萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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素敵なファンアートを頂いたので小説トップに貼ってあります、見ろ。


あなたで居られなくなる前に

 立花さんにメディカルルームを占領されていたので司令に話を聞いた。

 

 どうやら融合症例が進行してとんでもない事になっているらしい。

 

 しかもそれは私と違い、近い将来「死」という形で立花さんに跳ね返るというもの。

 

「どうしたものですかね……」

 

 私も検査でまた新しい症状が発覚、分泌物、主に汗なんかが「イカロスの蝋」に置き換わっていて、肌をコーティング、高熱などに反応して融解して剥離する事で私の身を守るというまたしても面白要素が加わってしまいました。

 

 しかもこれ、ある程度自分で制御して分泌したり、溶かす事で床を滑るみたいな使い方も出来てびっくりです。

 

 それはともかく。

 

 

 立花さんが死ぬ。

 

 それは嫌だ。

 彼女だって大事な仲間だ。

 

 ちょっと陽キャが過ぎて、眩しくて、ノリや空気が苦手だけど。

 彼女がいなくなったら、なんて考えたくない。

 

「詩織……」

「翼さん」

 

 休憩室で何が出来るだろうかと考えていると翼さんと会いました、久しぶりです。

 

「翼さんも何か悩み事ですか……」

「そういう詩織も、よ」

「立花さんですか」

「っ……!詩織も聞いたの……?」

 

 やっぱりですかぁ……。

 

「そりゃあ、メディカルルーム占領されてて何事かと……」

「……前から気になっていたけど……詩織は、何故いつもメディカルルームに?」

 

「データ取りですよ、忙しい翼さん達と違って私の時間は有り余ってますから」

 嘘ではない、私も「融合症例」として多くのデータを提供している。

 けれどそれは伝えない、ただでさえ立花さんの事もあるのだからこれ以上余計な心配は増やしたくない。

 

「……私はどうすればいいのかな……」

「難しいですよね、こういう時程、天才的な頭脳が欲しくなります」

 

 もし私に聖遺物に関する知識があったなら、こんな問題をさらりと解決できるだけの力があれば。

 なんて思ってしまいます。

 

 自分の手を見る、今こそ蝋は目に見えない程薄く、肌の上を覆っている。

 だから見た目を変える程ではないけれど、背中やお腹の一部の皮膚の様に肌が全部灰色になったらどうしよう。

 流石に不気味ですよねぇ。

 

 しかし天才的頭脳があれば、これもパパッと解決……できればいいですねぇ。

 

 でもそれが出来ないから、私達は私達に出来る事をするしかない。

 

「とにかくまず出来るのはやっぱり立花さんを支える事、じゃないですかね」

「支える事……」

「そうです、心を支える事は重要だと思います」

「そういう詩織はどうなんだ」

「私は、大丈夫ですよ。広報のストレスで体調崩したら司令から「ゲーム配信」の許可がおりましたからね。大分楽にはなりましたよ」

 

 適合率による体調不良と「万能感」は黙っておく事にします、これもまた心配させたくありませんから。

 

「……そうやってスラスラと話せる時程、詩織は何かを隠してる」

 

 はぁ、なんでこう翼さんは変な所で鋭いんですかね。

 

「そりゃ隠し事も出来ますよ、広報になった事で色々厄介事や余計な秘密も出来ます。でもこの程度昔に比べたら大した事じゃありません。私だって日々成長しているんですよ」

 

 だから下手に隠し事が無いなんて嘘はつかない。

 白でも黒でもなく灰色であれ、それが今の私に必要な事。

 

 そうです、完全な白にも黒にも、眩しいひだまりでも暗い闇の底でもない、薄暗い日陰でなければならない。

 

 高く飛ぶな、太陽に焼かれて溶けるぞ。

 低く飛ぶな、海の水で羽が重くなって落ちるぞ。

 

 まさにイカロスに相応しく、私は中空を飛ばねばなりません。

 

「それよりも立花さんです、あのウキウキ陽キャお嬢さんが戦いから遠ざけられたりしようものなら直ぐに気に病みます。ここは素直に立花さんの身を案じつつ、ちゃんと理屈と感情の両方で押しとどめながら支えてあげましょう、その為にも私は明日からリディアンへの登校を再開します」

 

「詩織!?」

 

「言ったでしょう、翼さん達が皆を守るなら、私達が翼さん達を守るって」

 

 そうですね、私に出来る事は少しでも心の支えになる事。

 

 立花さんだけじゃなくて、翼さんやクリスさんの助けにも。

 

 私が皆の日陰になれたなら。

 

 その思いで、私は戦う事を決めたのだから。

 

「ちゃんと、今ここに居ないクリスさんにも伝えておいてくださいね」

 

「詩織、あなたは本当に変わった」

 

 翼さんが困った様な顔で笑う、釣られて私も笑う。

 

「やりたい事が見つかったから、ですね」

 

「でも忘れないで欲しい、詩織が私達を想ってくれてるように、私達も詩織の事を想っているから」

 

