萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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防る絆

 迷いも、未練もない。

 ならば今は相手に全力で応える事こそ、「愛」であろう。

 

 詩織は両腕のアームドギアをパージし、一振りのランスとする。

 各部のプロテクターが変化して舞い散る桜花の様な粒子を撒き散らす。

 

「全力で、全開で!私の全てで!あなたを超える!」

「来いッ!」

 

 月下に咲くのは「白き花」、人の世の流れが生み出した心の花。

 

 踏み込んだのは同時、詩織の撃槍、訃堂の剣撃の応酬が一瞬のうちに4度行われ、衝撃が光の花びらを舞い散らせる。

 首を刎ねんとする致命の一撃を紙一重で避ければ詩織のヘッドギアのアンテナが切り落とされ、ギアのプロテクターは次々と脱落する、だが訃堂も無事ではない。

 命にも等しき群蜘蛛は度重なる詩織の攻撃に負荷がかかり、軋みを上げる。

 

 そう、訃堂の逸脱した心技体の生み出す剣撃ですら、詩織の力の全てを受け流せない。

 

「むぅうっ!!だがしかし!ここで折れては先達に、何より我が人生に顔向けできるものか!」

「それはこちらとて同じ事ッ!!!」

 

 一際大きな隙を突かれ、左腕の装甲を削ぎ落とされながらも詩織は宙を舞いながら次の一撃の為の構えを取る。

 

 ガングニールの刀身が開き、中心にプラズマエネルギーが収束する。

 

「稲妻をォッ!!」

 

 詩織の咆哮と共に放たれるのは必殺の一撃。

 

       -EXECUTION SPEAR-

 

 それはかつて神の子を貫いたガングニールであるが故の一撃、神をも殺す一撃。

 だがそれはあくまで哲学であり逸話にすぎない、今を生きる「人間」である訃堂にはただの強力な一撃にすぎない。

 

「甘いわァアア!!」

 

 稲妻を、雷を「斬る」など風鳴であらば容易い事、放たれた純白の一撃は切り伏せられ、大地を吹き飛ばすに留まって訃堂にダメージを与える事はない。

 

 だがその程度、互いに想定内。

 

 一流にはその先がある。

 

 詩織の全力の投擲により、槍は放たれる。

 これこそが真の必殺、ガングニールの真価。

 

 アダムさえも下した、最強の一撃。

 受け継がれる繋がりによって生み出された絆の証。

 

 

     -ソノウタノナハキズナ-

 

「ぬぅうううおおおお!!!!!」

 

 光を纏い、決して逃れられない「さだめ」が訃堂へと迫る。

 

 だが決して訃堂も諦めない、詩織が今を生きて絆を繋いできた様に、訃堂もまた父母先祖、多くの防人達の繋いできた「護国の祈り」を背負っている。

 

「なにするものぞォッ!!!!!」

 

 この生涯において剣を振るってきた中で最善・最高、そして最強の一撃。

 そして有史以来からみてもこれほど見事な太刀筋はない。

 

 訃堂の人生の集大成ともいえる一撃が、二つの絆が激突する。

 

 

 そして、先に砕けたのは槍だった。

 

「散華せよオォォオッ!!!」

 

 生涯を共にした刀、群蜘蛛は刃毀れを起こしながらも訃堂を守りきり、そのまま残りの勢いで詩織に向けて振り下ろされる。

 

「だとしてもオォォッ!!!!」

 

 だが詩織のガングニールは槍にして槍に非ず、今日に折れて砕けても、真の姿は絆そのもの。

 槍は砕けとも、その先に加賀美詩織が残る。

 

 

 響に教えられた「繋ぐ為の手」、そして弦十郎や緒川が教えた「技」が群蜘蛛を掴み止めた。

 

「白羽取るかぁあああああああああッ!!!!」

 

 両サイドからの衝撃についに群蜘蛛は耐え切れずに「折れた」。

 

 剣は、剣でしかない、その身を護国の剣とした訃堂には残るものはなかった。

 

 

 静寂の中、勝負はついに決した。

 

 

 

「く………くははははははははは!見事!!!ワシの負けよ!」

 

 妄執も、未練も全て断ち切られ、訃堂は心の底から笑う。

 それはただ一人の弟子であり、「好敵手」の成長と勝利を祝うもの。

 

 この日初めて訃堂は人を心の底から祝った。

 

「本来なら割腹モノだが、お前はそうは望むまい?加賀美詩織」

 

「ええ、あなたにはまだ色々残されているので……ここで終わりではありません、さて……共に行きましょう」

 

 

 風鳴訃堂、逮捕。

 

 

 それは加賀美詩織一人が掴んだ勝利ではない、彼女に関わってきた者達が掴んだ勝利であった。

 その中には訃堂も、含まれる。

 

 こうして「師弟」の戦いは終わりを迎え、日本政府はようやく風鳴訃堂の権力から抜け出す事になる。

 

 

////////////////////////////////////////

 

「お……親父が逮捕された……だとォ!?」

『そうだ、先ほど詩織准尉が確保した。同じく風鳴機関の権限の一時凍結と強制捜査が開始された為、しばらく日本政府は忙しくなるのでな、伝えておく必要があった』

 

 弦十郎は兄である八紘からの報告に驚愕した、あの頑固な父がこうもあっさり逮捕されるなどとは思いもしなかった。

 あの訃堂であれば逮捕されるまえに割腹するであろうと常々思っていたが、そうはならず大人しく収監されたらしい。

 

『以前より明らかな人道軽視やこの間の結社残党の件、さらには……そのだな……』

「何か言い辛い事があるのか……」

『……翼そっくりのホムンクルス二人を侍女、予備戦力として隠し持っていたのだが……』

「……まさか」

『どういう事か、私の娘が突然二人増える事になった……』

 

 ホムンクルスの法整備はまだ整っていない、故にDNA的に一番近い者の「兄弟・姉妹」として現状は扱われる。

 つまり翼をベースに作られたホムンクルスは八紘の「娘」としても扱われる。

 

「その、私の姉妹が二人増えたと……」

『そうなる……姉として面倒を見てやってくれはしないか?』

「承知しました。「姉」としてしっかり務めを果たしたいと思います」

 

 連絡が終わり、本部に静寂が訪れる。

 

 微妙な空気の中、クリスがにやりと笑いながら翼に近づく。

 

「翼オネーチャンじゃねえか」

「そうね、姉はなかなか大変よ翼」

 

 マリアも便乗して翼をからかう、一方の翼はいまだ何がなにやら理解できてないがからかわれている事だけは理解していた。

 

「はぁ……それで、あの爺様を逮捕した肝心の詩織は何処ですか?」

「現在、病院で戦闘のダメージを癒している所です。翼おね……おかあ様。」

「誰が母か!誰が姉か!」

 本部で待機していたカメリアもまた便乗してきた事により、今この場に翼の味方は0。

 

 人生とはよくわからないもの、ある日突然妹が出来る事もある、後に翼はそう語った。


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