萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
「詩織、切歌と調を守ってくれてありがとう」
「別にいいって事です、もう本人達からお礼の言葉は頂いてるので」
翼さんがクリスさんと共に「イグナイト」の影響を調べる為に出てった後、今度はマリアさんが見舞いに来た。
「それでも、よ」
「……はぁ、受け取っておきますよ」
私が装者になってから学んだ事は、お礼の言葉はもう素直に諦めて受け取るべきだ。という事。
誰も彼も「別にいいって事です」と言ってもそれでも引いてくれませんからね。
「でも、実際は私の方が助けられた様なモノですよ?オートスコアラー相手にマトモに防衛もできず、アルカノイズにまで手は回らない、そんな状態でしたから二人の加勢は本当に助かりました」
「それは二人に言ってあげて頂戴、それよりも……足の方は大丈夫?」
「大丈夫ですよ、着地失敗とはいえただのヒビですよ、しばらく固定してれば消えますよ」
「そう、でも無理は禁物よ。何か立ち歩きたい時も誰かに声をかけてから……何ならしばらく面倒を見るわ」
「いやいや過保護すぎますって!?母親にだってそこまでされた事ありませんよ」
過去に骨折した時は非常に面倒だった、誰も私を手伝ってくれやしないから痛みに耐えつつも悪化しない様に無理をする必要があった。
おかげで一時期腕の筋肉が凄い事になりましたよ。
悪い意味で。
「母親に、面倒を見られた事がない……」
「あっ」
しまったぁ、失言でしたかね……。
「ごめんなさい、そういえば貴女の両親は……」
「いや別に私は気にしてないので、ついでに言えば死んでもないですし」
っと……なんか覚えのある温かさと圧迫感を感じますね……しかし翼さんには無いやわらかさも感じます。
なんでマリアさんに抱きしめられてるんでしょうねぇ……。
「ちょぉっと……何してるんですかね……」
さすがにちょっとドキドキします、なんていうか翼さんとはまた違う温かさで。
「前に翼が言ってたのを思い出したの、「いつも詩織を繋ぎ止めるのには苦労する」って」
なぁに言ってくれてるのですか翼さん……でこれと何の関係が……。
「大事にされた事がないから、自分を大事に出来ないのね」
…………まぁ、当たらずとも遠からず、じゃないでしょうか。
「そうやって生きてきましたから、でも今はそんなつもりじゃないですよ?」
「ええ、皆も貴女を大事に思っているし、貴女も皆を大事に思っている」
「そうです」
「でもこうでもして「示してあげないと。詩織はすぐに離れていく」とも翼は言ってたわ」
そんな事まで言ってましたかぁ……翼さんには筒抜けじゃないですかぁ。
「……まったく、世話焼きさんの多いひだまりですね……昔だったら眩しいだなんて言って逃げてましたよ」
「でも、あなたの「日陰」というものも悪いものじゃないわ。時々は静かに居たい時もあるものね」
「そうです、賑やかな「ひだまり」を静かな「日陰」から眺める、相変わらずそういうのもいいものですよ……これが私達の守った世界なんだって」
まだ今回の件は決着がついていない、けれど当面の危機は脱して穏やかな時間を過ごせる程度にはなった。
前回は月の落下に加え、立花さんの融合症例もありましたし、全く気が休まらなかった……様な気もしますね。
それに私自身もおかしくなってましたし。
「で、いつまで私を抱きしめてるんですかマリアさん」
「ダメかしら」
「ダメですね、そろそろ恥ずかしくなってきたので」
「残念ね」
っとやっと開放してもらえました。
「それはそうと、前ほど急ぎじゃないですけど他のギアも強化型に改修途中なんでしたっけ」
「ええ……」
「よかったですね、マリアさんのアガートラームも再び使えるようになるって。これで不安も一つなくなりますでしょう?」
