萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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暗雲

 午後19時、装者達に本部への緊急招集がかけられた。

 モニターに映るのは空に浮かぶ黒い塊。

 

「カメリアくんの「感知」とほぼ同時刻、太平洋上にコレが現れた」

「……雲?いえ……これじゃまるで……」

「闇そのもの……」

 

 それを見たマリアと翼の感想は同じだった、まるで実体を持った闇がその場にあるようだ。

 

「当然、ただの雲じゃありませんよ。先ほど米国が飛ばした探査機がこれに触れた瞬間「分解」されてロスト。続けてミサイルも接近しただけで「消滅」。しかも時間ごとにこいつの影響範囲は広がっている」

 

 藤尭はこの瞬間にも更新されているデータを装者達にもわかりやすく説明する。

 

「今の所まだ、目立った被害はでていないけれど……計算では5日程でハワイがこの雲の影響下に飲み込まれる事になるでしょう。だからその前にどうにかする為にS.O.N.G.へ要請が来たわけです」

 

 とはいえ、今まで相手にしたノイズや人間、聖遺物なんかとまるで違う脅威。

 こんなもの、どう対処すればいいのか疑問しかなかった。

 どうにかできるとしたらそれこそ、超常に対してよく知る人物。

 だが。

 

「……あれ?エルフナインちゃんは?」

 

 響が最初に気付く、S.O.N.G.で一番こういった事に詳しそうな人物がいま此処にいない事。

 

「エルフナインくんには緒川とノーブルレッドを護衛とし……「チフォージュ・シャトー」に向かって貰っている」

 

 彼女の問いに答えたのは弦十郎だった、行き先に関して皆一様に驚く。

 

「既に皆、知っての通りだろうが今のエルフナインくんにはキャロルの「記憶」が蘇っている。現状で考えうるこの「暗雲」に対抗できるであろう手段の一つとして、シャトーの機能を利用した「分解」を計画している」

 

「確かに世界をぶっ壊してしまえるだけの力だ、逆に考えればそいつを使えば世界を守れるかもしれないって訳か」

「そうデス!さすがエルフナインデス!」

 

 クリスと切歌は合点がいったと歓声をあげる、が対して響と調は少し浮かない顔をしていた。

 

「でも……あれってかなり壊れていたんじゃ……」

「そうだよね、間に合うのかな」

 

『その心配はしなくてもよい、それよりもお前達にはやってもらいたい仕事がある』

 

 突然にモニターが切り替わり、映るのは白い肌の女性の姿。

 

「誰デス!?」

『我だ、シェム・ハだ。既にシャトーの状態把握は完了している、それと封じ込めプランの為のユグドラシルの形成も間に合いそうだぞ「司令」』

 

 シェム・ハもこの異常事態に既に動いていた、ネットワークさえあれば断章を送り込む事で自由に動ける手が無数に増やせる彼女の協力によってあの「闇」に対抗する策が練る事が出来ていた。

 

 とはいえ、完璧ともいえない。

 

『お前達にはシンフォギアを纏って、改装したシャトーの起動を頼むことになるだろう。その為にもだ……』

 

 チフォージュ・シャトーはその起動に莫大なエネルギーを必要とする、一度停止してしまっている為にその再起動の為のエネルギーが必要だ。

 それをフォニックゲインで代用するのは当然の結果であるが、シェム・ハは少し言葉を詰まらせた。

 

「何か、あるのですか」

『……7つの音階による調和が必要なのだが、既に知っての通り加賀美詩織が……な?故にもう一人、歌える者を用意してもらいたい。ギアはガングニールが一つ余っているが故に不可能ではない、筈。であろう?』

 

 多くを知るシェム・ハでもシンフォギアを深くは理解できていない、その適合者についても多くを知るわけではない、だからこういった曖昧な言い方になった。

 

「無茶振りデスね……」

「ギアへの適合は簡単な事じゃない……」

「それに見ず知らずの一般人を連れて来てハイ歌ってなんて事もできないわ……」

 

 マリア達、元F.I.S.組は思うところがあったのか、少し表情を重くする。

 それに釣られ、元二課チームも微妙な表情をした。

 

 装者であるが故に、適合者を見つける事がそう簡単な事ではないと理解できる。

 

 だが可能性はある。

 ルリとアオ、彼女達は生まれながらに融合症例として作られたホムンクルスであり、イカロスの装者でもある。

 日本政府と八紘の許可と、彼女達の意志があれば無理ではない。

 

 だがそう上手く行くとは限らない、彼女らは戦った事もなければそもそもギアを纏ったのも起動試験の数回、更に言えば。

 

「あの子達を巻き込むわけにはいくまい」

「そうだね、翼さん」

 

 彼女等はまだ「幼い」、人間の勝手で生み出されて、人間の勝手で使われる様な事は残酷すぎる。

 それに翼としてもまだ短い時間とはいえ「家族」となった者達でもある。

 

 風鳴が子を道具とするのは、訃堂の代で終わらせたのだから。

 

「それ、私達が立候補してもいいですか」

 

 装者でない少女の声、振り返ればそこにいたのはカメリアと小日向未来だ。

 

「未来……それにカメリアちゃん」

 

「私なら前に一度、装者になれたから可能性はあります」

「よくわかりませんがおねえさまの為に出来る事があるのならば」

 

 小日向未来はかつて操られていたとはいえ神獣鏡の装者となった、経験者でもある。

 だがカメリアは未知数、戦闘用ホムンクルスと作られた存在だがどう転ぶか判らない。

 

 もし神獣鏡のギアが残っていれば、と何度も考えただが無いモノは仕方ない。

 でも、もう諦める事はしたくない。

 

「可能性はかなり低い、それに仮に適合したとしても場合によっては適合しなかった場合より危険かもしれないのだぞ」

「そうだよ、それにあのシャトーを起動するのに最悪絶唱だって……」

「でも戦いに行くわけじゃないし、響の繋ぐ手があるから負荷も皆で分け合えるんだよね?」

 

 弦十郎の忠告、響の説得にも耳は傾ける、だけど未来の意志は強い。

 

「前は響と一緒に戦えたらってずっと思ってた。でも今はそれだけじゃないって分かってるよ、それに……私は響と一緒に歌ってみたかった」

 

 いつも自分を守るために戦いに行く響が向けてくれた笑顔と同じ様に未来が笑う。

 

「わたしはまあ、あの雲を消したいので……あの雲さえ消せば、おねえさまはきっと直ぐ良くなるってわかったからその為なら戦うし、歌います」

 

 カメリアはただ画面に映る暗雲に敵意を向けていた。

 彼女が感じ取るそれはきっと他人に伝えるのは難しい感覚。

 

「本当にそれで、詩織は救われるのか?」

「心配しないでください、翼おねえさま」

「まったく……姉妹揃ってそれか……」

 

 呆れた、という顔で翼は溜息を吐いた。

 

「……わかった、だが時間は限られている。これより適合試験、および装者の行動を開始する!」

 

 弦十郎の指示と共に、彼女らの「最後の戦い」が始まった。


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