萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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静かな時

 あかんかったぁ……。

 

 独断に次ぐ独断、無断行動に無断行動を重ねてついに拘束された。

 二課仮設本部で常に誰かしらの監視付きの反省室行き。

 

 司令の話では、私が捕縛してきた「奴ら」も大問題だし、そいつらがした事も大問題、おまけにカメラに収められたフィーネ改め…マリアの行動もまた議論の対象になって政府も世間も大騒ぎ。

 その対応の為に指示をしてる暇もなく、しばらくは二課は独自行動を許される代わり、「加賀美詩織」を保護観察処分にしなければいけなくなった。

 

 ちなみに世間には私が撃たれて「破損したシーン」はシンフォギアの「機能」と説明され、現在「療養中」という形で私の拘束は隠されているらしい。

 

 おまけに小日向さんが行方不明、改め何者かに拉致されて、気落ちしていた立花さん達を元気付ける為に司令は外出中。

 

 

 これは……。

 

 暇というか、退屈というか。

 

 何もする事が無いというのは苦痛ですね。

 

 

「なんかないんですかぁ、緒川さぁん」

「なんかないんじゃないですよ、反省してください」

 

 今の時間の監視は緒川さん、反省室に書類を持ち込み、仕事をしながらの監視である。

 

 ちょっとやりすぎたせいか、いや……慌しさのせいか、皆さん少し言葉に棘があるようで……。

 

 いえ、まぁ私のせいなんですが……。

 

「ここの所、加賀美さんは問題を起こしすぎです。前からはとても考えられませんよ」

「すみません、しかし毎回何かしら選ばざるを得ない状況ばかりなので」

「選ぶ前に相談する癖をつけてください、本当に取り返しのつかない事になりますよ」

「……ごめんなさい」

 

 現状はまだ取り返しがつく事なのか、は微妙ですが。

 確かに私は何もかも捨てて、皆の為にある事を望んだのです。

 

「それに加賀美さんは自分を責めすぎです、もっと誰かを頼ってください。その為に僕らもいるんですから」

「誰かを頼る、ですかぁ」

 

 …………。

 

 一人で生きてきた、一人で死んでいくつもりだった。

 

 誰かに頼る、そんな生き方は出来ないと思っていた。

 

 一人だから全てを背負っていける、そんな事を思っていた。

 

 

「もし、も。もしも、ですよ。私の謹慎中に皆がピンチになったら、私を出してくれる様にお願いしてもいいんですか?」

「それはちょっと……」

「やっぱダメじゃないですかぁ!」

 

 相変わらず――の味がするコーヒーに口をつける。

 灰色の部屋の景色、モノクロの視界。

 かろうじて青色だけが色を残している。

 

「皆を信じてないわけじゃありません、でも、皆を守りたいと思う気持ちは……止められないんです」

「その為に、何もかも捨てちゃったら元も子もありませんよ」

「はぁ……もし、私のお父さんが司令や緒川さんみたいな人だったら私もこんなメンドクサイ性格にならずに済んだかもしれませんね」

「あなたの父親にはなれませんが、相談にはいつだってのりますよ」

 

 結論、結果、それだけが全てじゃない。

 手段、道のり、その過程でありうる事、それも含んでこその「辿り着く答え」。

 

 父も母も結果だけを見ていた、当然ながら、私のそこまで歩んできたモノには興味も示さなかった。

 だから私も結果に辿り着いた報告だけをして生きていた。

 

 

 それに今現在も内緒で進めている事がある。

 

 艦内のプラグに「蝋」を糸の様に張り巡らせ、通信を傍受できるようにしている。

 

 正直、担当が緒川さんだから動きでバレないか心配ですが、現在60%、パソコンを経由して二課本部内の全てのカメラやセンサーを見る事が出来ます。

 

「はぁ、加賀美さん」

「なんでしょう」

「あなたのその心配性はわかりましたので、セキュリティに引っかからない程度なら見逃します」

「え」

 

 なんで?どうしてバレたんですか?

