萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
霧が都市を覆う、それを一番近くで見ていたのは響だった。
「……え、何……これ?」
倒したアルカノイズはいつものように赤い塵、プリマ・マテリアへへと戻る事なく、煙となって霧へと混ざっていく。
霧は太陽の光を遮断し、周囲が静寂に包まれる。
『響さん!聞こえますか!』
本部からぬ通信、エルフナインからだ。
「はい!こっちのノイズは全部やっつけたんですが……変な霧が……!」
『今すぐ霧から離れてください!その霧は危険です!』
「でも!霧の方角には避難した人達が……」
『……もう、そっちには無事な人は……いません』
「え……」
『生命反応が、ないのです』
エルフナインから告げられた残酷な現実。
呆気にとられる響の側に風を切る音が聞こえた。
「響さん、直ぐに離れましょう」
「そうだ立花、霧は広がり続けている。雪音やマリア達も一端距離を取っている」
「どうして……どうして!」
突如として街を覆った霧、あらゆる電波や熱源反応、そして音さえも吸収遮断するそれに対して、一時後退の命令が下された。
アルカノイズの出現によって外側に避難したものを除けばおおよそ20万人近くが霧の中に取り残されたと推測されている。
「……待ってください、あれは」
そんな中、詩織は「何か」が動くのを「感じ取り」霧に向けて「衝撃砲」を撃ち込む。
巨大なソレにぶつかった攻撃が霧の中で輝き、その「影」を表した。
それは長い足、巨大なクモかカニのような、「怪獣」のようだ。
取り巻きの様に人間サイズのハエが何匹も何十匹も飛びまわっている。
まるでこの世界の光景ではないようだ。
「なんだ……あの怪物達は!!」
自分達の理解を超える現実に、ただうちひしがれそうで。
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ダイダロスの迷宮、ダンジョンエディットが可能な哲学兵装。
ノーブルレッドの三人が使うそれと同じだった。
彼女等三人が自身を「怪物」と見立てて作り出すそれに対して、建造物……街そのものを迷宮と見立てたなら「怪物」を召喚する事も理論上は可能であろう。
「Linkerと俺の作った「改良型パナケイア」を混合し、気象操作によって霧と気化散布……さすれば、怪物どもの棲む異界を繋ぐ迷宮を生み出すだけの術式が作れるわけだ」
フランクが行ったのは大勢の人間をアルカノイズによる恐怖、霧という恐怖、そして全ての情報が断たれるという恐怖の3つの恐怖で纏め上げる事。
霧の中に取り残された20万人はまだ生きている、だが恐怖の中身を寄せ合うしかない、放って置けばやがて混乱と狂気が訪れる。
だがフランクの目的はそんなものではない。
「さて親父、そろそろ私の仕事ってわけだな?」
「そうだ、ライドネー……「人の心を繋げ」」
セイレーン
それは航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人を惑わし、遭難や難破に遭わせる海の妖魔。
先の見通せない霧という恐怖で動けない者達に「希望」を与えるには十分だ。
ライドネーは聖詠によりイカロスを纏うとビルから真っ逆さまに堕ちて、呼び出された怪物に向かって触手を突き刺す。
「まずはキミからいただこうかな」
メキメキと触手は侵食し、怪物を「ライドネー」が取り込んでいく、当然ライドネーの姿も変質する。
ギアは異形のモノへと変わり、少女の上半身だけが怪物から出ているといったものだ。
異変に気付いた他の異形達が次々とライドネーの歌声に誘われてやってくる、それを次々と突き刺し、同化して、無力化していく。
そして人々を襲う怪物に対しては形成したビット型のアームドギアで対抗し、「希望」を与えていく。
「シンフォギアだ!シンフォギアが助けに来てくれた!」
どこからか、希望の声が上がった。
