萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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存在の向こうから

 その人がいなくなっても、その人が「存在」したという証は消えない。

 奏さんが死んでも、翼さんや響さんにその歌が受け継がれた様に。

 マリアさんの妹であるセレナさんが死んでも、記憶の中の歌がマリアさんの心を導いた様に。

 

 フェニックスが私を生かしてくれたように。

 

 この世界はいなくなった者を忘れない。

 

 生きた証が、今日という日として残る。

 

 

 そして祝福の果て、千年後の今日に生まれ変わって、もう一度歌えると信じて。

 

 

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「加賀美詩織!お前は何故死なない……!オレのパパは炎と焼かれ死んだのに!」

 

 最初の邂逅は一方的なものだった。

 レイアの記憶から見たのは心臓を貫かれたというのに炎を纏い、立ち上がる詩織の姿だった。

 

 赤く輝く生命の火、「浄化」の火はどうしようもない程にあの日、キャロルの父である「イザーク」を焼き尽くした炎と重なって見えた。

 

 それだけではない、生れ落ちた「奇跡」の結晶は皮肉な事に錬金術の到達点たる「賢者の石」と同一のモノだと一目見ただけで理解してしまった。

 

 父から与えられた「命題」を何よりも尊ぶキャロルだからこそ、それは許せなかった。

 自分の数百年が、たった十数年の、よりもよって親の愛すら知らない小娘に踏みにじられた気分だった。

 

 だが計画が動き始めた以上、突如転がり出た「石ころ」を相手取っている余裕はない。

 極めて、冷静に、理性的に「無視」する事でキャロルはその憎しみと殺意を一度は噛み殺した。

 

 だがエルフナインの視界と記憶を盗み見る度に、チラつく。

 

『ですが、代わりに再び「イカロス」を纏う事を許してもらえますか?今、マトモに動けそうなのはアレだけでしょう』

 

 その身を蝕んだ「死」を再び纏う事を覚悟し、戦場へと舞い戻る姿。

 アルカノイズやオートスコアラーとの戦いで深手を負っても生き残り、自分の意思を全うする姿。

 世界にその身を晒して、仲間を守るために戦う姿。

 エルフナインや仲間との安らぐ時間を楽しむ姿。

 

 それらは当然、全てキャロルに筒抜け。

 

「絶対にぶっ殺してやる」

 

 世界解剖の為の最後の一手の前に、この手でぶち殺すと決意させる程の殺意を与えた。

 

 

 そして最初で最後の対面。

 世界を解剖していく中で「出来損ない」どもがシャトーに突入し、残りの三人の歌女のイグナイトという「玩具」で勝とうなどという舐めた幻想を踏みにじった時、それは舞い降りた。

 

 忌々しい赤の翼、イカロスを纏った加賀美詩織だった。

 

「世界を、私の居場所を壊しはさせない!」

 

 ダウルダヴラの前では改修されたとはいえ、イカロス程度、ゴミも同然だった。

 だがそれでも詩織は折れなかった、何度羽を千切られたとして再生を繰り返し、何度も向かってきた。

 

「オレに「加賀美詩織」という奇跡を踏みにじらせろ!この残酷な世界が裂ける祝いの悲鳴を聞かせろッ!!」

 

 本気で殺すつもりで攻撃を続けた、だがそれを潜り抜け、詩織は距離を詰めてきた。

 

 そして開放の「絶唱」で刺し違える一歩手前まで迫った。

 

 咄嗟の防御が間に合わなければ、待っていたのは死であり、これまでの戦いで最もキャロルの肝を冷やした。

 

 だが、それを防がれ、イカロスを焼き尽くした詩織をダウルダヴラの糸で縛り上げ、吊るし上げた。

 

 ――ようやく、ようやく世界を識れる。

 

 死に損ないの装者の攻撃など無視して、糸を突き刺し、引っ張り、加賀美詩織の体を分解せんとした。

 

 だが、翼の折れた鳥はまだ死んでいなかった。

 

 ダウルダヴラの糸を飴の様に溶かし、歌を口ずさむ仇敵、再び「炎」が記憶の中から蘇る。

 

 己の想い出を焼却して力と変える様に、加賀美詩織も命を焼却して、それでもと自分の世界を守るために全力で向かってくる。

 

 生命の焼却の燃費がどの程度なのかは分からない、目の前の未知数を相手に自分の想い出が焼き尽くされる前に決着がつくのか、勝てたとして残った装者を倒しきれるか。

 

