萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
『――ノイズの発生源とされるバビロニアの宝物庫は破壊封印され、その鍵であるソロモンの杖も消失。現在の所新たなノイズの出現は確認されていません』
「ついにノイズは滅んだのか」「これで犠牲者も浮かばれる」「でもまだ安心するには早い、まだ生き残りがいるかもしれないからな」
『また月軌道は正常化、皆さんがご存知の通り。マリア・カデンツァヴナ・イヴとこの地上に住まう人々の思いが一つとなった奇跡の結果です』
「不思議な気分だった」「全世界に裸を晒した女」「おりんの新しい仲間が決まったな……」
『それでも彼女はテロリストとして世界に宣戦布告した身、今後国連の会議にて彼女の処遇が決まる予定です』
「無罪放免とはいかないしな」「彼女の不本意とはいえ巻き込まれて死んだ者もいる」「功は称えられど、罪は償われるべきだ」
『以上をもって、報告を終わりとさせていただきます。続きましては私の「特異災害対策機動部広報」としての活動ですが、二課の国連への編入・再編成を機に終了とさせていただきます』
「お疲れ様」「また別の広報に変わるのかな」「再編後も配信しろ」
『個人としての活動については、続けさせていただく形です』
「そっちは聞いてない」「言われなくても知ってた」「翼さんとコラボしろ」「マリアもコラボさせろ」
『それでは、ごきげんよう。』
広報としての最後の配信を終える。
私のあの「証拠映像」と「捕縛した武装集団」のおかげで、マリア達の処遇を決めるのは日本政府の意思が少しばかり融通されそうだ。
ぶっちゃけ、目が覚めてからも彼女らとは会っていないので、どう、と言われても「うーん…」としか言えないけれど、響さん達と和解して、世界を救ったなら……私に関しての事は水に流しても良いとは思っている。
そもそもあんまり私は根に持つつもりは無いし、初対面で顔殴ったり殺しかけたので……。
私が目を覚ましたのは一ヶ月以上後だった。
あの光に巻き込まれた後「黒い繭」で仮死状態で眠っていたそうです。
その成分は相変わらず蝋、イカロス由来のモノだったそうです。
最後まで、ずいぶんと私のワガママというか、暴走に付き合ってくれたというか……そもそも暴走した原因もお前だよな!?って気分でした。
ですが、いざ無くなると寂しい気分です。
黒茶色のコーヒーを飲む、香ばしさと苦さが口の中に広がる、もう口の中で蝋がドロドロに溶ける事も、あの虚無感みたいな味も感じる事もない。
私の体は「あるべき形」に戻りました。
それは同じ光を浴びた立花さんも同じで、彼女の命を蝕んでいたガングニールも消失。
これで融合症例二人が両方完治した形になります。
部屋から眺める景色はちゃんと色鮮やかなモノで、青だけじゃなく緑も赤もきっちり見えるし、画面も「光の動き」ではなく映像として見える。
半分に割れたペンダント、結果としてこのイカロスは私の命を守ってくれた。
散々、周りに迷惑を掛け、私を狂わせ蝕んでくれやがってこのクソやろうって気分もありますが。
そもそも、最初にフィーネに隙を見せてやられなければ、ちゃんと通信して連絡を取り合っていれば、あんなことになる事もなかった。
そうです、フィーネが全部悪いってことでいいんですよ。
そもそも最初に私を二課に引き込んだのもアイツですし。
はぁ。
「本当に自由でしたよね、あなた」
……正直、自信が無いので、誰にも話してませんが。
この「イカロス」には意思があったのではないかと思います。
「不器用」ながら私を守ろうとしてくれた、その結果、滅茶苦茶な事になってしまいましたが。
きちんと「本当の体」に戻れた今はもういいのです。
それに、結果として私はまた少し変われた。
『はーい、もしもーし、うたずきんさーん聞こえてますかー?』
『きこボボボボえ…てボボボボ』
『マイクおかしいですよー!?』
