萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:青川トーン

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はじまりの時

 私は本当の愛を知らない。

 両親の間に愛はなかった。

 両親は私を愛さなかった。

 

 先生達は私を現代社会が生んだ「闇」だと言った。

 だから私は闇らしく生きた。

 

 でも私は愛を知りたかった。

 そんな時、私は彼女を知った。

 その日から世界はまるで見違える様に色を変えた。

 

 この世界には闇だけではない、光もある。

 闇が強ければ強いほど、光もまた輝く。

 

 光輝く彼女の歌が私に「存在しよう」という意思をくれた。

 

 

 

 

 だから私はまだ死なない。

 

 

 

 

 瓦礫を押しのけ、私「達」は地上に這い出した。

 

 空を見上げる、「欠けた」月が見えた。

 何が起きたかは知らない、ただ今は……

 

「翼さん……」

 

 意識こそないが、まだ胸の鼓動は止まっていない、私も、翼さんも。

 

「行って来ますね」

 

 

 

 彼女の身を横たえ、私は眼下に「アイツ」を見下ろす。

 倒れる立花さんの側に立つ櫻井了子。

 

 そして私は歩み始める。

 

「加賀美……詩織……生きていたとはな、だがせっかく拾った命、また散らすだけだぞ」

「詩織……さん!?」

 

 向こうもこちらに気付いた様で、彼女は死んでいなかった私に驚いた様だ。

 まさか自分の作ったモノが私の命を永らえさせたとも知らないようだ。

 

「私はまだ、何も見つけていません、まだ、何も始めていません」

 機銃をパージし、フェザークロークも捨てる、武器は拳だけ。

「何の事だ?」

 

「だから私達の明日は、終わらせはしません!」

 

 一気に踏み込み、その露出した腹にブーストで加速した一撃を叩き込んでやります。

 

「ぐぅっ!?」

 不意打ちでしたがこれで吹っ飛ばせました、すぐさましゃがみ、立花さんの様子を確認します。

 そこまでダメージはない、様です。

 

「何を寝ているのですか、まだあなたも戦えるでしょう」

「でも……クリスちゃんも、翼さんも……」

 

 クリスさん、彼女も来てたのですか。

 …………。

 

「それが?それが何ですか?まだ私達は生きています、なんで戦わないんですか?」

「っ……!」

「いつもはグイグイ来るくせに、肝心な時は怖気づく、それが立花響という人間ですか?」

「ちがっ……」

「冗談です。弱気な、あなたの姿を見れて、あなたも「闇」を抱える人間である事を実感できて嬉しいですよ。無理そうなら今は少し休んでいてください」

 

 立花さんだって人間だもの、弱気にだってなる、だから今日は私が強気になる。

 

「ほう……一度死に掛けて覚悟が決まったか?だがお前は私には勝てない、しかも無手とはな嘗められたモノだ」

「違いますね、この無手はあなたの腸を引きずり出して顔面を叩き潰したいが為の無手ですよ」

 

 何か危ないお薬でもキマったかの様にテンションが上がってきてます、これが「怒り」の力でしょうか。

 

「ほざけ!」

 薙ぎ払う鞭の一撃、それを受ける、腕の装甲にめり込む、がそれで止まる。

 溶けた装甲が鞭に絡み付いている。

 そのまま鞭を掴み、そのままブーストを噴射し大回転、彼女を振り回す。

 

「幾ら強固な鎧を纏っても!中身までは守れませんよね!」

 

 局地的な竜巻を発生させる勢いでアイツを振り回してやります、さすがに遠心力で目が回って来たようで、二本目の鞭の狙いが合ってません、ざまぁみやがれです。

 

 そのまま跳躍し、地面に叩きつけてやりました。

 

「ッッ!!この小娘がッ!逆鱗に触れたな!」

「私みたいなヘタレに一撃入れられたくらいでキレるなんて更年期ですか?それとも器量が小さいのですかねー!」

「ほざくな!!!」

 

 っと一瞬で距離を詰められましたね、すごいパワーです。

 見えました、右フックですn……

「ぐっ……え……」

 

 速すぎですね、見逃しました、滅茶苦茶深々と刺さりましてクソ痛いです。

 クソ痛い、それだけです。

 

「つか……まぇました」

 私のお腹に刺さった腕を掴み、私は笑う。

 

 この瞬間を待っていました。

 

「Gatrandis babel―――」

 

「まさかッッ!?」

 

 絶唱、私の出せる最高火力という奴です。

 

「させるものか!!」

 

 私の唄の邪魔をしようともう一撃繰り出してきますが、逆に私は距離を詰めて差し上げる。

 そして地面に押し倒してやりました。

 

 これで逃げ場所はありません。

 

 イカロスの内側で増幅されたエネルギーをそのまま開放する。

 

 

 凄まじい衝撃と激痛が私の体を襲う、だけど、それは向こうも同じ、苦痛に歪む表情、それが見たかった!!