 キャロルの心にあったのはただただ「嫉妬」と「憎悪」。

 

「お前はッ!!お前は本当になんなのだ!!オレの邪魔ばかり!オレの知らない事ばかりッ!そうまでして「奇跡」に愛されるッ!!!」

 

 頭に血が上り、冷静さを欠いたのが悪かったのか。

 ザコと見下したその慢心が招いた結果か、シャトーが「再構築」の光を放ち始め……。

 

 計画が破綻し、己の夢が潰えた断末魔の悲鳴がシャトーを吹き飛ばしてしまった。

 

 その後はもう散々、ほぼ全ての記憶が消えた挙句に結局「立花響」の伸ばした手をとってしまい……エルフナインに体と命を託し、その存在は終わった。

 

 はずだった。

 

 

 暗黒の中で眠るキャロルを揺さぶる様な感覚、光が射してくる感覚、意識の底に沈んでいた想い出の燃えカスが再び集まり「もう一度、生まれる」。

 

 皮肉にもそれは憎んだ奇跡の様で、加賀美詩織の再生と被っている事に段々と気がついてきて、キャロルは揺らぎの意識の中で怒りを感じていた。

 

 それはエルフナインの行動に若干の影響を与えた。

 

 

 根が完全にお人よしなエルフナインは誰かの奢りで食事を食べるという行為に微妙に抵抗がある。

 だが詩織が奢るという時だけは付いていく様になった。

 そして無意識ながら容赦なく値段の高いものばかり選んで、詩織の財政を痛ませようという努力をした。

 

 段々とそれがエスカレートして何かと遊びに誘うマリアや切歌、調、そして響の誘いにも乗るようになった。

 日に日に増えるS.O.N.G.での仕事量に嫌気が差し駄々をこねる様になった。

 失敗してしまった料理を廃棄したりせず、とりあえず響と詩織に食わせるかと思わせた。

 

 ……つまりはエルフナインに程よい反抗心を与えた。

 

 そしてキャロルは自分の意識が再構築されている原因に気付くに至った。

 

 エルフナインの経験によって、かつて父から感じた「愛」が「再体験」によって灰の中から蘇ったのだ。

 

 もちろんそれだけではない、エルフナイン自身が何度もキャロルの記憶を覗き見ようと試みて「手を伸ばした」事が最大の原因だった。

 

 「理解」

 それは錬金術の答えだ。

 

 理解する為には自分から動き、手を伸ばし続ける事、そしてわからないからといって消してしまわない事。

 わかるまで、何度でも、何度でも、諦めずに手を伸ばす事こそが、必要なのだ。

 

「立花……響ッ!!エルフナインッ!!」

 

 大勢の人間を殺し、世界を消してしまおうと望んだ自分に、キャロル・マールス・ディーンハイムに何度も手を伸ばした二人に対して抱く感情の名前に気付いてしまった

 

「オレは……お前達に感謝しているのかッ……!?お前達を……愛してしまっているのかッ!?」

 

 そして、再び彼女は生まれる。

 

 

「不用意に他人の想い出を覗き込むな!大馬鹿ものが!」

 

 

 

 侵食する結晶を砕き、エルフナインと詩織の記憶の結晶の間に割って、現れるキャロル。

 それは詩織の記憶と繋がった事で「死から生まれる」感覚を感じ取り、理解できた事だった。

 

 皮肉にも自分が何よりも憎んだ奇跡によって再びキャロルは「錬金術師」として生まれた。

 

 

「キャロル……!!」

「驚いた、いつから人間は記憶から復活できるようになったのだ……五千年……我の知らない事ばかりだ」

 

 驚愕するこの意識の世界の主と創造の神を放置し、驚いた顔で固まるエルフナインをキャロルは抱きとめる。

 

「まったく、お前もバカ……あいつもバカ……こいつもバカ……この世界はバカばかりだッ!!!」

 

 それはかつて知る事を捨て、何もかもを消してしまおうと思った己へ向けた言葉でもあった。

 

 ヒトの心は簡単には理解できない、たとえその概念を知り尽くしても、その心から生まれる歌、感情までは量りきれない。

 

 

「……おかえり、キャロル」

 

 泣き笑いの様なエルフナインの言葉により、錬金術師キャロルは再び生の祝福を受けた。


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