萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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今日は二話連続です
ところでXDのひびみく合体技が完全にファフナーのマークザインとマークニヒトでした


再構築

「信じられない、適合係数は高水準で安定……Linkerも無しで」

 

 藤尭は目の前の光景とデータを照合しつつも、思わず呟く。

 

 トレーニングルームに佇む少女が纏うのは紫色の重装プロテクターに浮遊ユニット、まるで羽根の様なケーブル型のアームドギア。

 それが小日向未来の「ガングニール」だった。

 

 ガングニールの起動試験、それを未来は簡単に突破した。

 同じギアでも装者が違えば違う形態となるというのは既に知られていたが、今回はもう一つ違う所があった。

 

「ガングニール……だけどアウフヴァッヘン波形が異なっているか……」

 

 弦十郎が呟く通り、響とマリア、そして奏と詩織が起動した時のアウフヴァッヘン波形と形状が異なるという点が気になる。

 その一点を除けば、全く正常……むしろ適合率の高さがおかしいぐらいで、何の問題もない。

 

『それはそのガングニールは、性質や形状こそ同じではあるが、別物だからだ』

 

 画面の端のウィンドウにシェム・ハが現れ、その理由を解説する。

 

『いくら本物に近くとも、その誕生の経緯が違えばそれはやはり別の存在という訳だ』

「なるほど……」

『そうしてもう一つ、神殺しの概念を持つ為には加賀美詩織とそのガングニールが揃う必要がある。それを作ったのが加賀美詩織であるから、だろうな』

 

 かなりわかりやすい説明にその場に居た者達は皆一様に納得した。

 

 とにかくこれによって装者は「7人」揃った、これによりシャトー起動の為の手段の一つは揃った訳だ。

 

「むぅ……おねえさまのガングニールなのに……」

 

 喜ばしい事だがそれでもカメリアは少し不満であった、起動テストの順番が回ってこなかった為だ。

 

「気持ちはわかるわ。でも全員が出張って詩織から離れるのもよくないわ、だからあなたは詩織を側で守ってあげて欲しい」

 

 そんな気持ちを理解したマリアは自分達に出来ない仕事をカメリアに「お願い」する。

 

「そういわれると……仕方ないですね」

 

 エルフナインとキャロル、ノーブルレッド、そして装者全員が本部を離れる、そしてオペレーター達も仕事がある、となると詩織を見ていられるのはカメリアだけだ。

 

「もしかりにあのバカが暴走したら止められるのはお前しかいねぇ、頼むぜマジで」

「そうだな、カメリアにしか出来ない仕事だ」

 

 自分にしか出来ない事、そういわれると人というのは断りづらくなるものだ。

 むしろ、詩織の為に、家族の為にそれを出来るのが自分だけ、と考えると嬉しいものがあった。

 

 

「仕方ありませんねぇ~」

 

 カメリアは少しばかり、チョロかった。

 

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 一方シャトーではエルフナインとキャロル、およびシェム・ハを主導とした修復・改装作業が行われていた。

 S.O.N.G.や防衛省の人員も借り出され、今までに無い程の大所帯と化していたが……それでもまだ手が圧倒的にたりないと引っ張り出されたのは「廃棄躯体」。

 

 スペアボディに残存している想い出から再構築された四体のオートスコアラーにシェム・ハがエネルギーを与え、作業を出来るだけの修復を施したものだ。

 

 

「ほら、ソコ~!手が止まってるわよ!そんなのだから三流なのよねぇ」

「なんという性格の悪さでありますか!」

 

 ガリィ、ファラ、レイアの三体はキャロルとシェム・ハによる指示を現場に送り、「監督」をし、ミカやノーブルレッドの三人は瓦礫の除去など力の必要な仕事をこなす。

 

 そして他の人員は物理的に補修が必要な場所を担当したり、仮設機器の取り付けを行っていた。

 

 防衛機構などは全て排除、余計な機能は全て切り捨て、ただただ「解剖」「解析」「再構築」の三つの機能だけを重視したつくりへとシャトーは改造されていく。

 

 世界を分解して終わらせる為に作られた道具は、世界を守り明日を作る為の道具へと変わっていく。

 

「かぁーちょっと休憩だ休憩、さすがにぶっ続けで力を使ってるせいでそろそろ透析が必要だぜ」

「そうね、ミラアルクちゃんとエルザちゃんの透析をお願いするわ」

「アンタはどうするのよ」

「私はファウストローブ由来の力だからそこまで消耗してないから、二人の分も働くわ」

 

 残されている時間は少ない、かなり無茶を強行しなければいけないが、ノーブルレッドの三人に関してはその無茶が命の危機に直結する。

 だからこのために医療チームもまたこちらに何人か来ていた。

 

「だったらアンタも休ませなさいとマスターから伝言よ、さっさと休んで、さっさと戻ってきなさい。以上」

 

 倒れられれば余計に時間が掛かってしまう、合理的な判断により三人に休みを与えるとガリィは瓦礫の除去を始める。

 

「ほら、突っ立ってないで早く行きなさいな」

 

 決して思いやりでもなんでもない、マスターの与えてくれた仕事を果たす事、それがオートスコアラーの存在意義であり、喜びだ。

 

「ありがとう、ガリィさん」

 

 だからヴァネッサの感謝も、別にそこまで嬉しい事ではなかった。

 そこまで、は。

 

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「クソ、前の俺をぶんなぐりたい気分だ。何を考えてシャトーの防衛機構をここまで過剰にした、ここはカット、この区間は切り捨て、不要部分が多いぞ!」

 

 キャロルはコンソールを操作し、シャトーの最適化を行う。

 ここはキャロル一人が設計し、製造したものではない、が最低限度、全ての場所の機能を把握している。

 

「まったくプレラーティめ、先に逝きおってからに!なんだこのデータは……はぁ!?安全装置だ!?くっやはり俺の計画をいい所どりした上で挫くつもりだったのではないか!あの詐欺師め!」

 

 だがこうして再調査し、解体していく過程で出てくるわくるわキャロルの知らない部分。

 パヴァリア光明結社の支援があり作られたシャトー、世界解剖を行えば当然結社の住む地球は無くなる、だからこうして最初からその計画を達成させない為の仕掛けが幾重にも施されていた。

 

「くっ!「執刀用のメス」は新造した方が早いか?いやだがそんな資材はないぞ……埋まってるのを掘り出すにも一苦労だ……!」

 

『そろそろ休んだほうがいいですよキャロル』

「馬鹿を言え!再設計せねば手が止まるだろうが!それよりもシェム・ハ!データは上手く書きかえれているか!」

 

 エルフナインの制止も無視して、キャロルは頭と手を動かし続ける。

 生まれてこの方、これ以上に忙しい時期があっただろうか。

 

 納期という敵に立ち向かうキャロルが休むにはまだ時間が掛かりそうだった。


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