萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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未来

 翼は一人、高台から夜の街を眺めていた。

 

 今日もこの街のどこかで何かが生まれ、何かが死んでいる。

 どんなに愛しく思っても、いつかは別れが来る事は理解している。

 

 だからといって「それ」は受け入れられる形じゃない。

 

 理不尽な運命が、残酷な世界が、彼女に「死ぬ」事を求めている。

 それがたまらなく許せなかった。

 

「愛するもの一つ守れなくて……何が防人だ……」

 

 あれから一日、再びの詩織の意識を調べながら、エルフナインは「二人で一つ」となったキャロルと共にまだ戦っている。

 

 だが翼は折れてしまっていた。

 聖遺物の知識などない、できるのは歌う事と戦う事ばかり。

 唯一可能であろう詩織の側にいる事も今は胸が痛く、苦しみだけが増えていく。

 

 そして戦う事も歌う事も今は出来ない。

 胸の歌が、聖詠さえもわきあがらないのだ。

 

 マリアもそんな翼をどうにか奮い立たせようとするものの、今の翼には逆効果。

 ほぼ喧嘩別れの様な状態で今に到る。

 

「また、私は看取るのか、また私は置いていかれるのか」

 

 先に死んでしまえば、もう誰の死も見る事などない。

 そんな気持ちが翼の心を侵食していく。

 

 だがそんな黒く汚い感情が心を覆い尽くす事はなかった。

 

「翼さん」

 

「小日向……どうしてここに」

 

「響は戦っています、皆も自分達に出来る事を探しています……だから私も自分に出来る事をしに来ました」

 

 現在、S.O.N.G.は一人の少女と世界の為に、総力をあげて活動している。

 そして日本政府防衛省も当然、さらには活動が凍結されていた風鳴機関さえも動かして。

 

 だが、詩織を助ける為に翼を放っておくとなればそれは本末転倒、詩織が助かってもそれで翼がいなくなっていてはまるで意味がない。

 

 だから、マリアと喧嘩して出て行った翼を立ち直らせる為に響達は自分達で考えた、互いの考えを交え、弦十郎や緒川とも連絡、相談して、翼の現在位置を捜索してもらった。

 

 そして誰が伝えるかとなった時、それに誰が適任なのかは大いに迷い、揉めた。

 カメリアが「ぶんなぐってでも目を覚まさせてあげますよ!」と言い「そりゃねえだろ!?」とクリスが驚き、「私が行っても多分今は逆効果」とマリアはすこし落ち込み。

 結果として響が行くべきかと纏まり掛けていた所を未来が掻っ攫い、ここに到る。

 

 

「……そうだな、皆やれる事をやっている。だというのに私は……」

「翼さんはどうしたいのですか」

「……わからないんだ、何も、わからないんだ」

「今の翼さんがわからないのなら、過去の翼さんはどうしたかったのですか」

 

 未来が問いかけるのは、過去の意志。

 

「私は……詩織を助けたかった、でも今の私にそんな力……」

「昨日は変えられない、でも明日は変えられる。そう教えてくれたのは皆であり、翼さんです」

「でも詩織は明日にも死んでしまうかもしれない!」

 

 決して逃れられない運命、変わらない運命だと、翼の中ではそれが大きなものとなっていた。

 

「誰がっ!死ぬものですか!」

 

 

 その場に居ない筈の者が、そこにはいた。

 息を切らし、最短・最速でこの場所まで駆けて来たのだ。

 

「詩織……!?」

「翼さんがどこかに行ってしまったと聞いて飛び起きましたよ……とりあえず無事で安心しました」

 

 とにかく翼が無事でよかったと、詩織は抱きつく。

 

「翼さん、あなたは勘違いをしてます。詩織さんは別に変なものを背負わされているとはいえ、死ぬとは限りません。それに……」

 

 落ち着きを取り戻した翼に未来が語りかけるのは皆で見つけた答え。

 

「過去は変えられない、それはよく悪い意味で取られますけど……逆に言えば過去に自分の思った気持ちは消えません。今日の自分がいるのは、自分のして来た事で、歩んできた道があったから、色んな人達が居たから。そして「帰る場所」があるから、迷っても、見失っても、前に進める!」

 

 装者達全員が戦い、生きて、歌ってきた、その中で得た答え。

 

 過去が、隣に居る仲間が、帰る場所が今生きる自分を作る事。

 

 立花響の帰る場所であり、いつも信じて待ってきた小日向未来は伝える。

 

「翼さん、あなたの答えはそこに在る筈です」

 

 詩織が自分の胸に翼の手をそっとあてる。

 そこには温かさと心臓が鼓動を打っていた、生きている。

 

「そうだ、そうだな……詩織も私もまだ、生きている」

 

 誰かが生きている事に、自分が生きている事にここまで感謝を覚えたのはいつ以来だろう?

 翼は涙を流しながら詩織を抱きしめる。

 

「そうです、私達はまだ生きています。だから生きる事を諦めない」

 

 

 だけれど、時は過ぎる。

 約束の時は、選択の日は近づいていく。

 

 

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 南極。

 発掘されたのは明らかに場違いなモノ達。

 

 シェム・ハの証言から「棺」の浮上が迫っている事から、S.O.N.G.は一時、そちらへの対処を行う事となった。

 

 今回の派遣には加賀美詩織、いやシェム・ハも同行する必要があった。

 「器」こそ朽ちてしまっているが、仮に万が一勝手に別口で復活されてしまうとまた厄介な事になりかねない。

 

 立花響、小日向未来、加賀美詩織の三人以外に原罪の無い人間がいるかどうかはわからないし、結社残党がこれを狙うかもしれないし、他の組織も暗躍する可能性もある。

 

 とにかく、シェム・ハは断章を統合して力を取り戻しつつも完全聖遺物一つを手に入れ、残りは国連で管理する。

 そういう事になった。

 

 

 南極基地を前に、詩織はカメリアと共に立っていた。

 

「カメリア、寒さは平気ですか」

「全然平気じゃないですね、私は寒いのは嫌いです」

「それじゃあ中に戻っていてくださいよ」

「いえ、おねえさまがどこかへ行ってしまわないように見張らないといけませんから」

 

 ここの所、詩織の側には誰かしら居た。

 互いを見失わないように、守る為に。

 

 今はカメリアが側にいる。

 

「カメリア、あなたは将来……何がしたいですか」

「おねえさまと一緒に居たいです」

「それを除いてカメリア自身の夢とかはないのですか」

「そうですね……まだ無いです」

 

 久しぶりに二人きり、だから姉妹として、語らう。

 

「前の私みたいですね……私は今は夢が出来ました」

「どんな夢?」

「みんなと生きて、アイドルになる事」

 

 あの日から変わらない、翼さんの「ライバル」として立ちたいという夢。

 

 それが叶うかどうかとして、生きたいという意志の源は「望み」だ。

 絶望した人間が死ぬのは、生きていたいと思えなくなるから。

 

「私の、望みです」

 

 遠くで轟音と共に氷が割れ、同時に警報が鳴る。

 

「さて……行きましょう、私達のやるべきを」


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