萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
聖詠と共に纏うは「真紅」のギア。
『イカロス、展開成功。「蝋」の増殖は抑えられています』
藤尭さんからの通信を聞きながら、安堵の溜息を吐く。
『標的を出してください、数はおまかせします』
さて、ここからが本番だ。
歌い始める事でエネルギーが蓄積していき、力が漲る。
前の様な「異常な高揚感」は感じられない、いたって冷静、きちんと制御できている。
目の前に現れる多種多様なノイズの群、今回はまだデータが少ないが設定を「アルカノイズ」に寄せている為、被弾はアウトだ。
『「焼却現象」を確認!計測開始します!』
この試験の目的は私の戦闘スキルを「取り戻し」つつ、イカロスの活動限界を測る事。
ノイズから放たれる弾丸、それを低空機動で回避しつつ、機銃を展開、狙いを正確に――。
あくまでトレーニングルーム内なので実弾ではなく、威力の低いビームで放つ。
着弾と共に破裂、直撃してないノイズまで炸裂したビームで穴だらけ。
『威力を絞っても十分以上です、もっと量とノイズの耐久性を』
『わかりました』
いくらシンフォギアの攻撃力の前ではゴミクズの様に消し飛ぶノイズとはいえ、多少は耐久度の差はある。
なので全ての敵の設定耐久値を上げてもらう。
しかし、トレーニング用に威力を落としてもこの破壊力、実戦で使う時は誤射や流れ弾にも注意しなきゃいけません。
戦闘開始から2分半、「空蝉」を盾にし被弾を回避しつつ、拡散レーザーでノイズを纏めて焼き払う。
敵があまりに多い時はやはりロックオンより拡散の方がいいです、むしろ融合していた頃のどんなに多くてもロックオンしていたのがおかしいのです。
『詩織さん、焼却現象がイカロスの蝋の増殖率より早くなっています。この計算ならば残り3分で活動限界です』
あおいさんからの通信でようやくイカロスの継続戦闘時間が判明した。
これなら5分程度、ですか。
『「カートリッジ」の交換のテストを続けて行っていいですか?』
エルフナインちゃんが実装してくれた「カートリッジ」は簡単な構造で、現状3つ、シンフォギアのストレージ内に入っている。
これをマイクユニットを操作する事で切り替える事で「蝋」の完全焼却を防ぎ、再利用できるようにしている。
『わかりました、しかし実戦では交換の間の隙があります。ですからこのままノイズは出現したままにします』
と、続けてノイズが新たに出てきて対空砲火が激しくなりました、これを潜り抜けながらの交換となりますが。
実戦はもっと激しい筈。
私は考える。
動きを止めずにカートリッジを交換するには…。
フェザークロークとブースターを分離合体させ、「ライドモード」に切り替える。
「ライドモード」は立花さんのアームドギアと合体した時をイメージし、アームドギアを独立した支援武装にする形態。
「ライドモード・イカロス」の上に膝のアーマーを接続し、体を固定、なるほどこれなら手も空くし、動きも止まらない。
「カートリッジ・リロード」
音声入力と、マイクユニットの周囲を覆う様なリングを回転させ、「カートリッジ」を入れ替える。
『イカロスからのバリアコーティングへのエネルギー供給が0.4秒停止、気をつけてください』
藤尭さんがギアからのデータを読み上げる、だいたい1秒は防御も危なくなるって事ですか。
っと「ライドギア」が被弾したのでパージして乗り捨てる、再びアームドギアを展開し飛行。
『焼却反応はリセット、カートリッジ内の「欠片」は無事です』
ホログラムのノイズ達が一斉に消え去り、景色が戻る。
これで一安心、新しいイカロスのデータ取りは一通り終わりました。
着陸してギアを解除、体にも異常は感じられません。
まったく、エルフナインちゃんには感謝です。
これ程のモノをたった二日で仕上げてくれました。
この二日間の間に私は家の整理としばらくの「配信活動」の休止、あらゆる準備を終わらせ。
日本政府から出向した「特別協力員」の立場を与えられて。
今はこの停泊しているSONG本部にて待機している。
期間はエルフナインちゃんによるギアの強化が終わり、最低でも2基の「イグナイト」ギアが完成するまで。
その為、私はしばらくここで寝泊りと訓練を繰り返すだけ。
休憩室の一角を占領して、ネット検索にふける。
内容は世界の伝承に関わるもの、主に私が調べているのはフェニックスと錬金術。
フェニックスは「賢者の石」と同一視される事もあり、錬金術とも関わりがある。
そもそも「賢者の石」とは何かですが「完全物質」と呼ばれるモノらしく、黄金の練成や不老不死の薬を作るためにも使われる、だそうです。
っと誰か来ましたので視線をやると、そこにはマリアさんが居ました。
「ああ、こんにちは。マリアさん」
「貴女は……加賀美詩織……!」
「これで会ったのは3回目ですね」
最初は敵として、次はよくわからない共闘相手として、そして3回目でようやく仲間ですか。
奇妙な関係ですね。
「……貴女はギアを失って戦線を退いた筈じゃ……」
「今日からギアが復旧してイグナイトギアの完成まで戦線復帰です」
「そう……なの」
そう、一応ではあるけれど。
私の復帰はあくまで「強化改修」が終わるまでの間、それ以降は事件解決まで予備戦力として本部で待機です。
「…………」
「…………」
なんだか気まずい沈黙ですね。
「……ごめんなさい」
「何をいきなり言うんですか」
「ずっと謝りたかった、貴女を世界の目に晒し、貴女から平凡な日常を奪ってしまった事」
ああ、そういえばそんな事もありましたね。
「許しますよ、当初こそアレでしたけど、結果として知名度上がって色々出来たので」
「……それに、貴女の撮った「証拠」のおかげで助けられた」
「こっちこそ、立花さんの友人の小日向さんを助けてくださってありがとうございます。とりあえず全部終わった事なので貸し借りは無しにしません?というか、ここで「はじめまして」にしましょうよ。私全然あなたの事を知らないので……」
そう、よく考えればマリアさんの事は全然知らない、たまに切歌ちゃんと調ちゃんが話題にするくらいですし。
「随分、思い切りがいいのね。翼が言ってた通りだわ」
「という事でお互い知らない事ばかりなので、これからよろしくお願いしますね」
「ええ、よろしく。加賀美詩織」
「詩織でいいですよ」
「じゃあそう呼ばせて貰うわ」
よく考えるとこれで、過去の精算は大体終わりましたね。
「……そういえば、貴女に一つ言いたい事を思い出したわ」
っとマリアさんが何かを思い出したようですね。
「なんでしょう?」
「貴女……「配信」で、切歌と調に変なモノ見せたでしょう!」
「変な……モノ?」
「そうよ!二人ったら貴女の配信を見てから「暗闇の中からずっと後ろから赤い布を被った男に見られてる気がする」ってくっついてくるのよ!」
あっ……あぁ……「アレ」を見たんですか。
「ホラーゲーム配信、そんなに怖かったんですかぁ……」
「調べたけど、アレ本当に怖すぎてアメリカで問題になった作品じゃない!どうしてあんなものを二人に見せたの!」
「いや、事前に忠告しましたよ?本当に怖いので苦手な方は見ないほうが良いって」
「おまけに貴女の顔を見る度にその時の配信で「取り憑かれた様な笑顔」を思い出して怖いって!」
「あれはファンサービスでやっただけであって、私のせいじゃありませんて」
「それだけじゃないわ!」
この後もマリアさんに散々文句を言われた。
意外と子煩悩というか過保護というか……。
新しい一面を知れた、やはり相手を知る事は大事だなと思った。