 

「司令にあなたの特性は聞いてますよ、電子機器へのイカロスを介したハッキング。この部屋のプラグは二つ、その内一つをベッドを移動して隠している」

「単純な所からバレましたね……」

「これは司令に報告しますからね」

「はぁい……」

 

 やっぱり二課の大人は侮れない……。

 頼ってもいいのかなぁ……。

 

「私も早く大人になりたいですねぇ」

 

「まずは落ち着きと本物の「責任」の扱い方を覚える事ですね」

 

 時間はそうして過ぎていく――。

 

 

 

 

 

 足音。

 現在、見張りはいない。

 

「よぉ、随分と暇してる様だな」

「ええ、暇してますよクリスさん」

 扉越しに話しかけてくるのはクリスさん、この反省室だけは外からでも話が出来る様に廊下側に小窓がついている。

 

 今、二課仮設本部は近海でノイズに襲われている米軍艦の救助に向かっている。

 現場への到着まで、まだ時間は掛かる。

 

 当然ながら勝手に「聞き耳立てて」得た情報だ。

 

「ったく、でもお前はそうでもしないと勝手に突っ走ってくだろ。どっかのバカみたいに」

「そうですね、皆さんのピンチともなれば体が動いてしまうのが私ですからね」

「詩織は心配性だなぁ……」

「そうですね、皆さんを信じてこそいますけど。私にも力がありますから、いざとなれば扉を抉じ開けて出て行きますから」

「やめろよ、絶対やめろよ。後でおっさんに怒られるのはお前なんだからな」

 

 ……まぁ抉じ開けてまではいきません、ちゃんとハッキングして開けますから。

 

 私を動かすのは、私の心だけ。

 

 私を動かしたければ私の心を動かしてみろって事です。

 

 まぁ、反省室に入れられているのは。

 私の本心からの申し訳なさですけど。

 

「クリスさん」

「なんだ」

「心配事でもあるんですか」

「……いや、そう……だなぁ」

「あるんですか」

 

 珍しい、こういう風に歯切れが悪いクリスさんは滅多に見られません。

 

「こうやって戦いを前にすると、もし、もしかしたら、二度と会えなくなる。かもしれねぇって考えちまう」

「そりゃ戦いますからね、死ぬ事もありましょう」

「それでもアタシらは行く、アタシらの想いを持って」

「でしょうね、私も同じです」

「だから確かめておきたかった。アタシの想いが何の為かってのを」

 

 自分の気持ちを確かめるのは大事です。

 それは――私が心のないマシンにならない様にしている事でもあります。

 

「クリスさんの想いはクリスさんの想いです、他の誰のモノでもない、だから自分を信じればいいと思います。それでも不安なら心の中にある歌を信じてやりきる。それしかありません」

「ありがとな詩織、アタシも覚悟は決まった」

 

 クリスさんは、何かをするつもりなんでしょう。

 そういえば聞いた話ではソロモンの杖を起動させたのはクリスさんの歌。

 それが今は敵の手に渡って、私達を苦しめている、その事で何か想うところがあったのかもしれません。

 

「まぁ、困ったときは誰かを頼りましょう、誰かを信じましょう。特に私なんかだったらすぐに飛んでいけますからね」

「そうさせて貰うよ、程ほどにな。っていうかまず詩織に言われたくはねぇよ。詩織こそ人を頼りやがれ」

 

 まったく、クリスさんまでそういう事言うんですか。

 

「じゃあ、そろそろ準備の為に行くよ」

「行ってらっしゃい、クリスさん」

 

 そうしてクリスさんを見送って、行ったのを確認すると。

 私は通信機で翼さんに連絡する。

 

『もしもし翼さん?』

『……どうしたの?詩織』

『クリスさんが何か思いつめてたから、少し相談』

『……詩織が相談なんて珍しい……少し驚いた』

『私は謹慎中で出れないから、クリスさんをお願い』

『……任された』

 

 最近の翼さんの仕事時の口調もいいですよね。

 

『翼さん』

『何?』

『他の皆に接する時みたいなカッコイイ感じの口調で私に話しかけてくださってもいいのよ』

『はぁ……詩織はきちんと謹慎していろ、間違っても戦場(いくさば)に出てこようとは考えるな』

『ん、いいですね。なんていうか頼れる感じがします』

『詩織の口から「頼れる」なんて言葉が出てくる様になるなんてね』

『私も日々、変わりますから』

 

 このヒトならざる身となってもただ一つの道標(アリアドネの糸)だけ頼りに。

 

『頑張ってきてください、翼さん』

『行ってくる』

 

 私は二人を見送る、きっと無事に帰ってくる事を願って。


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