萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:青川トーン

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幸福の形

 ヘッドギアを外し、体を起こす。

 

「随分と長い時間頑張ってたわね、お疲れ様。エルフナイン」

「マリアさん、ありがとうございます」

 

 目を覚ましたエルフナインにマリアがペットボトルの水を渡す。

 現実の時間にして8時間程度、エルフナインは詩織の意識の中に居た事になるが実際にはそれ以上の密度で情報のやりとりが行われていた。

 

 当然体力も相当に消耗したし、精神的消耗も大きい。

 

 ただそれはエルフナインだけではなかった。

 

「詩織、大丈夫か」

「……ええ、なんとか」

 

 目を覚ましたものの辛そうにする詩織を翼は抱え、起こす。

 

 一番消耗していたのは意識の中に「三人」も入ってきて、洗いざらい全てを吐かされた詩織だった。

 自分が抱えている問題が更に重くなり、簡単に解決するのは難しいとまで来た。

 

 消えてしまいたいなどとは思わない、誰かに押し付けてしまいたいなどとも思わない。

 

 それに共に背負ってくれる頼もしい仲間がいる。

 故に詩織はまだ頑張る事を選べた。

 だからエルフナインも頑張る事を選べる。

 

 

「それでどうなんだ……詩織は」

「簡単に説明させていただくと、詩織さんの中に居る「神様」は全然問題ないです。……が、詩織さんが歩んできたこれまでの人生や経験、そして神の力だけじゃ明らかに説明がつかない程の「おかしい荷物」が入ってる状態なんです」

「おかしい荷物……?それはどういうことなのかしら」

 

 マリアは首を傾げる、翼は「神様を背負ってるのに問題無い」と言われた詩織を見て困惑した。

 

「イメージとしては、まだ何を作るか決めていないのに鍋にどっからとも無くトマトやひき肉が発生してミートソースが出来てるような状態です」

「つまり……「結果」だけが確定しているという事か?」

「はい、詩織さんが望む、望まないに関わらず。ありえない因果が押し付けられているんです」

 

 因果とは過去によって決まる、それこそ星の運行から蝶の羽ばたき(バタフライ・エフェクト)にいたるまで、莫大な因果により世界は運行される。

 とはいえバタフライ・エフェクトも、最初の蝶に莫大な因果が背負わされるかといえばそうではない。

 存在全てが少しずつ、積み重ねていく事によって「事象」が引き起こされる。

 例えるなら人間の動きは「脳からの電気信号」「神経」「筋肉」「血液」「細胞」全てが働く事によって「分担」され動きとなる、その規模が巨大になっただけなのだ。

 

 一人が責任を全てを背負う、とはよく言われるが、背負わせた者、背負われる者、背負わざるをえなくなった状況といったもの全てが揃って「因果」である。

 

 神の力は巨大だが、宇宙全体で見ればそうでもない。

 アヌンナキが完全な存在ではなかった様に、人間一人が宇宙を滅ぼす程の「原因」になるなどそうそう「ありえない」。

 

 

 シェム・ハとキャロルですら、神の力でも詩織のしてきた事でも、哲学兵装でもなく、「身に覚えの無い因果」であるとしか「今」は解析できなかった。

 

 しかし、「原因」の可能性は一つ予想する事が出来た。

 

「その押し付けているのは一体なんだ」

「予想としては、「未来の世界」の詩織さんに関わるものだと思われます」

 

 フェニックスは未来に存在を確定させる事で復活する。

 それと同じ様に確定した未来に向かって詩織に因果が蓄積しているのなら説明は出来る。

 

 とはいえ神の力をもってしても「予測」こそ出来れど「予知」などは不可能だ。

 世界は可能性によって分岐、変化を続けている、その全てを知る事など不可能。

 

 だが、世界には唯一絶対、確定している事象がある。

 

 命の終わり。

 

 体が朽ち、循環へと還って行く事。

 シェム・ハやフィーネ、キャロルは情報として自我を残すことこそしたが「肉体」は滅びる。

 

 土へ還り、風に還り、水に還り、火に還る。

 四大元素に分解され、再びこの世界を構築する物質として巡り、別の命として再び生まれる。

 

 そこに到るまでの元素達の旅路によって起きるものもまた因果である。

 

 誰かが死に、誰かが生まれるというのはそういう事だ。

 

 

「もしかしたら、いつか私が世界を滅ぼすかもしれない、だからその時は。皆で止めてくれますか」

 

 決して確定した未来ではない、まだ「予測」や「予想」の段階だ、だが詩織は覚悟をしていた。

 

 いつだか、「未来の自分」を名乗るソレが世界を滅ぼさない為に詩織を殺しに来た事を思い出しながら。

 そうはさせない為に、『選ぶ』覚悟はしたはずだった。

 

 死ぬ事は怖い、だけど殺すのはもっと嫌だ。

 

 いつも覚悟する事ばかりを選ばされる。

 だから嫌でも慣れてしまっていた。

 いつか死ぬ事を受け入れてしまっていた詩織が居た。

 

 だが。

 

「なんで、なんで詩織なんだ……なんでいつも詩織が背負わなければならない」

 

 それを受け入れていない者はいる。

 翼だ。

 

「いつもそうだ……なんでもかんでも、押し付けられて、戦って、傷ついて、それで最後は世界の為に死ねというの?詩織は幸せになっちゃいけないの……?」

 

 翼も自分が背負うべきものは分かっている、守るべきものも、戦うべき理由も。

 だけど、それ以上に自分を愛してくれる人が理不尽に多くのモノを背負わされ、神にまでされ、その果てに望まない死まで選ばされようとしている。

 

 それがどうしようもなく許せなかった、耐えられなかった。

 

「私の守りたいものばかり、この手からいつもすり抜けていく……」

 

 真に繋がった翼だから理解してしまった、あの日に混沌の神を人へと変えた時点で、いや……アダムとの戦いの時からずっと。

 アマルガムによって、詩織をこの世界に連れ戻す時、無理矢理にでも神の力から引き剥がしておくべきだったのだ。

 詩織はあの日からずっと神のままだった。

 

 「信じて」という言葉のまま、その手を離したのは自分だった。

 

「違うよ、翼さん」

 

 膝から崩れ落ちそうだった翼を抱き支えたのは詩織だった。

 

「私は幸せだよ、ここまで私に死んで欲しくないって思ってくれる人が出来て。私に死にたくないって思わせてくれる人が出来て」

 

「そう、そうよね。貴方はずっとそういう人だった」

 

 わかっていた、はずだった。

 人によって幸福の形は違う、同じに見えるかもしれないけれど少しずつ違う。

 それを教えてくれたのもまた詩織だった。

 

「ごめん、ごめんね……守れなくて」

 

 幸福の形、すれ違う二人の姿を、エルフナインとマリアは見守る事しかできなかった。

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