萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
どこまでも透き通る様な綺麗な夏の青空、田舎道をセミの鳴き声を聞きながら歩く、まるで00年代のアニメの様なこの空気も悪くはありません。
これが異世界でなければ、ですがね。
家で寝た筈が目を覚ませば山の中、翼さんとカメリアと私の三人だけ。
ドッキリかと思えば端末は圏外、辛うじて私と翼さんはギアを持ち出せたけれどカメリアには何も無し。
ようやく辿り着いたバス停で一息つくも、現在私達は一文無しなので当然バスには乗れない。
おまけに孤立無援、前の様に奏さんの生きている二課のある世界……とも限らない。
「詩織、大変だ……日付が私達の世界よりも二年も前だ」
「ド田舎なので更新されてないだけでは?」
「……電子広告だ」
「オオウ……」
時刻表を見れば、確かに電子化されている奴でした。
そして標識を見れば、ここが神奈川の片隅である事は分かったけれど……。
「もう解禁しましょう、ギア。これじゃ熱中症になっちまいますよ」
「……この世界の日本政府が私達に協力的とは限らない、安易には我々の存在を知らしめるのは」
「でもカメリアの稀血問題もあります、誰かに協力を求めないという選択肢は……まず無理です」
これが私と翼さんの二人だけの異世界旅行ならまるで問題はない、けれど今回はカメリアもついてきています。
急ぎ、とまではいかないけれど最悪でも二週間以内にどうにかする方法を見つけなければ命に関わってくる。
「お姉様、翼さん……もしもの時は……」
「もしもなんて言うんじゃない」
「食べるものが手に入らなかったら……私の血肉で生き延びてください……」
「そっちですか!?大丈夫ですよ、路上ライブでもやればチップぐらいは手に入りますから!仮にもアイドル二人ですからね!?」
そうだ、どんなに人がいなくても駅前で歌えば間違いなくお金程度ならなんとかなりそうだ、問題は楽器がないぐらい。
「それよりも……この転移の原因が前回みたいにロードフェニックス案件だったとしたら、前と同じ方法で帰れそうですが……そうなると平行世界の私がやらかしているという事実が圧し掛かってくるんですよね……」
「お姉様やらかしすぎ問題ですね、しかし……そうなると今回は翼さんと私が巻き込まれたのが謎ですね」
「ああ、詩織なら自分だけを狙いそうだという信頼がある」
「なんですかその信頼は、ただそうなると手がかりが無くなってしまうんですよね……」
結局、可能性を考えても事態は動かない、私達はとにかくまず身を落ち着ける場所を探さないといけない。
きっと皆が前の様に助けに来てくれるとは信じている、こういう時にシェム・ハさんが居たらな……とは思うが神頼みはよくない。
自分達の力でまずは生き延びなければ。
「あれ……この音……」
カメリアが何かを感じ取った様で、私も耳を澄ませば聞き覚えのあるサイレンが聞こえてきた。
「サイレン……特異災害発生のサイレンだ!」
「ああ!間違いない……!ならば仕方ない、か」
「ええ、放ってはおけません。人を見捨てる事なんて私達には出来ません、翼さんはカメリアをお願いします、飛べる私が先行します」
「……わかった、気をつけて」
聖詠を唱え、真紅のフェニックスギアを纏う。
フェニックスのファウストローブとヤントラサルヴァスパのシンフォギアを取り込んだアマルガム搭載型のギア、再び私が纏うこれは前とは勝手が違うが、それでもギアとして展開すれば私と融合状態となる。
連発さえしなければ絶唱のバックファイアすら殆ど無視できる程の適合状態、私がフェニックスであり、フェニックスが私です。
空に舞い上がり、サイレンの出所に向けて素早く駆けつける、空間の歪みから湧き出るのはただのノイズだ。
そこにはカルマノイズも、アルカノイズもいない。
調律の効果によって位相差障壁が無効化されたノイズの群。
まずは今まさに人々に向けて飛びかかろうとしていた奴を光の雨で焼き尽くしました。
こういう時、飛行型の高機動ギアは便利です、空から状況の把握が直ぐにできて、なおかつ地上の敵に優位を取れる。
飛行型の大型ノイズであっても。
この炎のアームドギアでなら焼き尽くすなど容易い事、今更この程度のノイズは物の数には入りません。
生命探知で周囲を探りつつも、ノイズの動きを観察、ソロモンの杖を使った召喚ではなくてあくまで自然発生……といった所でしょう。
となればとっとと全滅させるに限りますが、なにやらヘリがこちらに向かってきています。
所属としては間違いなく日本政府特異災害対策機動部のモノのデザインですが……。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
それは聞き覚えのある歌声、でした。
赤い髪の彼女がヘリから飛び出し、落下しながらもノイズを「無双の一振り」で切り裂いていく。
私も負けじと空中に居るノイズを纏めて焼き尽くし、巨人タイプに向けて
太陽の様な火球を投げつけて消し飛ばしてやりました。
その間にも小型のノイズを取りこぼしもなく消し去られ、周囲のノイズはこれで全滅。
私は聞こえてきた歌声から確信を持って彼女の前に降りる。
「よぉ、少し見ないうちに随分背が伸びたんじゃないか?詩織」
「ええ、私達の世界では二年経ってますからね。私もアイドルデビューしましたよ」
「なるほどなぁ、平行世界だってのに時間の流れも違うってか……っとわかった、さっきの異常は詩織が来たのが原因か、今回はどうやってきたんだって了子さんが聞いてるぜ」
通信越しに櫻井先生ことフィーネからの質問、だが困った事にそれは是非とも私も知りたい。
「わかりません、ついでに言えば今回は私だけじゃないんですよ」
「マジかよ、誰が来てるんだ?翼か?」
「当たりです、それに加えて私の妹が」
「お前妹居たのかよ!?いや待て、前に話したときは一人っ子っていってなかったか?」
「出来たんですよ、血は繋がってませんけどね」
「結婚でもしたのか……?」
「……いえ、まだ結婚してませんよ」
そういえば前に来た時はまだカメリアは居ませんでしたからね。
と、噂をすればギアを纏った翼さんがカメリアを連れてやってきましたが、私の隣に居る奏さんの姿を見るや表情がものすごく複雑に。
「そっかぁ、そっちは二年経ってるんだったなぁ……翼も変わるよなぁ……それと隣に居るのがお前の妹か」
「ええ、そうです」
「か……奏……」
「ああ……そういえばそっちの翼とは一瞬会ったきりだもんな、いつも会ってる翼とはまた別と考えると……」
「……え?いつも会ってるって……」
「ああ、別の平行世界との行き来が出来るんだよ、ギャラルホルンって聖遺物でな」
ええ……ええ……!?
そんなのあるんですか!?
とにかく、一先ずはどうにかなりそうなのは安心ですが……しかしどうしましょう。
「あ……ああうん、あの時以来……だな、奏……」
翼さんもどう伝えていいのかわからない、といった表情をしていますよ……。
「はじめまして奏さん、私は加賀美カメリアと申します。今は翼さんと詩織お姉様と一緒に暮らしてます」
「へぇ~同居してんのか?」
「あぁ……はい」
「それはもういつもイチャイチャとしていまして、おしどり夫婦?どっちも婦ですけど」
か……カメリアァーッ!!!言いにくい事をぉーっ!!
「……なぁー?翼ぁ?詩織ぃ?その辺りよーく聞かせてくれよな?」
ああ……奏さんがめっちゃ悪そうな笑顔をしている……。
「そ、そうだな……」
「……そうですね」
一難去ってまた一難、道のりはどうやら険しそうです……色々な意味で。