「草」「おりんが来るまでも緊張してたし」「クソザコ感染してない?大丈夫?」「現れるだけでうたずきんのマイクを破壊する女」あらぁ、クリスさん、あなた…あらぁ……。
『うたずきんさーん、ちょっとー?』
『だ、大丈夫だ!!』
『あ、よかった……という訳で皆さんご存知の通りうたずきんさんの初生放送にゲスト兼サポートとしてお呼ばれした「おりん」です』
『きょ……今日はよろしく』
『はぁーいよろしく』
「イキりおりん」「後輩にイキるな」「調子にのるなよおりん」「歌でマウントを取り合え」「うたずきんかわいい!」フフ……今の私がクリスさんに勝ってるのは配信の年季とリスナー数だけ、音楽の再生数では瞬く間に抜かされ、おまけに話題までかっさらわれました。
というのも、クリスさんが翼さんとコラボ曲動画をアップして、将来的にデビューを目指して練習を開始したそうです。
まったく私も負けてはいられません。
『というわけで今日は一緒にゲームをやっていきたいと思います』
『今日やるゲームは「パイロット&ガンナー」二人で戦闘機を操作する、ゲームだけど大丈夫かぁ?アタシ自信ないぞ……』
『うたずきんさんは撃つだけでいいんですよ、パイロットは私がやりますから』
「おりんの動きを信じろ」「実質音ゲーじゃないか!」「これガンナーの方が難しいんじゃ……」「うたずきんのゲーム配信初めてがこれか……」「おりんは歌いながら操縦しろ」無茶振りが飛んできましたね。
『はぁい、じゃあおりんは歌いながら操縦します』
『はぁ!?「うたずきんも歌いながら撃って」って無茶振り……んの……そんな事言われた……退けねえじゃねぇか!』
「ツンデレうたずきん良い……」「照れずきん」「おりんもかわいい事しろ」「語気が強いのにかわいい女」くっ!可愛さでも完全にクリスさんに全部持ってかれてます!
『じゃあ、即席デュエットしながらの「パイロット&ガンナー」皆さんお楽しみください』
『武器は……ウェポン1がワイドショット……2が機銃、3がロックオンミサイルで行くぜ』
『はい、じゃあ私はフレア・バレルロール・オプションで』
楽しい時間はすぐに過ぎる。
『畜生!コンテニューだ!クソッタレ!』
『これでクリアしましょうね、うたずきんさん』
「がんばれ」「後少しだ」「ゲームに集中してるのに歌えるの凄すぎる」「初プレイで4コンテニューか、まあまあだな!」「おりんが足を引っ張りすぎる……」「イキり失敗シリーズ」「おりん惨敗シリーズ」「また音程を外して撃墜されてて草」
うっ!仰るとおりです……私が音程を外して、クリスさんが迎撃タイミングをミスって撃墜される。
それを何度もやらかした、けどステージ5まで来るとタイミングをクリスさんがあわせてくれる様になって私も音程を外さないようになった。
そして、最後のボスを撃破し、ゲームセット。
『はぁ~お疲れ様でした!うたずきんさん!』
『お疲れ、楽しかったな!』
『はぁい、本当に……音程外したりして最初はアレでしたけど』
『けど段々とどう合わせればいいか分かってきてからは爽快だった!またこういうのやろう』
『ありがとうございます、では私は今日はこの辺りで』
『お……おつおりーん!』
「おつおりーん!」「かわいい(確信)」「この後おりんもう一回放送あるんだよな……」「過労死しない程度に配信し続けろ」
どうにかクリスさんの初配信を事故にせずに済みました。
無事にマイクを切ると、次の配信の準備をする。
すると、端末に翼さんからメールが来る。
今、翼さんは海外ライブに向けて忙しくて最近は会えてませんが。
こうして頻繁にメールのやり取りをする。
『雪音と随分お楽しみだったようね、ところで時間が空いたからこの後ゲストとして行っても?』
断れるとでも……?
『仕方ありませんねぇ……予定を変更してラジオで?』
『何を言ってるの、ゲーム対戦よ』
最近、翼さんのゲームの腕が上達してきている。
と言うか元々反射神経とかいいから、格ゲーとかではもう勝てないんですが……。
『それじゃ、楽しみにしてるから』
楽しい時間はまだまだ終わらない。