萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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宿命

「あなたは……」

 

 突然、自分の意識の中に現れた新しい「存在」に詩織は戸惑う。

 確かに元を辿ればエルフナインとキャロルは同一の存在だった、その中に存在が内抱されていてもおかしくは無い。

 だが、完全に「無」の側からこのキャロルは現れた。

 

 自分と同じ様に「生と死の循環」を超越して、かつて互いに殺しあったキャロルと同じ存在が現れたのだ、驚くのも無理は無かった。

 

「こうして顔を合わせるのは二度目か、安心しろ。お前の中で大暴れするつもりはない……それよりも」

 

 詩織の警戒する様子を鼻で笑い、視線を腕の中のエルフナインに向ける。

 

「はい、さすがに「死」の感覚を直に感じるのは……結構堪えました」

 

 エルフナインは詩織の記憶を読み取った、だがフィーネとの戦いによって「死んだ」際の感覚を読み取ってしまった事で大きなダメージを負ってしまった。

 

 マリアやエルフナイン自身の記憶と意識に「死」そのものはない、「原型」であるキャロルも自分の「死の前」の記憶までを転写しているのだ、だからエルフナインは今、初めて「死」を味わった事になる。

 

 

「これが、消えるということ……そして生きている喜びなんですね」

 

 意識の中とはいえ、自分を抱くキャロルの温かさ、そして詩織とシェム・ハの存在を感じる事にエルフナインは感謝する。

 

 

「さて、事情は大体理解している。俺の「還るべき場所」はエルフナインと同じ体、同じ記憶を共有している。つまりはお前の状態を知ればいいのだろう?」

「そういうことです、それよりも……一度エルフナインちゃんを休ませてまた後日に仕切り直しといきませんか」

 

 記憶や意識の共有、というものの深刻さ、重大さを詩織は知らずに危うくエルフナインを殺しかけてしまった。

 

 罪悪感、安堵、不安、様々な感情がない交ぜになり、お世辞にも精神状況はいいとは言えない。

 故に、エルフナインの状態を優先すべきだ、と言う。

 

「いえ、今やるべきです」

 

 だがエルフナインは決心の火を宿した瞳で詩織に続けるように告げる。

 

「まだまだ錬金術師として未熟で、まだ真理なんて遠くて見えもしないボクだけど……今のボクよりも詩織さんの方が「危ない」とわかってしまう、それぐらいなんです」

 

「そういう事だ、お前自身は随分と鈍感らしいが……その在り様は不安定。爆発しようものならお前が蓄積した「呪い」と「因果」は世界に降りかかるだろうよ」

 

「そんなに」

 

 

 詩織としては最悪、自分が消えるだけとずっと思っていた。

 だが錬金術師から見て、それほどに自分の在り方はマズイと言う。

 

『我にはよくわからぬ、教えてはくれないか』

 

 より上位にあるであろう埒外の神、シェム・ハもまたそれに驚きと疑問を抱く。

 アヌンナキも完全な存在ではないが、それでも多くの事を知っているし、超常を操れる、だが知らない事だってある。

 

 よくよく考えれば加賀美詩織の状態などアヌンナキから見てもイレギュラーもいいところだった。

 

「こいつは、加賀美詩織は「生と死の循環」そのものを内抱している。「神の力」と「神殺し」の力が更に加わって強力なものとなった事でそれが不安定化した状態でもある。もしこのまま神になる、あるいは力そのものを手放そうものなら……オレをこうして蘇らせた様に「死者を見境なく蘇生」してしまい「誰も死なない世界」になってしまう可能性が高い」

 

 誰かが死ぬから、誰かが生まれる。

 生命の循環は生と死、分解と再構築によって成り立っている。

 

 誰も死ななくなれば、地上には人が溢れ、さらに蘇るとなれば、もはや地上だけの問題ではない。

 

 存在と無の循環さえも破綻を起こす、物質的にも、エネルギー的にも、宇宙の法則が完全に滅茶苦茶となる。

 

『そんなに』

 

 シェム・ハにとって久しく忘れていた自分達アヌンナキの中でも上の方でのスケールの話に思わず呆け顔となってしまう。

 

「オレとしても信じ難い、というかなんでこの小娘がそんなバカみたいなスケールの因果を背負ったのかまったく理解できん。理解できんが故にとっとと理解せねばならんのだ」

 

 自分達が作った人間という端末はいつしか巨大な存在となっていた、だがここまでデカくなるとは聞いてない。

 まるで子供がお祭りの屋台で買ったカラーひよこが急成長してニワトリになって面倒を見切れなくなる様なありさまであった。

 

 

『どうしよう』

「どうしようじゃないんだ!どうにかするんだよ!お前も神としての自覚があるなら手伝えという事だ!」

 

「はえー……」

「はえーじゃないんだ!なんだお前は本当にどっからそんな因果を集めてきた!」

 

 頭を抱えるシェム・ハ、もはや理解が追いついていない詩織にキャロルは思わず怒りを覚えた。

 

「まったく!なんでこんなバカどもが力を持つんだ!?あの立花響も同じだ!この世はバカばっかだ!」

 

 それを微笑ましげにエルフナインは眺めていた。

 

 

 こうして加賀美詩織の内に秘められたとてつもない因果を探る為の「解剖」が始まる。

 恐らくこの星で最高の錬金術師であるキャロル、そして改造執刀医シェム・ハですら手を焼く問題患者「加賀美詩織」の治療は始まった。

 

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「何故、私はまだ存在しているのでしょうか」

 

 黒い空の下で、真紅の炎を纏う少女が居た。

 見渡す限りの灰、灰、灰。

 白い砂漠の上でまどろみから目覚めた。

 

 その姿は加賀美詩織だった。

 

 だが決定的に違ったのは、彼女は「厄災の神」であった。

 

 ロードフェニックス、加賀美詩織が辿りうる運命の一つ。

 生命と死の循環から外れた不滅であり、全てを滅ぼし、己の望みすらも焼き尽くしてしまった哀れな末路。

 

 

「ああ、そういえばカルマノイズを送り込んで異世界に分断して殺すのは失敗したんでしたね」

 

 神の力を利用し、「チフォージュ・シャトー」の残骸を取り込み、地球全てをエネルギーへと還元し、平行世界を参考にして再構築して理想の世界を作る計画は「何故か失敗した」。

 

 残った残滓により、ならばせめて過去の自分を抹殺する事でここに到る運命そのものを消し去る事で無かった事にしようと目論んだ。

 

 だが加賀美詩織は生き残り、それどころかより強い因果を背負った。

 

 そしてその結果、今この場所にロードフェニックスがより強い状態で存在する未来に変わった。

 

「私はあなたにならないですか、残念でしたね……どうにも私達は、最後には一人ぼっちになる運命の様ですよ」

 

 かつて地球と呼ばれた星の空に太陽はない、月も星も、見渡す限り消えてなくなった。

 ここには調和はなく、完全な虚無だけ。

 

 

 虚無の中で赤い炎と胸の痛みだけが残った。

 

「私は……皆と生きたかっただけなのにぃっ!どうして……どうしてぇっ!!」

 

 


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