萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
「お前から来るという事はついに覚悟が決まったと見る」
「ええ、そうですね……私はようやく貴方に向き合う覚悟が出来ましたよ、風鳴訃堂」
顔を隠した二人の侍女が深く頭を下げた後に部屋を後にする。
静かに何処までも清らかな空気が場を支配する。
詩織は心を凪の様に落ち着かせ、切り出す。
それは決戦の宣戦布告。
「私は自分のしてきた事に、歩んできた道に答えを出さなければならない。その為に、風鳴訃堂……貴方に勝つ」
「その覚悟の程、試してみせようぞ。これがワシの課す最後の試練ぞ!加減はせん、殺す気で往くぞ!」
瞬間、爆発の様な圧が壁と天井を吹き飛ばし、二人が同時に屋根の突き破る。
聖詠さえも口にせず、既にガングニールを纏った状態で月の輝く空に飛びあがった詩織が瓦の上に立ち、両腕のアームドギアを構える。
一方の訃堂は護国挺身刀「群蜘蛛」を構える、それは不退転であり、命の果し合いに相応しいと「詩織」を認めた為の抜刀だった。
「風鳴訃堂、あなたには結社残党への支援による内乱罪など諸々の容疑により逮捕状および、殺害の許可と風鳴機関の権限凍結の決定が下されて居ます。降伏しろなどとは言いません……私の手で貴方を打ち下し、逮捕します」
「人の使い方、法の使い方、権力の使い方は良し……だが武ではどうか!」
詩織の成長に歓喜の極み、訃堂は瞬歩により踏み込む「必殺」の一撃を振るう。
訃堂の心技体、全てが加わった群蜘蛛はまるで空間さえも斬り裂く様に詩織に迫る、だがそれを両の手のランスで防ぐ、衝撃波が屋根を押しつぶし、屋敷の一角が吹き飛ぶ。
「我が一撃を受けるか!」
「宣言します、私は一歩も引かない。貴方に勝つ為に!!」
詩織の心技体、それは訃堂の名に対する不動という皮肉。
絶対に引かないし、逃げも隠れもしない、正面から全てを受け止めるという宣言だ。
「果敢無き哉!だがお前であるが故に面白い!!逃げ!引き!敗北してきたお前が吠えるが故に!」
不可視の連撃、それは弦十郎や緒川、そして最大まで神経を研ぎ澄ました翼の様な人類の最強格でもなければ見切れない「死」の連続。
だが詩織は一歩も後ろに下がらず、むしろ前に出た。
それが最善であり、それが最高、そして最良の選択。
攻撃全てが急所を回避し、全ての死が掠り傷となる、ガングニールの装甲を切り崩す程の威力だというのに詩織の体に付く傷は全て薄皮を斬るだけ。
「私はッ!!皆がいたから!ここまで強くなれた!歌があったからここまで来れた!」
詩織を支えるもの、それは多くの者によって愛され、多くの者を愛した事で作られた加賀美詩織の意志そのもの、故に詩織は前に進む。
痛みなんかではもう止まらない、紡ぐのは感謝の歌、それが向けられるのは仲間だけではない、互いにぶつかり戦うしかなかった強敵・仇敵達さえも含まれる。
最短で迷わない一直線の最速の一撃、それは訃堂でさえ一瞬の判断を遅れさせる程の華麗な一撃。
残念ながらそれが群蜘蛛、そして訃堂を捉える事はなかったが、衝撃波で遥か遠くの塀まで粉砕する程の威力。
「くはは!前に歌では世界は救えないといったな!あれは撤回してやろうではないか!」
詩織「達」の歌が生み出す力、それを訃堂は認めた、確かにこの歌は世界の運命を決めうる力だ。
「ワシはずっと一人であった、ワシはヒトよりも国……とりわけ自然、野山を愛していた。故に正直にいえば人間などどうでもよかった!それ故に腹心と呼べるものさえ出来んかった!子や妻ですら道具としか思えなかった!」
人は共に歌ってくれる、だが木のさざめきや川の流れ、そして風と人は共に歌えない。
「ワシは、お前達が羨ましい」
風鳴訃堂の「国」への愛は決して消えては居ない、だが人を愛するという詩織達の愛への羨望も感じていた。
もしも、その様な事を感じさせるものが若き頃にいたならば自分は怪物や外道、そして鬼などと言われない、人の為の防人になれていたのかもしれない。
