萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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簡単な失墜、あるいは失敗

 私が装者となってもう二ヶ月、色んな事がありました。

 

 本当に色んな事がありました。

 

 

 放課後に一人、校舎の屋上に佇む。

 

 全ての始まりはここでしたね。

 

 一人、何も考えずにここでぼうっとしてた所に翼さんが来て、急に手を握られて付いて来て欲しいと言われて。

 

 あの時は訳も分からず付いていって、装者になって……。

 

 気がつけば随分遠くまで来た気がします。

 

 

「ここに居たの」

「ええ、学校だとここが一番落ち着きます」

「私もそう思う」

 

 いつの間にか翼さんに背中を取られてました、相変わらず私は翼さんに対して弱すぎる。

 

「翼さんと違って、私には夢がありませんでした」

 

「今は違うのか」

 

「……だけど翼さんと出会えたおかげで、探してみようと思えたんです。私の夢を」

 

「見つけた時は私にも聞かせてくれないかな?詩織の夢を」

 

「……はい、必ず」

 

 端末の呼び出し音が鳴る、それは私のだけではなく翼さんのもだ。

 

『ノイズが現れた!翼はそっちに向かってくれ、加賀美くんはリディアンで待機だ』

 

 私はまた留守番か。

 

「そういう事だから……行って来るわ」

「はい、じゃあ私は何時もの様に帰りを待ってますよ」

「そう拗ねるな、詩織のしている事も立派な仕事だよ」

「……無事に帰って来てくださいね」

「当然よ」

 

 私は翼さんを信じて見送る。

 

 もう何度も見送った。

 何度も帰りを迎えた。

 

 だから、今回だって変わらない筈。

 

 すると再び、私の端末が鳴った。

 

『なんですか、司令』

『加賀美くん、もしもの場合……君にも戦ってもらう必要があるかもしれない』

『……何故ですか?』

『今、4体のノイズがスカイタワーへ向かっている。おそらくそれは陽動、もしもこのリディアン……いや、二課本部がノイズに襲われた場合……』

『わかりました』

『いいのか、加賀美くん』

『いいんです、これもお仕事……いえ私のやりたい事かもしれませんね』

 

 通信を切り、空を見上げる。

 白い鳥達が飛び立つ。

 

「翼さんが皆を守るなら……私が翼さんを守れる様に……」

 

 胸のイカロスを握り締め、強くそう思った。

 

 

 

 突然の爆発音と共に巨大なノイズが現れる、司令の予想は当たっていた様だ。

 

 私は聖詠を唱え、灰銀のイカロスを纏い、飛び立つ。

 

 

 眼下では特異対策機動部一課の人々が生徒のシェルターへの避難誘導をしている、まずは彼らの近くに居るノイズを機関銃で掃射する。

 ノイズには位相差障壁と呼ばれるものがあり、それを抜けて攻撃できるのはシンフォギアのみ。

 

「避難誘導に集中してください!!ノイズは私が引き受けます!」

 

 ノイズを私に集中させれば、それだけ死なずに済む人間が増える。

 今使えるメインの武器は機関銃だけだが、小型ノイズを散らすだけならこれで十分、問題は大型ノイズ。

 

 私がイメージするのは「一振りの剣」だ、フェザークロークの配置を変更し、一本の「ブレード」を形成し「機首」に見立てる。

 

「昨日やったSTGにありましたね、ブレード」

 

 巨大なイモムシの様なノイズの横腹に機銃を集中砲火し、ダメージを与え、私はそのまま回転し、加速する。

 

「くたばってくださいよおおおおお!!」

 

 激突の寸前、追加のブースターを「開放」、ノイズの胴体をえぐり、貫通する。

 

「これで一体!」

 

 巨大なノイズは後2体、腕を下に向けて機銃の対地攻撃で再び地上のノイズを減らしていく。

 

「っぶない!」

 

 しかし、巨大ノイズもただボーっとしていてくれればいいものをこちらに向けてブーメランみたいなものを飛ばしてくる。

 危なげなくそれを回避してやり、今度はノイズの「口」に機関銃を叩き込む、すると今度はブレードで突撃するまでも無く爆発してくれた。

 

 だが、最後の巨大ノイズの方を見た時、私は叫んだ。

 

「逃げて!!!」

 

 目の前の巨大ノイズに向けて銃を撃つ機動部隊員達、その後ろから小型のノイズ達が一斉に飛び掛り。

 

 

 

 彼らは皆、炭へと変えられてしまった。

 

 

 

「ッッ……!!!」

 

 初めて見る、目の前での人の死。

 私は、彼らを救えなかった。

 

 足りない。

 

 力が、力が欲しい。

 

 もっと力を!

