萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
今日は少しばかり気分が優れず、学校を休む。
原因はまぁ、なんというか。
翼さんのライブを会場で見れなかった事だ。
確かに司令が録画していてくれたおかげで中身を知る事は出来た。
だがそれ故に、それ故に、尚の事、会場で見れなかった事が悔やまれ。
なによりも誘ってくれた翼さんに申し訳ない気持ちが山積みとなって仕方が無い。
ぶっちゃけ、翼さんに会うのが怖い。
所謂、逃げの休みである。
相変わらずこういう所は変えれない、変われないなーと思う。
自分の気が進まない事は後回しというか、逃げれる限り逃げてしまうのは性分か。
さっさと翼さんに会って謝った方が絶対楽だろうけど……それが出来たら私は陰キャじゃない。
せっかくだから休もう、最近は色々あって心がもう息苦しい、やっぱり一人でいる時間は大事ですね。
本当に最近はクリスさんや翼さん、立花さん……他にも多くの人と話す機会が多くて疲れます。
話す事自体は嫌いじゃないんですが、脳を使わない脊髄トーク、ゲーム配信の時の様なものがやりたい。
机を見れば積みゲーがいつの間にか増えている、装者を始めてからゲームをしている時間も減ってしまった、四六時中戦う事だとか皆の事だとかで脳を埋め尽くされて……はぁ。
やるか、サボりゲリラ配信。
『おはおりーん、こんな時間に見ている貴様らは何者だ~?おりんは今日はちょっと休みをとったよ』
「サボりん」「夜勤だゾ」「ニートォ!」いつもより遥かに少ない1000人程度のリスナー、そうそうこれだよこれ、懐かしの少人数配信だ。
『いや~昨日の翼さんのライブは凄かった、感動したねぇ……っと今日はゲーム配信、積みゲー消化をするよ』
「おりんなら行っていると思った」「昨日は配信がなくて寂しかった」「何のゲームかな」ちょっと刺さる言葉もあったが、とにかく気を取り直し、積んでいるゲームから一本選ぶ。
『BLゲーはもっともがき苦しむ人達が多い時にやりたいから、今日はSTGかな~』
なんだか昨日の戦いを思い出しますが……まぁそれはそれとして、比較的好きなジャンルです、スコア稼ぎで行くか、縛りで行くか。
『よし、今日はボム無し機銃縛りでやっていこうと思います』
「久しぶりにおりんのSTGだ」「これボム縛りって死なない?」「機銃縛りのがスコアは取れる、難易度は……うん」今日やるゲームはスタンダードなタイプのSTGだからアイテムを取って敵に撃ち込んだ分がスコアになる、威力が上がってしまうと敵に撃ち込める数が減ってスコアも減ってしまう。
初見プレイだけど、鍛えてきたこの動体視力でェ~!!!!!!
『いかんいかん危ない危ないなんでいきなり寄せてくるんですかこいつ』
「初見かよ!?」「イキりん失敗」「草」「避けれるのか(困惑)」敵がレーザーを出したまま近づいてくるのを必死に回避しながら弾を撃ち込んで行く。
『オラッ!この距離なら拡散角度足りないだろ!おら!』
「他人との距離は詰められないのに敵との距離は詰められる女」「肝が据わりすぎ」「追い詰められたおりんは凶暴だからな……」コメントが目に入らないくらいゲームに熱中する、今の所ノーミス、さすが私だ。
……滅茶苦茶アイテム取りこぼししてるせいでスコアが全然伸びてないのは見ない事にする。
『あ、無理ですボム解禁します』
「やっぱりな」「それでもミスしてないの頭おかしいよ……」「ボムを使うな」しかしちょっと無理が出てきたのでボムを使う事にした、このゲーム……なかなかやりおる。
まぁSTGは動体視力も大事ですが基本は敵の配置覚えないといけないから初見は厳しいんですよねぇ。
『滅茶苦茶楽になったんですが、なんですかボム強すぎませんか?力に取りつかれてしまいませんかこれ』
「ダークサイドに墜ちるおりん」「元からおりんは闇だろ!」圧倒的パワーでゴリ押し、ようやくボスを倒し一周完了です。
『さてノーミス完走した感想ですがこれボム無し無理ですね、ボム前提難易度ですよこれ……』
「いったろボム無し無理だって!」「でも初見ノーミスっておかしいって!」「おつおりん」意外とエキサイトしてしまったが為に疲れました、とりあえず昼間の配信はここまでにしましょう。
はぁ、たまにはこういう騒がしくない配信も悪くないですね、昔を思い出します。
まだ私が中学生で、配信始めたての頃、リスナー数なんて100いれば上等、酷いときには10人しか居ませんでした。
あの頃は媚媚のキャピキャピなキャラで売り出してリスナー数を稼いで、まるで所謂オタサーの姫みたいな奴でしたけど……投げ銭で機材更新してからは正体を現してゲーム配信とラジオ配信を始めて一気にリスナー数2000まで駆け上がりました。
おかげで「正体現したね」だとかいわれましたけど、本性を剥き出しにしてからは随分たのしくなりました。
取り繕う必要がないというのはいいものです、そのままの自分でいれる事の幸せ、はぁ闇はいいぞぉ……。
すると、まだお昼だというのにインターホンが鳴る。
居留守です。
インターホンが鳴る。
居留守。
電話が鳴る。
出る。
『詩織、大丈夫?』
『え、翼さん?』
『また居留守使ってたわね』
『今出ます』
バカな、なんでこんな時間に翼さんが……というか翼さんかぁ……。
その会うの怖いなぁ……。
「次からは最初から電話する事にするわ」
「そうしてください、うちはセールスの対応とか面倒なので基本インターホンじゃ出ないので」
勇気を出してドアを開け、翼さんに家に上がってもらう。
「今お茶出しますから」
一体何をしに来たのだろう、というか学校どうしたのだろう。
「その前に」
えっ。
なんで私。
翼さんに抱きしめられているんですか。
しかも正面から。
え、ちょっと。
抱きしめられる理由を!!
