萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
私は日の当たる場所が嫌いだ。
周りの人に自分の弱くて醜い部分を見られたくは無い、けれど自分を隠し続けるのもまた心が息苦しい。
だから静かに一人で孤独で心安らぐ闇が好きだ、闇の中なら弱い自分でいる事が許される。
けれど人間である以上どうしても「ひだまり」の中に引っ張りだされる事もある。
ラジオ配信を始めたのもそれが理由だ、顔を隠して弱くて醜い自分を曝け出せる場所、それが「日陰」なのだ。
私のリスナーはそんな私の闇を笑ってくれる存在だ。
けれどそれは、彼らも同じ闇を持っているから成立する事であり、私と50歩100歩の存在。
変な同情はいらない、変な哀れみはいらない、けれど何も知らないヤツには笑われたくない。
故に翼さんが理由で大量に流入してくるであろう新規・初見の存在が非常に気になる。
一つ分のひだまりに二つはちょっと入れないのと同じ様に、日陰にも限度があるのだから。
今日もまた配信を始める。
手にしたゲームは名作FPS、これで初見を振り落としていく所存だ。
学校での出来事はどうしたかって?
思い出させるな。
今日の待機人数は12000人、クソッ多いな。
『こんばんおりん~今日はねぇ初めての人を振り落とす為にバンバン攻めていきますからね、ここから先は闇の世界だと知るがいい』
初見コメントに紛れ「きたないおりんだ!」「萌え声に釣られた人間よ知るがいい、これがおりんだ」「汚りん」とのコメントが流れる、私の萌え声と闇の融合こそがリスナーを引き付ける。
ゲーム開始と共にゾンビの頭を粉砕する、R-17指定だけあってとてもグロい、これでまず何人かはブラウザバックした筈だ。
『私の~暴力性をですね、皆さんに御見せしようと思いまして、ええ、こうしてこうしてやりますからね』
次から次へと出てくるクリーチャー達をちぎっては投げちぎっては投げ、画面酔いなど無視する勢いでピョンピョン高速で移動していく。
気付けば0時を過ぎ、残っているのは10000人程、まだこんなに残ってるのか。
『私はただの萌え声生主じゃあありません、闇の萌え声生主です。石の下のダンゴムシ達の為の日陰、太陽の下に生きる者には不要な存在です』
「俺達はダンゴムシだったのか…」「おっそうだな」「今日は翼さん来なかったな」等のコメントが見受けられる、翼さん目当てで来てるヤツ多いな……。
『それと先日の翼さんの件はちょっと抗議しましたからね!期待しても無駄ですからね!』
「抗議していくのか(驚愕)」「DEEP†DARK†ORIN」「翼さんに媚を売れ」これでもまだ1万から減らない、意外に闇の住人が多かったのかな?
とにかく、ゲームもキリのいい所まで進んだので終わりの挨拶に入る。
まさか3時間も1万もの人間が付き合ってくれるとは思ってくれなかった、まだ現実感がない。
『まぁ今日はこんな時間まで一万ものダンゴムシさんがね、付き合ってくれましたが、このバズりが落ち着くまで振り落としていくから覚悟しとけよ~?』
「ふりおとさないで」「よく訓練されたダンゴムシが残る」「草」「自分からリスナーを減らしていくのか(困惑)」所詮私は色物配信者だ、多少はヨゴレみたいなネタを使っても痛くも痒くも無いというか、そもそも私の心は汚れてるからな。
『じゃあ次回はBLゲー実況すっか~!!』
「やめて」「ゆるして」「やめてくれよ」「勘弁してくれ」「翼さんに汚いものをみせるな」コメントが統一された、人の心が繋がる瞬間を見た。
『じゃ、覚悟しとけ~?』
と配信を終える。
はぁ、と溜息をついて布団に倒れこむ。
今日一日を振り返る。
シンフォギアシステムというものはなかなかに凄かった。
空を自由に飛べる経験なんて一生ないだろうと思っていたけど、あんなに自由に飛べたら通学もお出かけも自由に出来るだろう。
それに歌いながら動くというのも中々に新鮮で気持ちがよかったが、とても疲れる、あれは続けてやるもんじゃないな、と思った。
でもあれだけで一日10万も稼げるってのはホントいいね、サイコーだね。
これなら月末にはいい感じの配信環境が手に入りそうだ。
そして翼さん、今日は放課後に会う事はなかったが、どうしているだろう、今日の配信も見てくださりやがってたのだろうか。
もう昨日の時点であのとても見せられたものではないものを見られた時点で開き直る事にしたが、ドン引きされてないだろうか今更心配になってきた。
明日学校で「うわっ」って目で見られたら不登校になるかもしれない。
ならないかもしれない。
なんていうか翼さんに汚いものを見るような目で見られるのもなんか興奮するかもしれない。
私ちょっとマゾの気あるかもしれんな……。
あ、でもクラス全体からそんな目で見られたらさすがに心が折れるかもしれない、こう好きな人からのそういうのは嬉しいけど好きでもないヤツからのは全然嬉しくないしな……。
と色々と考えてたら、日が昇ってた。
まずい、寝ていない。
学校だ。
今日は、門の前で翼さんと会うような事はなかった、おかげで「今日は」クラスでも特に注目される事もなく、無事居眠りも出来た。
そして今日もお仕事の時間だ、エレベーターを使って地下の二課の施設へと向かう。
「こんにちわ、翼さん」
「……ああ、加賀美か」
するとそこには翼さんが居たが、なにやら少し怒ってらっしゃる?
「何かあったんですか?」
「いや……加賀美が気にする事じゃない、これは私の問題よ」
「そ、そうですか……では私はデータ取りに向かい……」
聞くのも悪いし、さっさと行くに限る。
「あ、詩織ちゃん。来て貰って悪いけど今日のデータ取りは中止よ」
「えっそうなんですか」
すると向こうからやってきた櫻井さんに中止を告げられた、なんだよ……ついてねぇじゃねぇか……。
「昨日新しい子が入ってね、その子の検査とかもあるからちょっと私が見てあげなきゃいけないの」
「そう、ですか……では私は今日はこのまま帰る事にします」
ええ……適合者ってそう簡単には増えないらしいから安泰だと思ったんですがねぇ……まさか一日で新しい適合者が出てくるとは……まぁ知りませんけど。
「ごめんね、でも明日はあるからちゃんと来てね?」
「了解です」
はぁ、ついてねぇ~~とりあえず帰ったら予告どおりBLゲーの配信しよ。
「あ、それと司令が明日のデータ取りのプログラムは格闘と射撃だって言ってたわよ、あなたの配信でセンスを感じたらしいわ」
「アアアーッ!!?昨日の配信みられてたんですか!?」
嘘でしょう?ただのゲームですよ!?エイムはそこそこ自信あるけどリアルでやれって言われて出来るわけないでしょう!?
「なかなかの反射神経だって褒めてたわよ~?ただいかがわしいゲームは程々にしなさいとも……」
「ハハッ……はい……」
まじかぁ……まじかぁ……。