萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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「ニグレド(腐敗)」(Nigredo)黒化(腐敗) : 個性化、浄化、不純物の燃焼
「アルベド」(Albedo)白化 : 精神的浄化、啓発
「ルベド」(Rubedo)赤化 : 神人合一、有限と無限の合一


不死鳥

 イカロスの翼、蝋で固めた「羽根」の集合体。

 ならば、「羽根」の元となった「鳥」がいるのも当然の話だったのでしょう。

 

 それが、これまで私の身に起きた異常「全て」の答えだったと私は知る。

 

 

 

 

 全くもって、運が悪いというか、翼さんのライブを平和に見れないとか、私は呪われているのではないでしょうか。

 

『藤尭さん!次どっちのルートで!』

『次の曲がり角を右に!』

 

 なるべく人の居ない場所へ、なるべく被害の出ない場所へ、私は「彼女」を引き連れて逃げる。

 

 

「巻き込んでしまって……ごめんなさい!加賀美詩織さん!」

「謝るのは逃げ切ってからにしてください、本当に!」

 

 遮蔽物にしていた塀がもう持たない、そろそろ走り出さなきゃマズい。

 銃声は聞こえないのに飛んでくる「弾丸」のおかげで、掠った左手はもう血塗れ。

 

 

 

 事の始まりは、ライブ鑑賞前の買出しの帰り、金属が「はじける」様な音に気付いた事。

 追われるハレンチルックの少女、上から見下ろし「何か」を「撃ち出して」いる者。

 間違いなくただ事ではない、と私は「SONG」に連絡し追跡を開始、車の爆発の衝撃で吹き飛んだ少女「エルフナイン」を助け起こし、共に逃走劇を開始。

 申し訳ないけれど正式に「援軍」を要請しつつ人気の無い所へ向かっている所である。

 

「で、エルフナインちゃんはその箱をSONGに届けたい訳だけど、中身は何ですかねぇ」

「聖遺物……ダインスレイフの欠片です」

『だ、そうですよ。これは厄いですねホント……』

『とにかく無理はするな詩織くん!今クリスくんと響くんを向かわせている!』

『でもちょっと無理しないと、壁にしてる塀がそろそろ無理になってきてるので、ちょっと動きます!通信が切れてなければ生きてますから!』

 

 私だって一応鍛えている、平和になってからも、SONGからハブられて協力員になってからも、緒川さんとやったトレーニングを思い出してみたり、知り合いの「忍者」の人からも簡単な護身を教えてもらった。

 

 ハンカチで左腕の応急処置は完了、さて……行きますか!

 

「さて、いきますか。エルフナインちゃん」

「……はい!」

 

 再び私はエルフナインちゃんを抱えて走る。

 

 完全ではないけど、忍びの「分身」の動きで、素早く、敵に動きを読まれないようにィッ!!

 

 痛ッぁあああい!また掠りましたよ!くそ!付け焼刃の忍術じゃダメですか!

 

『次の分かれ道を左に!その先の公園へ!』

 あおいさんからの通信を何とか聞き取り、ギリギリまで相手を引き付けて左へ!

 

 しばらく進むと確かに公園がありました、海辺の公園ですから、この時間は確かに人はいない。

 

『後、何分持ちこたえれば!?』

『後5分持たせろ!二人がもうすぐ……何ィ!敵襲……だとォ!?』

 

 茂みの中に飛び込み、とにかく「見下ろせる場所」から見えない様に逃げる。

 やっぱり!

 敵は「一体」ではなさそうですね!

 

 

『敵襲て、ちょっとマズそうですね!どっちかだけでも来れませんか!?』

『響くんが残って対応した!クリスくんが遅れて7分で到着できる筈だ!それまで何とか凌げ!』

 

 クリスさんなら、最悪ミサイルにでも乗ってやってきてくれる……もっと早く来てくれるかもしれません。

 

「はぁ……さて、エルフナインちゃん……敵の詳細とかわかるかなぁ?」

「敵は……敵は錬金術師……キャロル」

 

 錬金術……錬金術ってアレですか、よくファンタジーなのに出てくる……?

 

『錬金術……だと』

『科学と魔術が分かれる前の技術体系……シンフォギアとはまた違う異端技術……』

 

 通信機の向こうで司令と藤尭さんの会話が聞こえる、異端技術って他にもあったんですねぇ……。

 

「で、今追ってきてるのは?」

「……オートスコアラー、錬金術によって作られた自律駆動する人形です」

 

 あ、そこはオートマタじゃないんだ……スコアって事は多分「譜」ですよね、つまりは……歌と関係でもあるんでしょうか?

 

「それで、後5分。なんか持たせられる案ありますか?」

 

 茂みの中で息を潜め、小声でやりとりをする。

 

 コツコツと足音が聞こえてくるからして、敵は間違いなく近づいてきてるし、自動人形とかロボみたいなのに限って「生命反応」とかでこっちを追ってくるんですよねぇ。

 

「……ごめんなさい」

 

 さて、音から推測するに距離は50mあるかないかでしょう。

 

 これ以上逃げるのは……正直、体力的にキツイところもあります。

 そもそも、エルフナインちゃんも足を怪我してもう走るのはキツそうです。

 

 ただ、相手はこちらを「殺そう」とはせず、あくまで無力化しようとする感じで追いかけていました。

 という事は、目的は「生け捕り」。

 

 うまく立ち回れば、時間を稼げます。

 

 距離20m、姿が見えてきました。

 ちょいと派手な格好をした女、の様な人形ですか。

 やるしかありませんね。

 決めるぜ、覚悟。

 

「エルフナインちゃんは隠れててください、最悪の場合……もう少し頑張って耐えて走ってください」

「加賀美詩織さん……何を」

 

 止血、ヨシ!