若干の後悔が訃堂の胸の中に生まれるが、全ては過ぎた事なのだ。
ありとあらゆる手と、道具と、権力を使い、明日に繋がる今日までの過去を描いてきた。
「後悔はある、故に……こそ!ワシがしてきた事が無駄ではないとお前自身が証明してくれる事に感謝もある」
風鳴訃堂は国防の為に風鳴機関を率いた、そして特異災害対策機動部二課でシンフォギアシステムを開発する為の場を整えた、故に詩織がここに至る運命の一端は訃堂にこそあった。
「ワシが風鳴の血を強く残す為に八紘の妻を孕ませ、翼を生ませた。そして八紘がワシの意志に背き、翼に歌女と夢見る事を許した……それがお前という人間を救い、今この場所に立たせた。ワシの悪行が、こうして還って来たと思えば、運命とは数奇で……因果なモノよ……!」
思えば長い人生、100を超える歳を重ね、そろそろ人生の終わりも近く感ずる程に訃堂は衰えていると自分では感じていた。
だからこそ「果」を急いだ、自分が生きた証を、自分が満足できる形で欲しいと望んでしまった。
「……貴方は最善を尽くしました。その過程で犠牲も出たし、救われた者もいた。そこは……クッソ迷惑を受けた私からも認めたいと思います。だけど……貴方は選ぶのを早まったかもしれませんね」
申し訳なさげに、詩織が笑う。
それは儚げで、今にも泣き出しそうな笑みだった。
「何故そんな顔で笑う」
「私が今日ここに来たのは、未練と憂いを断つ為……もしも私が「去る」事を選んだのなら貴方の望みは潰えるでしょうね」
詩織が今日に、決着の日を望んだのは来るべき選択の時の為だ。
もしもこの星を去る事を決めたなら、詩織にこの国は守れない、防人の肩書きなど意味をなさなくなる。
そして詩織にとってこの星で、今最も自身を殺しうる「敵」は訃堂だけ、ここで敗れ死ぬという選択もまた心のどこかにあった。
「去る?お前が?何処へ行こうというのだ?」
「あの星の空、この星に……人々に神はもういらない」
一瞬の思案の末、訃堂は答えを見つけた。
「あの混沌とかいう神の事か?あの様な低俗な存在など気にする事ではないであろう、それに打ち倒したのはお前自身、ならばお前こそ真の神としてこの地に君臨すればよいだけの事」
古き支配者らしき訃堂の考え、だが詩織が思う事はそうではない。
「……子はいずれ親の手を離れる、アヌンナキが生み出した人間は、アヌンナキの手を離れて自分の力で歩んでいく……私は神の力によってアヌンナキと等しい存在となろうとしている。過ぎた力を持つ個は集団の中で生きていく中では邪魔だという事です」
人類の独立、詩織の考えるものは既に個としての人の判断を遥かに超えたもの。
よりマクロ的な思想へと至っていた。
だからそれを訃堂が笑った。
「果敢無き哉!!たかだか20も生きておらん若造が神気取りか!」
「そりゃ事実、神ですからね」
「それよりもお前は一つ大きな見落としをしている」
一世紀、この人の世を生きれば見えるものもある。
自分が選ばなかった道といえど、見えるものがある。
「大人になり子が独り身を立てたとして、それが永遠の別れになるなどそうはあるまい。ましてや親と共に暮らして何の問題がある?ワシらの時代では三代揃って一つの家に住むなどそう珍しい事でもなかったぞ?」
訃堂にとっては家族さえも道具にすぎなかった、だがそれでも「知って」いた。
それが詩織との最大の違いだった。
「はは……」
なんでこんなクソジジイに教えられているんだろう、と詩織は嬉しさと悔しさの混じる笑顔の涙を流す。
迷いは吹っ切れた、選択肢はこんな所にも落ちていた。
「……まったく、手のかかる弟子よ」
それを見て訃堂も安堵の溜息を吐く。
「貴方に心から感謝します……ですが、逮捕はさせてもらいますよ「師匠」」
人は変わる、自分から変わる事もあれば他人の影響で変わる事もあるし、他人を変える事もある。
ぶつかり、手を取り、互いに形を変えていくからこそ、人は美しい。
決闘の第二幕が始まる。