萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
病室で「特別協力員」としての日本政府への報告書を用意されたフォーマットに従い入力する。
右足の骨にヒビが入っているし、全身くまなくボロボロ、体も気分も若干重い。
でもまぁ、これも名誉の負傷、と受け入れるしかない。
といってもこのダメージの3割は私のミスなのだけど。
撤退時にイカロスのカートリッジを全焼させて着地失敗した足のヒビを含むダメージが3割、残りはオートスコアラーのミカにバリアの上からボコボコにされた分。
こうして病院で報告書を書いているという事はつまり生きているという事。
まぁ、私は「時間稼ぎ」を全うできました。
といっても私一人の力ではありません、切歌ちゃんや調ちゃんの加勢が無ければ間違いなくダメだったでしょう。
敵は停泊中のSONG本部と同時に各地の発電所を攻撃、こちらの退路を断つ形で攻めて来ました。
せまりくるアルカノイズに私が対応、しようとしたのですがオートスコアラーのミカが私狙いで攻めてきたので防戦に手一杯で、とてもではないですがアルカノイズにまで手が回らない状態。
そんな中で切歌ちゃんと調ちゃんの二人が適合係数を上げる薬「リンカー」を使って参戦して、アルカノイズを引き受けてくれました。
おかげで私は目の前の敵にだけ集中できたのですが。
恥ずかしながら私は皆さんほど戦闘経験は無いので、まともに攻撃を当てる事ができませんでした。
とはいえ、緒川さんから習った忍術も、イカロスの機能もフルで活用して最初の5分を凌ぎ、空中でイカロスのカートリッジを交換して戦闘続行。
途中でアルカノイズを片付けた二人が参戦してくれたおかげで、勝てる……気がしたのですが。
二人のギアが破壊されてしまい一転窮地、またもや現れるアルカノイズ、二人を守る為に陸戦を余儀なくされマイクユニットへの直撃を避けてカートリッジを交換しながらの防御へ徹する。
その時のフェザークロークの再生能力は本当に有り難かったです、アルカノイズの解剖器官との接触を身代わりしつつ自切可能、故に紙一重の防御が続けられました。
とはいえ、とんでもないパワーを持つミカに殴られ続け私の体はどこもかしこもボロボロ、本当に今度ばかりはダメかと思いましたが、時間を稼いだ甲斐がありました。
完成した強化型シンフォギアを纏った翼さんとクリスさんが参戦、私は切歌ちゃんと調ちゃんを連れて撤退。
そのままイカロスの欠片を全焼させて倒れた、という訳です。
その後ですが、キャロル本人が出張ってきたらしく、一度は「イグナイト」の使用に失敗した二人ですが遅れて参戦してきた立花さんのおかげで今度は「イグナイト」の発動に成功、無事にキャロルを「撃破」したそうです。
しかし、キャロルは自害、オートスコアラーのミカは撤退。
残り3体のオートスコアラーの行方も不明。
全てが終わった訳ではなさそうです。
はぁ、と溜息をつく。
とりあえずこれで報告書として出すと、これまでの分の給金が一気に発生する形になります。
私はSONG所属ではなく、日本政府所属という少し面倒くさい立場なのがアレですが。
これも司令の兄であり翼さんのお父さんである人が何やら精一杯の手回しをしてくれた結果なのです。
いつか会う機会があればお礼を言わねばなりません。
とにかくこれで私の役目は一応終わりました、残りは日本政府の指示が無ければ余程の事でも無ければ戦う事もないでしょう。
っと来客ですね。
「調子はどう?」
「そこそこですよ」
翼さんが見舞いに来てくれました、ありがたいです。
とはいえ面会許可が下りたという事はこれから皆さん次々と見舞いに来るでしょうね……。
病室がうるさくなったら叩き出される可能性もあるので、程々にしてもらいましょうかね……。
「だけど……本当に無事でよかった……それに本当によく頑張った」
「まぁ、私としてはやるべき事を果たしたという感じですよ。それに翼さん達が絶対に来てくれると、エルフナインちゃんが強化型ギアを完成させてくれると信じられたから戦えたんです」
もしも、完成がまだ遠く、どうしようも無かったのならば、私は躊躇い無く「フェニックス」を使い、明日の為の礎となる覚悟を決めていたでしょう。
ですがエルフナインちゃんの覚悟とその信念を私は信じた。
それだけでありません、当然ながら切歌ちゃんと調ちゃんの覚悟だって、私を救ってくれた。
だから最後まで諦めずに、生き残る為に戦えた。
生きるという意志こそが明日を切り開く。
「とはいえ、本当によかったです。状況は巻き返せました、これで私も安心して退場できますよ」
「寂しい事を、言うな……詩織がここまで守ってくれたから私達も戦えた」
とにかく、これで状況はよくなった筈です。
後は残りのオートスコアラーを片付けつつ敵の拠点を割り出して後始末する感じですかね。
……でも色々と気になる所はあるんですよね、翼さんがロンドンで襲われた時はギアだけ破壊して撤退だし、クリスさんは切歌ちゃんと調ちゃんに救われた、立花さんもたしかギアだけ壊されて撤退。
先日の決戦でもイグナイトの発動に失敗した二人を尻目に街を攻撃しはじめたと聞くし。
……はて、本当に何を考えていたのやら、あの錬金術師様は。
「それより詩織は大丈夫なのか、その……胸のアレは」
「胸のアレですか、ちゃんと「使ってません」よ。本能的にヤバイ感じなのでそのまま抱えて生きてくつもりです」
そう、胸の中のフェニックスは使わない、アレは間違いなく私の「全て」を犠牲に力を得るモノだ。
だから使わない、けれど捨てる事もできない。
これのおかげで「死なず」には済んだのですから。
「……いつも思う、もしも私があの日詩織を二課に連れてこなければと」
「どの道、フィーネに連れて来られたでしょう。ひどけりゃクリスさんみたいに連れ去られる可能性もありましたし、私が連れて来られたのがここで、かつての二課で本当によかったのです」
私も非日常に足を踏み入れてから、何度も死を前にして、何度も傷ついて、何度も苦しんだ。
けれど、その全ては結局の所は私が歩んできた道、変わらない現実と過去。
もしも仮に装者とならなくてもノイズ災害に巻き込まれるか、変わらない日常の中でゆっくり心をすり減らしていくだけだった。
そう考えると今まで歩んできた道は無駄ではなかったとわかる。
「それに、大切な友達もできましたし」
命を懸けてでも、守りたいものなんて、私にはなかった。
それがあるだけで、やはり私は。
「今の私は幸せですよ」
幸福なのだろう。