「ありがとう、詩織。私の事を、私の夢を守ってくれて」
「エッ…・・・アッ……わ、私としてはですね!?当然というか!……大事な人のッ夢を守るのは当然です!」
いかんいかん変な声でてる、上擦りすぎ!
翼さんあったかすぎ!
「でもそのせいで楽しみにしてたライブ見逃したでしょ?」
「……はい」
いじわるな笑みを浮かべる翼さん、なんだ!?何を思いついたんだ!?
というか顔と顔が近い!翼さんの顔が近い!!!!
「だから、歌いに来たんだ。詩織の為だけに……ね?」
ね?って何……かわいすぎかよ……また鼻血噴出す所でしたよ……。
「が……がっこうはどうしたんですか」
「サボって来ちゃった」
「来ちゃったじゃありませんよ!?何してるんですか!?」
「それとも詩織は聞きたくないの?私の歌」
困ったような表情をする翼さんに私は、私は……。
「き……聞きたいです……」
「わかってたわよ。ふふっ……」
つ……翼さんのい……いじわる……私が翼さんのあらゆる事を断れないって分かってやってるでしょう!?
「でも、本当に嬉しかったけど、同時に心配したのよ、あなた実戦初めてだったじゃない。だから今のは私を心配させた罰、もう少しこのままで居て」
アーッ!だめですだめです……もう全面降伏です、私は翼さんには一生勝てませんよこれ。
こんないたいけなクソザコをいじめて楽しむ翼さんは本当に酷い人です!
「詩織は体温が低いのね」
「あっあっあ……つ……翼さんが熱すぎるだけです!」
「急に熱くなったわね」
アッ……アア……ちょっと翼さん、それわざとやってるんですか!?
私の心を弄ばないでくだされ!!
「そうね、このまま歌いましょうか」
えっ…・・・えっ!??!!??!?!
翼さんの顔が私の耳元に……
―――!!!!!!!!!!!!
だめです、これは死んでしまう。
腰が抜けてしまいました。
翼さんが私の耳元で歌をフルで囁いて、私の脳味噌は多分今9割死滅しました。
「その、大丈夫?詩織?」
床にへたり込んでしまった私の隣に座る翼さん、というか翼さんの声が聞こえるだけでまだゾクゾクする。
「つ……翼さんは、ひどいひとです、どこでそんな技を……」
「詩織のバイノーラル囁き配信を参考にしたの、初めて聞いた時は私もすこし背筋がゾクゾクしたわ」
あ……あれかぁ~墓穴掘ったぁ~~~。
「多分、ですね……私は今その数千倍ぐらいの威力を受けました、瀕死です、ちょっと、ちょっと休ませてください」
本ッ当に翼さん、とんでもない事してくれますね、ええ。
私の脳味噌がプリンからシェイクになってしまいました、体中熱いし、もう散々ですよ。
「ふふっ……本当に詩織は私の歌が好きなのね」
「……はい、でもその歌の使い方は危険なので勘弁してください、壊れちゃいます」
「壊れたらどうなるのかしら」
「……私にもわかりません」
「じゃあ壊しちゃおうかしら」
あっえっ、もしかして。
「じゃあ歌うわよ」
また抱きしめられて……えっ。
エッッッッ!!!!!
幸せというのも度を越すと、死にますねこれ。
さっきから鼻血がボタボタと……。
ああ……とうとう翼さんの服を私の血で汚してしまいました……。
「そんなに喜んで貰えて、私もうれしいわ」
「翼さん」
「なぁに?」
なぁにじゃあありませんよ!!!!!かわいすぎか!?
「本当にいじわるな人ですよ、あなたは」
結局、今日は夜の配信も休む事になった。
翼さんの歌がずっと耳から離れなくてとても他の事に手が付かないようになってしまったのですから。
でも、とっても幸せなひとときでした。
一人では絶対に知る事の出来ない、二人だけの時間。