萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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守るべきひだまりは

 休憩室の片隅を占領して4日目、調べ物の最中でまたもや寝落ちてました。

 

「ん……」

 

 っと何故かクリスさんまで私にもたれかかって寝てますし……。

 

 これは……動けませんね。

 何時の間に来たのでしょうか……。

 

 

「……ぁ……」

 っと起きたクリスさんとばっちり目が合いましたね。

 

「おはようございます」

「……おう、おはよう……」

 

 小声でそう呟いて顔を赤くして逸らすクリスさん、流石に寝顔を見られるというのは恥ずかしいですからね。

 私はもう寝落ち常習犯なんで慣れましたが。

 

「さて、なんで私の横で寝てたのか……説明してもらいましょうか」

「……だって、ここ最近、ずっと本部で待機しっぱなしで学校にも来ねぇし、配信も出来てねえだろ……だから心配で……」

「心配て」

 

 思わず笑う。

 

「何がおかしいんだよ」

 

「多少配信できなくても、学校に行けなくても、本部に待機しっぱなしでも死にはしませんよ」

 

 昔の私なら気分が沈むくらいはありましたが、今の私は違います。

 心に余裕ができた、というか、成長したというか。

 

「だけど、今戦えるのは……」

「私だけ、だからこそです。どんな敵が来ても慌てない、そして皆のギアが完成するまで時間を稼ぐ、考えるべきはそれだけだからこそ、落ち着いていられるのです」

 

 私が倒れたらそれで全ては終わる、だからこそ、落ち着かなきゃいけない。

 だからこそ、私はその為に全てをそこに注ぎ込んでいる。

 

「はぁ……いっつもそれだな、詩織は」

「そうですか?」

「そう、お前はいつだって自分より他人を優先しようとする」

「でも結局自分の為ですよ?誰も失いたくない、だから戦う」

「それでも、詩織がいなくなっちゃ意味ねーだろ」

 

 私は、そんなつもりはないんですがねぇ……。

 

「そうそう死にはしませんよ私は……これまでだって」

「これまでだって全部、何もかも紙一重だった」

「はぁ……」

 仕方ないので、横に座るクリスさんの肩を抱く。

 

「ゎっ…うぁっなな何すんだお前!?」

 立花さんの言ってた通りクリスさんはこういうスキンシップをするとうろたえる。

 ちなみに多分同じ事を翼さんにやられたら今の私でも結構うろたえそうだ。

 

「皆がいたから、紙一重でも生きていられた。意地でも帰ってきた、だから大丈夫ですよ」

 

 私が今ここに在る意味も、今ここに在る理由も、皆がいたからだと思う。

 

 たとえ「フェニックスの羽根」によって生かされた命であっても、生きたいと思った意志は確かに私のものだ。

 

「………」

 クリスさんが静かになっちゃいましたねぇ。

 

「私だって死にたくはありませんよ、ここの所、翼さんのライブ毎回見逃すか途中でトラブルあるかでまともに見れてませんし、まだまだ配信でマウント取りたいし、クリスさんをからかって遊ぶのもやめられませんし、立花さんが無事に目を覚ますのも見届けたいですからね」

 

 はぁ、気がつくと私もすっかり陽気に毒されてますね……。

 ここいらで弱音を吐いて陰の者である事も程々に思い出さないといけませんね。

 

「不安といえば、不安はいくらでも出てきますよ。でも陰気になっても自分のモチベーション下がるだけですからね……」

「……よかった、本当に前みたいにおかしくはなってないんだな」

「ええ、中身はいつも通りのクソザコナメクジですからね。翼さんに抱きしめられただけでアップアップになるくらいの」

「その割にアタシにこういう事しても平気なのは何でだよ」

「普通に友達ですからね、何度でも言いますけど私は翼さんの友達でもありますけどファンでもありますからね」

「そういや……そうだったな」

 

 そうそう、崇拝対象に抱きしめられたら普通沸騰しますよ。

 

 尊死しちまうぜ!

 

「なぁ、詩織」

「なんですか」

「アタシのファンにはなってくれないのか?」

 

 はぁ……そういうのズルイですって!