 

 その思いに答えたのか、イカロスのフェザークロークの肩部の機関銃がパージされ、新たな武装が「開放」された。

 これが足りなかったんだ、私には力への渇望が、足りなかった、思いが足りなかったんだ。

 

 両肩の「砲口」にエネルギーが流れ込むのが分かる。

 

「消しッ飛べ!」

 

 「開放」された蒼白のエネルギーが拡散して、光の矢となって小型のノイズを纏めて貫きながら湾曲し、巨大なノイズに突き刺さっていく。

 

 そして大爆発を引き起こし、周囲からノイズは消え去った。

 

 

 私は地上に降りる、そこは先程まで人だった炭の山が辺り一面を覆い尽くしていた。

 

「ごめん……なさい……助けられ……なくて」

 

 私はその炭を手に取る。

 

 これは私が救えなかった人達。

 私がもっと強ければ、もっと戦えれば救えた筈の人達。

 

 でもここでずっと立ち止まっている訳にはいかない、まだ校舎内にノイズがいるかもしれない。

 

 私は校内をスピードを極力落としながら飛ぶ、するとエレベーターのドアが「抉じ開けられた」様な壊れ方をしていた。

 

 ……敵が居る……?

 

 私はそのままエレベーターシャフト内へとイカロスで進入する。

 

 すると天井が破壊されたエレベーターが止まっている階層を見つけ、そこへと入っていく。

 

 

 破壊、戦闘の痕跡、そして大量の血痕。

 

 間違いない、ここで何かあった。

 

 私は端末を手に、ロックされた扉を解除し、その先へ進む。

 

 

「まだ追いかけてくるか、しつこい奴らだ」

 

 するとそこには金色の鎧を纏った「聞き覚えのある声を持った」何者かが居ました。

 ……でもこれって間違いなく、敵ですよね。

 

「動かないでください、動けば撃ちます」

 マルチランチャーを構え、その「女」に警告する。

 

「飛べるだけしか取り得の無い玩具、耐久性も他に比べて劣る、おまけに装者はただの小娘」

 

 やっぱりこの声もそうだし……イカロスの特徴を言い当てる、さらにあの二課の頑丈だというセキュリティを容易く抜ける、つまり彼女は……。

 

「櫻井……了子……!」

「加賀美詩織、命が惜しければその来た道を引き返し、怯えてなさい」

 

 彼女はこっちを向く事もなくモニターに向かい、何かを操作している。

 しかし私の目に入ったのはカプセルに入った「剣」、確か聞いた事がある……二課には今「デュランダル」と呼ばれる凄い力を持った聖遺物があると。

 

 彼女はそれを目当てとしている。

 

 私は。

 

 私は腕の機銃を掃射し、周囲の機材を片っ端から壊していく。

 

「貴様!!」

 

 それに巻き込まれまいと櫻井了子が跳んだ。

 

「あなたのせいで大勢の人が死にました」

「くだらん正義感で死に急ぐか!」

「いいえ、これは私のエゴです!」

 

 マルチランチャーからスモークグレネードを発射、即座に視界を奪い、私はフェザークロークを展開し「サーモモニター」に切り替え、櫻井了子の姿を捉え、トリモチランチャーを三度発射する。

 

「ちぃっ!小賢しいマネを!」

 目の前の彼女はその内一発が当たったのか機材に右手を固定された様だ、姿勢が固まったまま動かない。

 

「投降してください、次は……命を奪います」

 

 ……撃てる訳ない、だからこれはただのハッタリだ。

 

「甘いな、本当に甘い、お前は戦いを知らな過ぎる」

「何を言いますか」

 

「お前には撃てない」

 

 ……煙が晴れる、そこには確かに右腕をトリモチで固定された櫻井了子が居た。

 

「撃ちますよ……」

「本当に甘いよ、お前も奴も……だから勝てない」

「何を……ッッぐ!」

 

 痛い。

 熱い。

 お腹が、熱い。

 

 鎧から伸びるピンクの鞭が……そうか。

 

 私に刺さってるんですか。

 

「大人しくしていれば死なずに済んだものを、これは私の邪魔をした罰だ」

 

 落下防止用の手摺に持たれかかる私の側まで彼女は歩いてきて。

 

「……ぐっ」

 

 私は痛みを堪え、あの「うた」を……。

 

「さようなら、加賀美詩織」

 

 蹴りが私のお腹を貫いて、私は落ちる。

 

 深く。

 

 

 深く。

 意識も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が聞こえる。

 暗闇の中、血に塗れてもまだ私は生きていた。

 

 イカロスが、その装甲を溶かし、私の傷を埋める。

 この激痛が、私を生きていると証明してくれている。

 

 だから歌が聞こえる方へ、飛んで行く。

 

 翼さんの歌が聞こえる方へ。

 

 


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