萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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なんとなく浮かんだので初投稿です


And_the_world_continues
物語の続き、あるいは後日譚-A


「やぁ、また会えたね。加賀美詩織」

 

 日本政府・国連共同管理下にある聖遺物保管庫「アマノイワト」、そこに囚われているのは這い寄る混沌の端末だった少女「羽黒」。

 

 今となっては見た目と同じ程度の力しかないが、仮にも外宇宙から来た存在だ、異端の知識を持つ彼女は低脅威度人型スペースの第二層に収容されていた。

 

「あなたも元気でしたか?」

「まあまあね、最近はテレビの要求が通ってね。でも毎日、外宇宙の知識を片っ端から提出していくのは疲れるよ」

 

 この世界にはまだ宇宙人を裁く法はない、そして守る法も。

 「処分」か「利用」か決めるには随分と揉めに揉めた、物理的な力も超常的な力も発揮こそできなくなったが、危険な知識が山ほどある。

 もしどこかの異端技術の組織なんかに流れれば大変な事になるのは目に見えていた。

 

 そして慎重な審議を重ね、最終的な結論は他の異端技術犯罪者と同じ扱いだった。

 人類の進歩への協力と知識の提供を条件とした「無期懲役」。

 

 パヴァリア光明結社残党や、その他の異端技術を使った犯罪者に対して、国連はただその存在を抹消せず、人類の発展の為に奉仕する事で減刑を認めた。

 

「ああそうそう、テレビで見たよ。君も大変だね、助けた人間に刺されるなんて」

「まぁ……炎上するかなとは覚悟してましたけど強火のファンの愛は怖いですね」

「人間って度し難いね」

「まぁ、私も異世界から来た解釈違いを刺しましたから……人の事言えないんですよね……」

 

 

 先日、加賀美詩織は、風鳴翼と共に新生ボーカルユニット「ユナイトウィング」を結成を発表した。

 それはもう盛大に燃えた「世界は救ったし愛があるのはいいがお前はファンだろうが」「違ク」「失望しました、米国政府の支持やめます」など飛んでくるは罵詈雑言。

 9割ぐらいは冗談やネタであるが、熱心な加賀美詩織のアンチや過激なファンのお気持ち声明が止まらない。

 おまけに一部の詩織の厄介ファンもお気持ち声明を出し、世は混迷に満ちていた。

 

『翼様の隣に立っていいのはマリア様か奏様だけよ!あんたみたいな女!神様がお赦しにならないわ!』

 

 そしてついにはリディアンへの通学最中に過激派のファンに包丁で腹部を刺された。

 幸いにも周囲によって犯人は取り押さえられ、キャロルとエルフナインのおかげで即座に治療され重大な事態にはならなかったが監視と警護が厳重化。

 

 おまけに欧州で活動していた錬金術結社の一つが「人間って醜くないか?」の声明を出してしまい、アルモニカを使った人類滅亡計画を宣言するが、即座にS.O.N.G.の手によって鎮圧された。

 今日、詩織がここに訪れたのは回収された聖遺物「ベルゲルミル」の収容の護衛の為だった。

 

 

「まあ色々ありましたよ、あれからも出るわ出るわ異端技術犯罪者に暴走聖遺物……休まる暇もありませんって」

 

 ロードフェニックスとの決着から1年、まだまだ世界平和には遠い。

 けれど良くなっているという実感が詩織にはあった。

 

 異端技術という未知があるという事が世間に知れ渡ったが為に色んな組織が公的にそれを研究する。

 錬金術やファウストローブの技術を使った医療技術や製薬技術の研究。

 

 そして世界に布告されたアヌンナキ「シェム・ハ」からのメッセージ。

 

『月にて待つ』

 

 それがきっかけで宇宙開発にも注目が集まっている。

 羽黒が執拗に宇宙についての知識を要求されるのはそういう面も大きい。

 

「まあ、退屈はしなさそうだね」

「そうですね」

 

 世界が熱を持つ、それは良い事だと詩織は思った。

 

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 巨星、堕つ。

 

 風鳴訃堂という「人物」は良くも悪くも多くのものを遺し、世を去った。

 怪物とも呼ばれた男の最期は獄中だった、ただ孤独ではなかった。

 

 半年前、裁判を待つ中で容態が急変しそのまま入院、危篤状態に陥る。

 これといって目立った病気ではないが、体の衰弱が激しく、もう長くは無いと宣言される。

 

 数多くの人間の人生を動かしてきた訃堂ではあるが、彼を見舞いに来たのはたったの4人だった。

 弦十郎と八紘、そして翼と詩織だ。

 

 だがそれだけで彼は十分に満足していた。

 

「悪党の最期にしては、上等すぎるか」

 

 妄執は既に無く、未練も無い。

 延命も望まぬ、生きた結果。

 

 多くは語らなかったが4人が見守る中で風鳴訃堂はその戦いの生涯を終えた。

 葬儀は密やかに行われ、政府の共同墓地に葬られた。

 

 桜が咲く頃、詩織と翼は墓参りに来ていた。

 この共同墓地は元は風鳴家の為のものだったが現在は防衛省、二課・S.O.N.G.など国防に携わった者達の為にある。

 

「全く、随分と振り回されましたよ、翼さんとこの「お爺様」には」

「……私は正直、お爺様を許せないと思っていた。だが案外、許せてしまうものなのだな」

「訃堂の爺さんがいたから色々あって、いなければ色々無かったですからね」

「良くも悪くも英雄か、英雄といえば……」

 

 二人して視線を向ける先には西洋式の墓、ウェルキンゲトリクス博士、つまりドクターウェルの墓だ。

 魔法少女事変で死亡した彼の墓もここにあった。

 ついでに櫻井了子の墓もだ。

 

「なんでどいつもこいつも功罪の振れ幅がデカいんですかね……」

「そういう事なら詩織、お前の功罪の振れ幅も随分と大きいぞ」

「いやじゃ~変人どもの仲間扱いされとうない~!」

「諦めろ、お前も変人だ」

 

 残念な事にもう詩織は歴史に名を残してしまった。

 世界初の装者配信者のもたらした影響は大きかった。

 

 特に「神秘からの脱却」を目指す米国の強固な路線を「神秘との調和」へ変え、異端技術への理解を深めていく路線へ変えた要因の一つが詩織が見せた「シンフォギア」のあり方だ。

 

 これから先、世界は変わっていく。

 変えていく。

 

 偉大な先人達の「聖遺物」を読み解いて、人は明日へと向かって行く。

 


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