 

「クリスさんの歌は好きですけど、崇拝対象じゃなくて応援って感じですからね……」

「崇拝って何だよ……」

「簡単に説明すると、私が初めて「綺麗」だと思った存在が翼さんだったって事です」

「アタシも人の事言えないけどどんな生き方をしてきたんだ」

「無味無臭、本当につまらない生き方をしてたんですよ」

 

 そうそう、今と違って愛もなく、夢も無い、死んでる様な生き方です。

 

「でも、まぁ喜んでくださいクリスさん。貴女は私の生涯で翼さんを除けば一人目の友達です、ちなみに二人目は立花さんです」

「いや本当にどういう生き方してきたんだお前……ってアタシら、意外に詩織について知らない事が多いな!」

「そりゃ本当に知ってもつまらないものですからね……ネグレクト受けてて冷凍飯食べながら配信始めて、翼さんと出会って、若干生きる希望を得て、リディアンに入って、シンフォギア装者になって皆と出会って……という感じなので本当に翼さん居なけりゃ私も存在してなかった可能性がありますね」

「嘘だろ……」

 

 思い返せばこの一年程が今まで生きてきた中で最高に輝いてますね。

 というか本当に密度が濃い。

 

「リディアン入るまでは本当に死んでる様なものだったので実質私の年齢1歳みたいなもんですよ」

「だからって生き急ぐなよ、お前が死んだらアタシは立ち直れないからな」

「なんでですか、ちゃんと立ち直ってくださいよ。私の死を無駄にしないでくださいよ」

「バカ」

 むっ……バカとは何ですか、バカとは。

 

 そういう事言うならこっちにも考えがありますよ。

 次のコラボ配信、ウチでやる時に「あのホラゲー」やらしてやりますから。

 

 とクリスさんがぎゅっと私を抱きしめてきた。

 

「本当に、何処にもいかないでくれ」

 

 はぁ……やっぱりイチイバルがないから不安になってるんでしょうね。

 

「心配しないでクリスさん、私は何処へもいかない」

 

 だから、本心からの言葉で返す。

 

 それは私自身にも言い聞かせる言葉、私の帰って来るべき場所はもう「ここ」にある。

 

 

「デェース!?調!スクープデスよ!」

「切ちゃん!静かに……」

 

 と休憩室の入り口に二人ほど影が見えますね、あのちんまりシルエットは紛れも無く奴らだ。

 

「まったく、クリスさんは甘えん坊ですねー」

「うるせーお前の側がやたらに落ち着くんだよ」

 

 私にもたれかかり目を閉じるクリスさん、そういえば前にも言ってましたね、私の側が薄暗くて落ち着くって。

 

 私、意外にそういう包容力はあるタイプなのでは?

 

 くいくいと手招きをするとこっそりこっそりと二人がこっちへやってくる。

 そしてクリスさんとは逆側に来て貰う。

 

「あれ?寝ちゃいました?」

「……んぁ……寝てねーよ」

 

 更に翼さんとマリアさんも休憩室を開けて私達の様子を見て何かを察した顔をしてゆっくりと無音で近づいてくる。

 

 装者勢ぞろいです。

 

「じゃあクリスさんの帰ってくる場所もここですねー、皆がいるひだまり」

「ったりめえだろ……そこには皆いなきゃ意味がねぇ……アタシだって皆を守りてぇ」

「翼さんやマリアさんも?」

「当たり前……だろ……あのチビどもだって、今は寝てるバカだって……それに詩織の事だって」

 

「だ、そうですよ。皆さん」

 

「はぇ?」

 

 はてー私、こんなにいたずら好きでしたっけ、まぁ……面白い状況になったのでいいとしましょう。

 

「雪音がそういう事を思ってるとはな」

「案外素直じゃないわね」

「クリス先輩!」

「クリスさん!」

 

「なっ……な!」

 唖然とするクリスさんの表情にもう笑いが堪えきれない。

 

「そんなわけで、私も自分を大事にしますよ、皆いなきゃ意味が無い……ですからね」

 

「そう……だな」

 

 この言い知れぬ勝利感もいいものです。


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