萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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炎の記憶

 炎があがる。

 肉の焼ける匂いがする。

 

 

 それはそうだ、肉を焼いているのだから。

 

 一人で。

 

 

 ちらちら見られているだとか、店員さんの笑顔が引き攣っているだとか知らない。

 

 焼肉をする時はですね、一人でいいんですよ。

 自分で焼いて、自分で食う、それ以上の事は無いんですよ。

 

 他人に奪われる事も無ければ、他人の為に焼く事もない、己の為だけに在れる安息の時間なんです。

 

 肉ばっかり食べてるだとか、野菜が無いだとか知りませんよ、野菜なんてですね、家で幾らでも食べられるんですから。

 ハラミ、タン、ハツ、カルビ、ミスジ、レバー、ホルモン、カイノミ、あらゆる肉を好きなだけ食べられる時間なんです。

 

 白いご飯にレモン汁につけたタンを乗せて口に運ぶ、「舌が肥える」と言うくらいに、脂肪の乗った霜降り、溢れ出る肉汁とレモン汁のすっぱさがベストマッチ。

 お米の甘さも加わると非常にやばいです。

 

 次はタレ付けのホルモンです、こいつは固くて何時呑み込めばいいのかいつも迷いますが、焼き加減で脂を調節できるし、味がいつまでも出てくるので嫌いにはなれないんですよ。

 

 続いてミノ、こいつも固い、ひたすら固い、味が染み出る、おいしい。

 

 そして楽しみにしていたハツ、心臓というだけあってやっぱり「命」の力強さを感じるようなコリコリ感、この部位が一番好きなんですよねぇ。

 

 

 

 いや、こうやって焼肉を楽しむのもいいのですが、それ所でもないんですよねぇ……。

 

 最近、「企業案件」が私に依頼される様になってきた。

 

 それはかつて「広報」をやっていた実績からか、世界の救世主たる装者の一人であるからか。

 大中小、様々な案件があります。

 

 それこそ大企業に年棒幾らでしっかり独占契約する物から配信動画内で宣伝をする様な簡単な物まで。

 とはいえ、今の所その全ては断らせて頂いている、それは「まだ全てが終わったとは言い切れない」あるいは「まだSONG協力者としての立場がある」など。

 現状が、本当に全て解決している状態とは言い切れないからである。

 

 「イカロス」も国連の技術チームがコンバーター機能の一部復旧に成功し、今度私が再び起動できるか試験する予定も入っているし、それが成功すればまた私に仕事が振られる可能性もある。

 

 そうすれば企業案件を受けている暇も無くなるかもしれない。

 

 配信者として食っていくのもいいのですが、やはり聖遺物研究、特にシンフォギアシステム「イカロス」の解析に当たっては適合者も必要だろうし……。

 

 そうなると私の仕事な訳で。

 

 ……いっそ、研究チームに入れる様に頑張る、なんてのもいいかもしれません。

 その、報告連絡相談は苦手ですけど、研究者なら結果を出して、データを渡せばいい!みたいな所もありますし。

 

 網の上で燃え上がるホルモンの脂を落とし、タレにつけて鎮火する。

 

「難しい所ですねぇ」

 

 米が冷めない内に程々に肉を焼いては口に運ぶ。

 

 おいしい。

 

 

 …………もしイカロスが再び纏える様になったなら、私はどうするんだろう。

 もう、戦う敵はいない。

 災害救助目的として活動。

 ……私の直情的な行動ではきっと皆の足を引っ張る。

 

 ……どうして私は自分勝手に動いてしまうんだろう。

 

 実際にそれで死に掛けて、迷惑掛けて、厄介な事を抱え込んで。

 

 私の命は私の物なのだから自由に使いたい、けれど、私が死ぬ事で悲しむ人が居る、私が死ぬ事で迷惑を被る人が居る。

 

 これもまた、一人で無くなってしまって、変わった所なんだろう。

 

 一人じゃない、それは幸せであり。

 一人じゃない、それは足枷でもある。

 

 網の端で燃え尽きて炭と化した肉の欠片を見る。

 

 ただ燃え尽きていくだけの生き方は、もう出来ない。

 

 

 皿に載った肉を食べ尽くし、口の中の脂をコーラで落とす。

 

 ただの、愛も知らなかっただけの子供に出来る事はなんだろう。

 

 

 ちょっと食べ過ぎた、会計が思ったより重かった。

 

 少し歩きましょう。

 

 

 

 仮に「イカロス」が復元出来て、再び私が装者として纏える様になるとする。

 その時は私はおそらく、SONGの所属になるだろう、とはいえ前科というかこれまでの活動から仕事を割り振られるだろう。

 しかしその仕事ぶり次第では、任を解かれる可能性もある。

 新しい仕事はきっと「ノイズと戦う」みたいな私達にしか出来ない事ではないだろうから。

 

 それは私がキチンと自分を律して、組織に属するに相応しくあれれば、解決できる問題でもある。

 

 ……それよりも、だ。

 

 再び、イカロスによる侵食が起こったならどうなるのだろう。

 前は「神獣鏡」のおかげで奇跡の様に助かった。

 

 けれど、次は違うかもしれない。

 今度こそ本当に人間でなくなるかもしれない。

 そうすれば私はどういう扱いをされるのだろうか。

 

 人として認められるのか、それとも自律するだけの聖遺物と見られるのか。

 

 それに、今度も死なずにいられるのだろうか。

 

 そういう意味では、一部復旧したイカロスの起動試験も……少し怖い。

 

 

 だけど、これは私にしか出来ない事だ。

 何者にもなれず、ただ世界の日陰で沈んでいくだけだった私に与えられた使命の様なモノ。

 私に付随する存在価値。

 

 配信者としての価値もあるかもしれないが、それよりも重く、今の私を不安定にする価値。

 

 ……今でこそ、イカロスが破損した事は世間では公表されていない。

 だけどイカロスを失った事を皆が知れば、私に失望するのではないか。

 イカロスを纏えない私に価値はないと皆が離れていくのではないか。

 

 そんな不安もある。

 

 

 ………。

 

 それでも。

 

 変わらない事だってある。

 

 翼さんは今も変わらず友達と呼んでくれる。

 立花さんだって、クリスさんだって仲間と呼んでくれる。

 

 司令や緒川さんだって、ちょっとした悩みを聞いてくれたりする。

 

 ……ああ。

 

 それに、未だにしぶとく私のリスナーなんてやってくれてる人々もいる。

 

 

 それは私の標。

 

 気がつけば一人では無くなっていた。

 4月のまだ寒い空の下、一人笑う。

 

 人を信じられる、こんな幸福が近くにあったなんて知らなかった。

 

 気がついていた筈なのに、すっかり忘れていました。

 

 

 おかげで気分は晴れました。

 

 これなら今日の配信も、それなりにいい気分でやれそうです。

 

 久しぶりに歌枠にでもしましょうか。

 

 そうして、私は帰路につく。


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