 翼さんが差し出した手を私は両手でとる。

 

 命の「あたたかさ」が伝わってくる。

 

 ……わかっています、この想いは互いに繋がってる。

 

 立花さんがよく言っていた「手を繋ぐ事」それが私達にとって一番大事な事。

 

 

 さぁ、明日からまた忙しくなりそうです。

 

 

 

『明日から学校に復帰するので、ちょぉーっと今日の配信で気合入れようと思います』

 「おりん復学マジ!?」「おりんと生で会える子がうらやましい」「気をつけて行ってね、おりんを狙う奴がいるかもしれないし」「いやおりんに返り討ちにされるだろ」「国防少女やぞ」「学校から配信しろ」「がんばって頭おりんから卒業しろ」心配をする声も多いが、応援する声もちらほら。

 

 さぁ今日も配信だ、これは自分を勇気付ける為のモノ、決してやましい理由からではない。

 

『じゃあ今日は「さやかの唄」をやります』

 「あっ(察し)」「純愛ゲーや!」「開幕グロ肉やめろ」「おまえーっ!」「グロ注意やぞ」「リンク貼ってるから概要欄見て、察して」噂に聞いてた凄い奴、ずっとやりたかったんだよねぇ。

 

 ストーリーは事故に遭って後遺症で感覚がおかしくなってしまったバイオリン演奏者の少年が「人魚姫」と出会う話だ、そうだ、超たのしみである。

 視聴者数がモリモリ減っていくのも楽しい、ふるい落としである。

 タイトル画面を立ち上げるまでに4万人減った。

 今居るのは5万のダンゴムシ予備軍であり、多分終わる頃には1万くらいになってそうだ。

 

 このゲームもR-15、グロ注意である。

 

『うわぁ…景色がグロ肉に見えるってキツいですね』

 「俺には普通にしか見えない…」「早速おりんが狂気に入り込んでいる」「はて病室にしか見えませんが(白目)」このゲームも結構前の作品だ、実はある程度ネタは知っている。

 

 正しい世界が狂って見えて、おぞましい怪物が美しく見える。

 

『これがさやかちゃんですか、デザインが秀逸ですねぇ』

 「ラスボスきたな……」「メインヒロインや!」「これが美少女に見えるなんて精神状態おかしいよ…」「おっそうだな(撲殺)」「冷凍弾を出せ……」メインヒロイン登場と同時に混沌に包まれるコメント欄、冷凍弾は確かEDの一つでしたっけ。

 

『……私も孤独な世界でただ一つ美しいものを見つけたなら、惚れますね』

 「翼さんのことかな?」「翼さんに惚れてるのか」「翼さんに告白しろ」「翼さんとコラボ再開しろ」「翼さん最近忙しいらしいからな…」いやなんで急にそんな翼さんを推して来るんですか!?

 

『いやいやいや、私は確かに翼さんの事は好きですけどそういう感情ではありませんって!』

 「嘘つけ、コラボの時ウキウキだったゾ」「のろけ配信のログもある」「翼さんのただのファン」「いいや!よく訓練されたファンだね!」そうです、そうです、仲間で、友達で、ファン、それだけですよ!

 

『それにこのゲームの時に出す話題じゃありませんよ!知ってるんですよ!ヒロイン死別か離別か心中しかルート無いって!』

 「あっ(察し)」「おりん……お前消えるのか?」「おりんは翼さん置いて死にそう」「不穏な事いうのやめろや!おりんはマジで命張ってるんだから!」「正直すまんかった」

 

 はぁ……まったくこのアホどもは、私と翼さんの関係をなんだと思ってるんですか!

 

 

 

>@風鳴翼【公式チャンネル】:おりんにとって私は遊びだったの!?

 

 

 何をアホなコメントしてるんですか、翼さん。

 というかなんでこんなアホな配信を見ているんですか。

 

『いや、翼さんねぇ……遊びじゃありませんけど。誤解を招く事はですね』

 「ここに塔を建てよう」「やば……」「翼さーん!翼さーん!見てますかー!フラーッシュ!」「キテル……」ああもう、滅茶苦茶ですよ!

 

 たった一言のコメントでもう流れは翼さん一色、何かイベントがある毎に私と翼さんに結び付けてきます。

 

 辿り着いたエンディングは共に雪の中で手を伸ばし事切れる「ガラスの幸福」エンド。

 

『めっちゃ美しい、しんどい……』

 「俺達もつばおりで妄想したらしんどくなった」「翼さんは意地でも守れ」「ライブの時に翼さんを守る為に飛び出したおりんの映像で100回泣いた」「親友の為に世界にその身を晒した女」「一生世界の宝物」「一生翼さんの友達でいろ」ま、まったく余計なお節介です!

 

 

 

 配信を終了し、電源を落とす。

 

 翼さんの友達、私はいつまで彼女の友達でいられるのでしょうか。

 

 

 でも、この命尽きるまでは、翼さんを追って生きたい……かな。

 

 十分に気合は入った、後は明日から動くだけ。

 

 うまくやれ、加賀美詩織。


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