萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
世に名を馳せれば、自分を良く思わない人間が居ると知る事になる。
私もそうだった、配信を始めて2年も経てばアンチスレも立ち、そこを覗けばやれ妬み疎み、私の何処が気に入らないやら……おかげで一時期体調を崩して配信をやめようかとも思った事も何度もある、けれど考えてみれば当然の事だった。
私の配信はクセが強いし、やるゲームにだってファンとアンチがいる、そうすれば、そのゲームのファンというだけでアンチになる者もいる。
更に言えば、私自身はそうでもないが私のリスナーのノリなどが気持ち悪くてアンチになる人間だっているし、私が日陰者から一気に日の下に引き摺り出され有名人になった、というだけでファンからアンチになった者もいるし、逆にこれまでアンチだった者が私がシンフォギア装者だと知って逆にファンになった事もあった。
全ての人間に等しく絶対に愛される者なんていない、私にだって嫌いな奴の一人二人はいる。
とりあえず「ゲロ音MAD」でミリオン再生取った奴とドクターウェルはまだ許していないからな。
それに誰とは言わんが毎回政府の方からでも私に嫌味や文句ばかり言ってくる奴もいる。
いや、政府公式のチャンネルの方で間違えてBL配信やって世界中から「ワォ……」だとか「クレイジーシンフォギアガール」「日本政府最大の誤算」「新しい時代を切り開く女」だとか爆笑されてしまった上にネットニュースのトップに来てしまった件については非常に申し訳なく思うが。
後、私を広報に推薦した翼さんのお父さんにも少し申し訳ない気持ちになるが……まぁ、年頃の乙女のお茶目な所だと見逃してもらえないだろうか、もらえなさそうだなぁ……。
とはいえ、まだ何も言われて無いので、とりあえず言われるまでは黙っている積もりである。
……今、私達は翼さんの「実家」に来ている。
経緯を説明すると、どうやら竜脈や地脈など総称して「レイライン」と呼ばれる「地球のエネルギーの流れ」を敵が利用しようとしているらしい、先日のオートスコアラー・ミカの襲撃や各地の神社や寺など「要」となる施設の破壊などから割り出された、次に襲撃されると予測される場所。
それが海底にある聖遺物保管施設と翼さんの実家の二箇所になった訳である。
オートスコアラーのミカに関しては調ちゃんと切歌ちゃんが始末したらしいが、立花さんが検査入院で不在の為、人手が不足しているので代打で私が翼さん、マリアさんと共に翼さんの実家に向かう事になった。
聖遺物の保管施設に関しては、場所が場所な上に私の「イカロス」は閉所で戦うのには向いてないので、消去法的に切歌ちゃんと調ちゃんとクリスさんの3人になった。
そして、辿り着いた翼さんの実家であるけれど、私の挨拶の途中で現れたオートスコアラーのファラによって防衛目標である「要石」を破壊されてしまった上に翼さんもダメージで気を失ってしまった。
あのクソ人形、おまけに「翼さんが起きたらまた来る」などとほざいてたので、次に来たら絶対バラバラにしてやるから覚悟しとけ。
…………さて、本題に入りましょうか。
翼さんが起きるまで、待機と思いきや、私だけ呼び出されて話をする事になりました。
何しろ、私は日本政府所属ですからね、やっぱりそういう所で何かあるんだろうなと予測はしていました。
「君の活躍はもう知っている、相変わらず好き勝手に動き回ってくれてるな」
「……ハイ」
「おかげで政府側でも君をよく思わない人間が少ないが存在する」
「まぁ、はい……人に絶対好かれる、なんてのはありえませんから……」
「だが君のおかげで世間のシンフォギア装者についてのイメージは概ね良い物となっている、これからも「人の側にある形」で続けてくれ。ただ……」
「ただ……?」
「この間の様なモノは自分の所でしてくれ、各国政府関係者から同情の言葉が届いている」
「……はい、以後本気で気をつけさせていただきます……」
本当に疲れたような顔で呟く翼さんのお父さんに本気で申し訳なくなった。
「それはそれとして、だ。翼の様子はどうだ?」
「……翼さんですか、何時頃からの様子ですか?」
「……君が見てきた中で感じたモノを正直に話して欲しい」
「……どうして私なんですか、翼さんに直接……」
「いいから話したまえ、君は近くでよく翼の事を見ている」