 覚悟……よし。

 さらば茂み。

 

「さて……逃げるのはやめにしましょう、そこのド派手なお方」

「派手、とは言ってくれる。地味に追い詰めたつもりなのだがな」

「地味?いえいえ、爆ぜる金属音、砕ける音、派手な音楽ですよ」

「まあいい、加賀美詩織、お前の後ろに隠しているモノを渡してもらおう」

「随分、私も有名人になったものですね」

「派手に世界にその名を晒したからな、それとも戦うか?シンフォギア無しで」

 

 ……私にシンフォギアが無い事は、まぁさすがにバレてますね。

 あったならとっくに応戦してますし。

 

「戦う、でしょうね。何せ私は正義の味方ですから」

 

「気取ってくれる……が、それだけ」

 

 キラリとあいつの手が光る、何かを持ってる、アレが武器なら。

 

 「金属音」が聞こえるより早く身を屈めた。

 

 おかげで致命傷は、免れましたね。

 

 右肩を何かが貫通しました、が。

 

 あまりにダメージが大きすぎると痛みじゃなく熱しか感じませんね。

 

 まぁ、またちょっと興奮している分もあるんでしょうけど。

 

「次は頭と心臓を打ち貫く、死にたくないなら」

「死にたくは、ありませんね……」

 

 さすがにこれがちょっと限界です。

 ちらりと通信機に目を……

 

「時間稼ぎか」

 

 時間確認できませんでしたね、後何分持たせれば……。

 

「無駄な事だ」

 

 再び聞こえる金属音、そして砕け散る通信機と。

 

 目の前に噴出した血。

 

 あ、やられましたね。

 

 これ。

 

 

「詩織さん!!!」

 

 まったく、逃げろといったのに、エルフナインちゃんは……。

 

 

 これじゃ、死ねない。

 じゃないですか。

 

 そうですよ、こんな所で、死ねる訳が無いじゃないですか。

 

 

 終われる訳が。

 

 

「派手に血を撒き散らして、まだ立つか」

「そりゃ立ちますよ、生きてますから」

 

 おかしいですね、随分と体が熱いです。

 まるで燃えているような。

 

 そんな気分、いえ本当に燃えてますねこれは。

 

「これが……イカロスとの完全な融合……その状態から完全な「人間の姿」で「繭」から再生した……」

 

 後ろでエルフナインが何やら言ってるがちょっと聞き取れませんね、まあ……。

 

 

 

 

 

 まぁ、覚悟はしてましたよ。

 

 本当にあの状態から人間の形に戻れたのも不思議でしたし。

 

 

 

 

 

「加賀美詩織、お前はやはり人間ではない」

 

「ええ、まぁ……そりゃ血塗れ状態から燃えて立ち上がる面白人間はいませんよね」

 

 ただ燃えるだけじゃない、これは私の「羽根」だ。

 

 じゃあ私は何だ?

 

 鳥ですか?

 

 

 火の鳥、まさか。

 

 

「イレギュラー……早めに見つけておいてよかったと喜ぶべきか……了解……マスター。始末しましょう」

 

 っと何か来ましたね。

 

 あれは……ノイズ、でしょうか。

 滅んだと聞いてましたけど……まだ残ってましたか。

 

「――唄え 謳え 詠え 火 赤き 赤き 命」

 自然に口から歌が紡がれる。

 

 これはまるで「シンフォギア」を纏っている様な。

 

 いえ、この炎が、私の体から溢れるコレは間違いありません。

 シンフォギアそのものです。

 

 ならば、やれる筈です。

 

 ノイズを、倒せる筈です。

 

 ―バーニング・ブラッド

 

 纏う炎で飛びかかって来たノイズを纏めて焼き払う。

 

 ですが肩に一発頂いてしまいました、赤く光って「分解」されますが、その部分を「自切」して難を逃れます。

 どうやら、このノイズには「バリアコーティング」が効かないようです。

 

「生 死 生 我は 不死 不死なる 鳥よ」

 

 イカロスの翼を作った人も、櫻井了子…フィーネも、まさか「不死鳥」の羽根が紛れ込んでるだなんて、思ってなかったでしょうね。

 

 そしてそれが、私の「死」をトリガーに動き出した。

 一度目の死は「フィーネ」の手によるもの。

 再生はイカロスの蝋との融合。

 二度目の死は「神獣鏡」。

 再生は黒い繭からの誕生。

 

 そして三度目の死は目の前の「オートスコアラー」によるもの。

 三度目の再生でようやく、不死鳥に近づいたのでしょうか?

 

「派手な炎だ……全く厄介だ」

 

 そう言うと、目の前の敵は光と共に消える。

 

 どうにか、退けられましたか。

 

 

 私は炎を「解く」と膝をつく。

 

 とはいえ、私は完全な不死……ではなさそうです。

 すごく痛いし、炎を燃やす分だけ私の中の何かが「なくなっていく」感覚がしました。

 

「詩織さん!」

 

 駆け寄ってくるエルフナインちゃんの声が遠い。

 

 

 

 少し休ませてもらいますか。

 

 


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