ」

「……帰るべき場所?」

 

 クリスはミラアルクの過去に自分の過去を重ねる。

 

「帰るべき場所ってのは暖かいんだ、どんなに傷ついても、迷っても、そこに帰ってくれればまた進もうって気持ちになれる」

「でも今のウチらは日の下で歩けない」

「うちにはバカが三人いるけど、バカ一号はひだまり、バカ二号は日陰、しっかり両対応だ。だから安心しな」

 

 ミラアルクの手を取り、クリスが力強く微笑む。

 繋ぐ手に、ミラアルクは共に過ごす二人以外の温かさを知った。

 

 それはエルザも同じだった。

 苦しい過去を持って、消せない悲しみを背負って、それでも明日を目指す切歌と調を信じようと思えた。

 

 誰かと手を繋ぐ事、その為に手を伸ばす事、助けを求める事は簡単じゃない、だけどそれが出来たのなら。

 

 きっと孤独は溶けてゆくのだろう。

 

 

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「ん……詩織らしい手の伸ばし方だな」

「あの人達が私に救える誰かだった、それだけです」

 

 部屋に二人きり、互いの手を取り、体を寄せ合う。

 

「誰かの為にあれる、それはとても尊い事だ、でも……」

 

 翼は強く詩織を抱きしめて、顔を寄せる。

 

「でも今は私だけの詩織でいて」

 

「は……はい」

 

 独占欲丸出しの言葉に、溶けそうな瞳で詩織は返した。

 

 しっとりとした雰囲気が揺らぐそんな世界を。

 

「たのもー!」

 

 ムードを粉砕して現れたのはカメリアだ。

 

「お楽しみの所、悪いのですが!お仕事の時間です!」

 

 むう、翼は残念そうな表情を浮かべるが仕事であるなら仕方ない、気持ちを切り替えて、身だしなみを整え、さりげなく詩織にキスをする。

 

「はいごちそうさまですが、お姉さまもほら、呆けてないで出撃準備ですよ」

 

「……はい、詩織働きます……」

 

 滅茶苦茶しょんぼりした表情を浮かべ、詩織も気持ちを切り替えて動き出す。

 

「それで、状況は?」

「アルカノイズが同時に複数個所に出現、一箇所は偶然近くに居た響さんが交戦中だそうです」

「わかった、急くぞ。詩織」

「はい!」

 

 アルカノイズを使う、という事はあの錬金術師が相手の可能性が高い。

 そして今、動くであろう存在は彼らしかない。

 

 だがそれ以上に。

 詩織は何かもっと大きな気配を感じた。

 

 暗黒の彼方から見つめられる様な、大きな不安。

 

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「そろそろ説明してくれよフランク、なんで今更アルカノイズをばら撒いた?」

「……悪いなベル、それはできないんだ」

「……は?」

「お前はよき友だった、十分に俺の役に立ってくれた」

 

 フランクの手がベルの胸を貫通する、即死だった。

 

「どうか真実を知る事なく眠れ」

 

 これから行う「儀式」を知れば、共に怪物を作り上げたこの共犯者は絶対に自身を止める。

 故にフランクは自分自身の手でベルを殺した。

 

「親父殿、レイラインの練成陣も無事に出来上がったよ」

「ありがとう、ライドネー……ではそろそろ行こうか……お前を最強の怪物の王へと完成させるために」

 

 各地に同時に現れたアルカノイズ、それはレイラインに「陣」を描く為のインクにすぎない。

 鏡写しのオリオン座と同じ様に、七つの星と七つの音階を示す為の楽譜を描く。

 

「さぁ……後悔させてやるぞ、混沌」

 

 その後ろで邪悪な笑みを浮かべるライドネーの姿に気付かずに、フランクは道化と踊る。


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