 

 

 

 

 エネルギーの放出が終わり、体から力が抜けていく、おまけに血反吐まで吐いてしまいました。

 しかし、痛そうな顔をしているだけで櫻井了子はまだ生きてる様ですね。

 

 これは……

 

「Gatrandis babel ――」

 

 二度目ですね。

 もう一発、もう一発だけ撃ち込める気がします。

 

「死ぬ……気か!」

 

 さすがにこれにはビビッたようですね、フラフラの頭で笑ってやります。

 

 

 ですが、私の歌に被せる様に、何か歌が聞こえてきます。

 

 やさしくて、たのしくて、眩しい、輝く様な歌声が聞こえてきます。

 

 それにとても穏やかな気分にさせられて、私は絶唱を止めてしまいました。

 

 

 輝きが昇る、暖かな光が辺りを包む。

 

 

 

 私はそれに身を委ね、意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「目を覚ましたか!加賀美くん!」

「司令…?」

 目を覚ますとどうやら司令に抱きかかえられていたらしい。

 

「詩織!」「起きたのか!」

 翼さんとクリスさんも駆け寄ってきました、それに遠くには立花さんも見えます。

 

「おはようございます、みなさん……お揃いで」

「よかった、詩織だけ私達と入れ違いで倒れて目を覚まさなかったから……」

「それはご迷惑を……で、もしかして全部終わってしまったんですか?」

 よかった、翼さんが元気そうならなんでもいいや。

 

「いや……まだだ、あの月の破片が落ちてくる」

 しかし、クリスさんが深刻そうにそう告げる、確かにあれだけ大きいものが落ちたら大変だ。

「だから少し行って来るから、詩織はまだ休んでいて欲しい」

 

 はぁ、また留守番ですか。

 

「……いってらっしゃい、翼さん」

「ええ、行って来るわ詩織」

 

 私はいつもそうだ、いつも翼さんを見送る事になる。

 

「必ず帰って来てくださいね、影は光があってこそ、なんですから」

 ……少しは頑張ったんです、これくらいのワガママを言っても許されますよね?

 

「ええ、必ず」

 

 翼さんの笑みを焼きつけ、再び私は意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はーい、あらぁ~わかっちゃったぁ』

 「うそつけ、絶対分かってないゾ」「わかった(わかってない)」「おりんに謎掛けをやらせるな」何時もの如く罵倒が飛んでくる。

 

『はぁ!?なんでダメなんで……ああそういう事~完全に理解しました』

 「ダンゴムシ並の知能」「壁にぶつかってようやく曲がる女」「翼さんにやってもらえ」クソ……言いよるわこいつら。

 

『おりん、そろそろ私が代わるわ』

『えーっ後少しの所でしたのに!』

 「やった!翼さん来た!これで勝つる!」「おりんは大人しくしてろ」翼さんが操作を交代した瞬間コメントが歓喜に満ちる、くそっ私より皆よろこんでやがる!

 

『ん?ああ……わかったわ』

 「わかった(わかってる)」「やっぱり翼さんがナンバーワン」「おりんは歌だけ歌ってろ」「翼さんもゲーム配信やって」

『いやいや、私の本業は歌手ですから。でもおりんの歌がいいのは同意しますね』

 あの翼さんがウチのダンゴムシどもをすっかり手懐けています……というか馴染みすぎでは!?まだ第4回だよ!?

 

『私のラジオが……奪われている……これは面倒な事になった……』

 「がんばれおりん」「クソザコナメクジ」「人気配信者」罵倒と励ましが半々で来る、乾いた笑いしかでねぇ。

 

 

 ルナアタック、例の事件からもう随分経った。

 月こそ欠けたけど世界は今日も回っているし、私も変わらず闇の中の存在。

 

 変わった事もある。

 まずは独立して一人暮らしを始めた、ここまで育ててくれた両親には感謝して借金を帳消しに出来るぐらいのお金を渡した。

 

 翼さんが自分のチャンネルでラジオを始めた、そこにゲストとして私が呼ばれたり、逆に私のラジオに翼さんが来たり。

 立花さんとその友達である小日向さんに私が「おりん」である事がバレたり、クリスさんもネットに歌を投稿しだしたり。

 

 …………。

 一つだけ皆に隠し事が出来てしまった事。

 

 私はイカロス無しでは生きられない体になっていた。

 ギアの生命維持機能の暴走によって体中が蝕まれて、傷だけじゃなくて多くの臓器が侵食されてしまっている、だから無理にギアを引き剥がすと、私は長く持たず死ぬ。

 

 それを伝えているのは司令と緒川さんだけ、他の皆には伝えてない。

 

 でもそんな事はどうでもいいのだ。

 

 

『おりん、そろそろ時間よ』

『そうですね、じゃやりますか、アレ』

 「来たのか!」「来た!」「お歌の時間だ!」

 ラジオで二人が揃った時、いつも一緒に歌う。

 

 これが私の幸福な時間の一つ、翼さんとパート分けした歌をそれぞれ交換しながら歌ったり、視聴者からのリクエストに応えた歌を歌ったり。

 おかげで私単体でも視聴者が1万人オーバーするようになってしまったが、まあそれはしかたない、コラテラルダメージというワケダ。

 

 

「配信お疲れ様です、翼さん」

「今日も楽しかったわ」

「そうですね」

 

 そしてもう一つの幸福な時間、それは翼さんと一緒に居る時間。

 

 

 まだ、それははじまったばかりだ。

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