「何を……」
「マリアさん、いつも「自分だけ力になれない」みたいな顔してたの私、知ってますよ?」
「……ッ!」
「あまりそういう時は声を掛けずにそっとして置きましたけど、答えは出ましたね」
「そうね……」
「まぁ、無理をしない程度にがんばってくださいよ。こっそり日陰から応援してますから……なんでしたら私だっていますから」
「でも、貴女のイカロスは強化こそされるけれど「イグナイト」は搭載されないらしいじゃない」
「そうですね、でも無くたって私に出来る事をするだけです」
「出来る事……」
そう「やるべき事」だけだといつか自分を使い潰す、だから「出来る事」をする。
私が皆と一緒に居て学んだ事です。
尤も、本当に「やるべき時」は遠慮なくやりますけどね。
「そうそう、マリアさんは優しすぎて背負い込みすぎるとも切歌ちゃんや調ちゃんもよく言ってましたしね」
「あの子達ったら……」
「私も皆を頼る、マリアさんも皆を頼る、それでいいんじゃないでしょうかね」
こういう時、いつも立花さんの言葉がチラつきますね。
「手を繋ぐってヤツですよ、あの立花さんのお得意な」
「そう、よね。それに私だって救われた」
「私もですよ、しぶとく手を繋ごうとしてくれたから、ここにいられる」
あのバイタリティの高さは本当に見習いたい、立花さんの太陽的なパワーを得れば、おりんの暗黒パワーと合体して無敵となれる、対消滅するかもしれない。
まぁそれは、それとして。
明日にはもう動ける筈ですから、明日の配信の予定でも考えておきましょうかね。
「それでは、そろそろおやすみするのでこの辺りで切り上げさせて貰っても?」
「ええ、長く居座ってごめんなさい、ゆっくりと休みなさい」
マリアさんが病室から去るのを見届け、私は携帯端末で調べ物を始める。
まだ体調が万全ではないからゲーム配信は無し、とすると雑談配信かお歌か。
雑談配信にしましょう。
せっかくなんで告知と共に「錬金術に自信ニキ求む」とも書き込む。
最近、少し錬金術に興味を持ち始めた。
それは敵である「キャロル」の技術だから、「勝つ為にはまず敵を知れ」とも言うけれど、純粋に錬金術のパワーもなんだかよさそうな感じがした。
もしもこれで私も錬金術を詳しくなればエルフナインちゃんの手伝いも……いや出来るかなぁ?
……いやちょっと、ですね?
むかーし見た漫画のカッコイイ魔法だとかの再現が出来るんじゃないかなという下心もあるんですが、実際錬金術をこちらの戦力に組み込めたり、解析して技術として取り込めれば、と思うんですが。
私が思いつくくらいですからもうとっくに試されてるだろうし……なんだったらエルフナインちゃんの手が空いた時にでも聞いてみましょうか。
と、ふと、気になる記事を見つける。
『おりん活動休止、またもや世界を揺るがす事件か?』
はぁーまさか私の活動休止から察する者がいるとは。
『本日、活動再開を告知したおりんこと加賀美詩織。皆様知っての通り彼女は装者である、我々が知りえない色々な事情で再び戦場に出ているのではないでしょうか』
『根絶されたかにみえたノイズの目撃例の増加、それに数々の不審な事件、人知れずまた彼女らが戦う事になっているのではないでしょうか?』
『我々には彼女達を応援する事しかできない、けれどいざ事件や災害に巻き込まれた際にすぐさま避難を出来る様にして犠牲を出さない事、それぐらいは出来るようにしておきたいものです』
応援、ですか……。
『後、これは応援ソングです。おりんを含む、装者一同への励みとなれば幸いです』
と、付属した音楽ファイルを再生する。
仮にも病室なのできちんとイヤホンをする。
「明日の配信は、これですね」
私だけじゃなくて、他の装者達への感謝の気持ちが伝わる様な歌で少しばかり、嬉しい気持ちになった。