恐怖も、狂気、希望も伝播するものだ、人々はライドネーの歌に聞き惚れ、彼女を応援する。
そして彼女の歌に合いの手をいれたり、共に歌い出す。
静寂に包まれていた街がいつのまにか「歌」によって包まれていた。
それをフランクが見下ろし、頷く。
やがて怪物達はその姿を消し、残るは最大最強の怪物。
「恐怖を与えられてこそ、希望は尊く輝く。希望を与えられたものにこそ……本当の恐怖は恐ろしく、突き刺さる」
晴れて行く霧に、街に取り残された人々は歌声の主を見た。
そんな可憐な救世主なのだろうか。
期待と尊敬の眼差しで空を見上げた。
そこには天を穿つ異形の柱、肉塊で出来た化け物の塔が立っていた。
「フォニックゲイン、生命エネルギー、共に万全……さあ羽化しろ!ライドネー!いやセイレーン!!」
最大級の絶望の「歌」によって繋がれた人々が次々と自我を失い、呆然と立ち尽くす。
肉の塔が黒く染まり崩落する。
中から現れたのは漆黒の少女。
どんな夜よりも黒く、どんな奈落よりも黒い、恐怖と絶望の権化。
「ああ!やったぞ!成功だ!」
「すごいよ、親父」
ふわりと浮かび上がり、セイレーンはフランクの元にやってくる。
「ああ!お前こそが怪物の王!救世主だ!あの宇宙の彼方からやってきた混沌を倒しうる俺の希望だ!」
心の底から嬉しそうに叫ぶフランクに対してセイレーンはやさしく微笑む。
「そうだね、ありがとうフランク。キミはその混沌に復活の為の最高の肉体をくれたんだ」
その言葉をフランクが理解できたのは、セイレーンの顔があの夜に見た「暗黒」そのもので、顔のない顔であったからだ。
「あ……あ……」
「キミの与えた知識は封印された僕そのもの、それをキミは全て紐解き、こうして完成させる事が出来た。だから精一杯の感謝がしたいよ」
全てはこの神の。
「混沌」の手の上だったのだ。
「さすがに復活したばかりで力のある化身の数万の一にも満たないぐらいしかできないけど、君の願いはなんだい?」
「けて………」
「なんだい?よくきこえなかったけれど?」
顔を青ざめさせ、ガタガタと震えて涙を流すフランク、それに対して風鳴翼によく似た可愛らしい表情で混沌は嘲笑う。
「誰か!助けてくれえええええ!!!!」
フランクの全ては壊れた、積み重ねて来た時間も犠牲も、思いも、膝から崩れ落ちて、地に伏す彼を見て混沌は愉悦の限りの笑い声をあげる。
「あはははは!!そうだぁ!その顔が!みたかったんだぁ!!キミの全部が壊れるその顔がぁ!!」
全てを失い、完全に廃人と化したフランク、十分に楽しませて貰った礼はしようと混沌が触手を伸ばす。
だが青き煌きが触手を切り落とし、赤き一撃が混沌を吹き飛ばす。
宙で受身を取り、混沌が振り返る。
「……おっと、君達を忘れていたね……初めまして、僕の名は混沌……生きとし生けるもの全てを恐怖と絶望に叩き落す事が僕の趣味さ」
それなりに力を込めた一撃だったが、まるで効いている様子ではない。
ただ完全に無効化できた訳ではなく、赤の……詩織の一撃は効果があったようだ。
「神殺し……キミ達の方から来てくれたおかげでこちらから暗殺しにいく手間が省けたよ」
その場に現れたのは詩織と翼、そして響の三人。
だが三人は歌こそ口にすれど、混沌の言葉には乗らない。
それがこの神に対する最大の対抗手段だと知っているから。
「なんだい?僕とはお喋りしてくれないのかい……?」
不機嫌、不満そうに顔を歪める混沌、だがそこで詩織が口を開いた。
『久しいな混沌、いや「這い寄る混沌」』
だがその声はいつもの可愛らしいものではない、圧倒的なまさに「言葉」と突き刺さる概念の様な声。
「その、声は……」
『アヌンナキはこの実験所を去り、我は断章と砕かれた、故に貴様を滅ぼすのは我ではないが……そう、あえて言わせて貰おう……』
詩織の体ではなく、言葉を借りる事で世界にその存在を示すのはこの星の神。
『我らの子らに手を出した罪、高くつくとおもえ』
シェム・ハだった。