父親と娘の関係、ってよくわからないからアレですけど……たまに目にするのは娘の反抗期やら、父親の恥ずかしがりとか、そういうのでしょうか。
「最近だとやっぱり、せっかく海外デビューとまで行ったのに、またこの騒ぎで呼び戻されてから、少し辛そうですね。ようやく夢を追いかけられるって所でまた戦場に戻らざるを得なくなったのはやはり堪えるものだと思います」
……私が翼さんが日本に帰ってきた事を素直に喜べなかった理由はそれだ。
海外で名が広まって、世界を照らしての凱旋なら、私だって両手を挙げて喜んでいた。
けれど現実は戦場への帰還、再び戦う為に夢を置いて戻ってきた。
「そうか。聞きたい事は聞けた、時間を取らせた」
「いえ、その……翼さんの事を想ってらしてるのですね」
「……この事は他言無用だ」
「わかりました」
その後、夕方頃に目を覚ました翼さんとマリアさんを呼んで「アルカノイズ」についての調査の結果の報告が行われた。
そこで聞いた赤い塵の正体が「プリマ・マテリア」と呼ばれる万物の根源物質である事やキャロルの錬金術の目的が「分解」と「理解」で止まっており何を「再構築」しようとしているのか、など新たな謎が出来た。
のは私にはどうしようもない事として、マリアさんが翼さんのお父さんの、翼さんへの「冷たく見える」態度についてキレてたり、翼さんが冷たい言葉をそのまま受け取っているのが少し胸にチクっと来た。
翼さんの体の調子を心配して、早く次の仕事に向けて休む様にと言いたかったのでしょう。
ですが翼さんのお父さんはとても、とても不器用な人の様です。
……でも私は黙っていろと言われているので、余計な事は言いません。
「詩織も聞いているの!?」
「あ、すみません……ちょっと考え事をしてまして」
「まぁ、マリア……あれが私とお父様の関係なのだ、それよりも話の続きは私の部屋で……」
開かれた扉、塵一つない癖に派手に散らかったままの部屋。
「敵襲!?」
「いや……その恥ずかしながら私の……だがしかし、10年もこのままにしておくのは……」
「十年もですか!?」
やべぇ、とんでもない事に気付きましたよこれ。
「昔は、お父様に流行の歌を聞かせた事もあった……」
……あのお父さん、冷たい仮面の下はとんでもない親バカですよ!!
三人で部屋の片付けしててマリアさんも気付いたようですけど、10年前の状態を維持したままに部屋を綺麗にするって、どんだけ不器用で器用なんですか!
マリアさんと目が合いましたが間違いなく同じ事を思ってますね。
「……翼さん、いつから、どうしてお父さんとの仲が?」
「……こうして防人として居れば、聞きたくない事だって聞こえてくる事がある……私とお父様の血は繋がってない、私の祖父、風鳴訃堂が後継者として、お父様の妻、私の母上に産ませたのが……私だ」
……とんでもない奴ですね、風鳴訃堂というジジイは。
うちの親よりもクソったれだと思います。
そうなると、翼さんのお父さんの態度も、わかる気がします。
実の子ではない、妹の様で、でもそれでも……。
「だから、私は愛されてなくてもいいのだ」
「翼さん、それは……」
違う。
と言い掛けたその時、爆発音がしました。
まったく「無粋」な人形ですよ。
わざわざ来なくても、本当にいいのに。
親子の絆に咽び泣く私が、クソッタレ人形をぶち壊してやりますよ。
■
ぶち壊せませんでした……全然良いトコ見せられなかった上に着地失敗してまた足をやっちまいました。
ですけど、良い物が見られました。
翼さんの窮地に駆けつけたのは翼さんのお父さん、翼さんの夢を諦めるなという言葉。
それに応えて「剣」ではなく、夢を見る「翼」として過去を乗り越えていく、翼さんのそんな姿を見る事が出来ました。
そして撃破したオートスコアラー・ファラ、ですが……。
………まったくもってお喋りが過ぎますね。
6人の装者にイグナイトモジュールを与え、わざと自分達を破壊させる事で「呪われた旋律」を各地のレイラインに刻み、世界破壊の為に利用、その上用済みとなれば自爆で諸共に吹き飛ばそうとして来た上に、おまけに通信妨害のチャフまで……。
本当に最後までクソッタレ人形でした。
おそらく、クリスさん達も向こうでイグナイトによる「呪われた旋律」を刻まされている……。
きっともう間に合わない。
これは……嵐が来ますね。