萌え声クソザコ装者の話   作:青川トーン

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奇跡を刻む

 

 

 嵐は去った、傷跡は大きいですが。

 

『――以上を以て72時間前に発生した都庁周辺での爆発事件の説明と、今回の「錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイム」との決着を報告します』

 

 今日は、コメントを非表示とし、配信を終える。

 

 

 装者達の活躍とエルフナインちゃん……そして命を賭したドクターウェルの犠牲のおかげで、キャロルの錬金術は世界を壊す事無く、私達は今日を迎えられた。

 

 さすがに、死んだ者を恨む事は……本物の英雄になった者を憎む事はすまい、静かに奴に感謝と冥福を祈る。

 

 本当に奴のおかげで、命拾いした。

 ……私も、とてもではないけれど無事ではないけれど、ドクターウェルが「やらかしていてくれなければ」私も間違いなく死んでいた。

 

 あの日、都庁で合流した私達はダウルダブラのファウストローブを纏ったキャロルと対峙した、その力は圧倒的で全ての攻撃がまるで絶唱そのもの、私達の歌を軽く塗りつぶすようなものだった。

 その歌に反応するチフォージュ・シャトーによる世界の分解、それを食い止める為にシャトー内部に突入するマリアさん達の援護をした。

 

 つまり私達4人での絶望的なまでの戦い、おまけにキャロルは私など眼中にないとばかりに立花さん達を狙う。

 

 わかっていた。

 一番どうでもいい存在は、一番ちっぽけで、取るに足らない、最も弱い装者は私だった。

 機銃も、ホーミングレーザーも、収束照射もまるで効かない、ただの賑やかしにしかならなかった。

 

 それに私のイカロスは、時限式。

 燃え尽きるまでに勝負を決めねばならない。

 

 爆風とエネルギーの濁流に巻き込まれない様に立ち回りつつもカートリッジの交換を重ね、ただひたすらに攻撃を撃ち込み続けるが、気を引くことすら出来ない。

 

 やがて立花さんも、翼さんも、クリスさんも傷つき立ち上がるのがやっとな状態になって。

 そこで状況が動いた。

 

 キャロルは私を狙い始めた。

 目の前で全ての「奇跡」を折ると言った。

 

 「三度、死から蘇った「私」という奇跡を踏みにじる事で、世界が裂ける祝いの悲鳴を聞かせろ」といった。

 

 だから、歌ってやった。

 油断した横っ面に「絶唱」を一発、叩き込んでやった。

 おかげでイカロスのカートリッジは全焼、戦闘続行は不可能となった。

 

 キャロルもこれで大きなダメージを受けた筈だと思った。

 

 でもそうはならなかった、満身創痍の私の前で平然と立つキャロルの前に心が折れかかった。

 シンフォギアのパワーアシストで無理矢理動かしていた体のせいで足もまともに動かない、逃げる事もままならない。

 

 全身を糸で吊り上げられ、締め上げられ、私は苦痛に叫んだ。

 翼さん達が必死に私を助けようとするけれど、糸を断つ事もできない。

 

 だから、私は「唄った」。

 このまま、ただ死ぬよりはいいと思って「フェニックス」の封印を解いた。

 

 それは弱っていた私の命に力を満たした。

 体から放つ熱は糸を溶かし尽くし、「古き唄」を口ずさみ、キャロルに再び立ち向かった。

 

 フェニックスから放つ熱はまさに私の生命を「焼却」してエネルギーに変えていた、それはキャロルが「想い出」を焼却してエネルギーに変えていた様に。

 だからキャロルの力に対抗する事が出来た。

 

 しかし、数百年も生きた錬金術師の記憶と、たかだか十数年生きただけの人間の命では重さが釣り合わない。

 戦い続ければ先に私の命が尽きる。

 

 だから一撃に全てを賭し「世界の明日の礎とならん」としたその時、チフォージュ・シャトーが光を放った。

 それは世界を再構築する光、キャロルは錯乱したのか私には目もくれずシャトーを攻撃して、破壊してしまった。

 

 おかげで世界は救われたが、マリアさん達が犠牲になってしまったと思った。

 残された私達は叫び、キャロルに最後の投降を呼びかけた。

 

 けれど、彼女の返答は「世界への復讐」だけ。

 私が稼いだ時間とマリアさん達の戦いを見て奮起した立花さん達がイグナイトの2段解除で再び立ち上がった。

 

 4対1、私は「歌った」分によるフォニックゲインだけならいつも通りのイカロスと同等、命を「燃やせば」その分だけキャロルと近い、まるで絶唱と同じだけのエネルギーを出せる。

 

 でも立花さん達はそれを許さなかった、皆で生きて帰る事を前提とした戦いを望んだ。

 

 だから私もそれに懸けた。

 

 キャロルの一撃を立花さんが束ね、それをエネルギーとしてトライバースト、絶唱三重奏並の威力を撃ち返す。

 

 

 しかし、その作戦は破れ、今度こそ、私は覚悟を決めた。

 だが、私の命はそこで終わらなかった。

 

 

 マリアさん達の絶唱が響いた、ドクターウェルの犠牲によって救われたマリアさん達がシャトーを脱出して、戻ってきた。

 立花さん達も再び立ち上がって絶唱を唄う。

 私も、そこに歌声を合わせて共に立った。

 

 そしてキャロルのこれまでの中で最大の攻撃を受け止め、それを立花さんが束ね、マリアさんが再分配し、奇跡を必然へと変えた。

 これまで奇跡の様な状況でしか発現しなかったエクスドライブモードへの移行を人為的に起こした。

 

 ただ、私の「イカロス」に関しては既に中身が全焼、「フェニックス」に関しては力が溢れ、「命を燃やす必要が無くなった」だけで、エクスドライブに移行する事はなかった。

 

 やはり「フェニックス」は「シンフォギアでありながらシンフォギアではない」私の命の一部なのだと確信した。

 

 その後の戦いはただ激戦だった、無数に現れたアルカノイズを焼き尽くす、私の「フェニックス」はバリアコーティングが強化されてないが為に被弾を回避する必要はあったが、フォニックゲインを代用して炎を燃やせるおかげで、ノイズ焼却し放題であった。

 

 しかし、ノイズを全滅させても私達の勝ちではない。

 

 全ての想い出を焼却し「切り札」として「機械の獣」を完成させたキャロル、その一撃はまるでプロミネンスの様に全てを焼き尽くして、地表を抉り取った。

 

 エクスドライブ状態となった皆の攻撃も散発するだけでは通らない、だから一つに束ね、立花さんがキャロルの攻撃を受け止めている間に撃ち込む事とした。

 

 しかしそれでもキャロルを仕留めるには到らず、ですが、響さんの拳に、皆のギアの力を託し、ようやく穿ち貫く事が出来た。

 

 

 

 決着が着いてなお、立花さんはキャロルを確保・捕縛……いえ救おうとしました。

 それが、キャロルと同じ記憶を持つエルフナインちゃんが望んだキャロルへの答えだったから。

 

 機械の獣の爆発は小型の太陽の如く、つまりは核爆発に近い破壊力を以てして私達に襲い掛かりました。

 

 私も爆発に巻き込まれましたが、生憎「炎」なものでダメージはまるでなく、自分で自分の命を燃やした分と多少の蓄積ダメージの方が大きいぐらいでした。

 当然皆も無事、遅れて遠くまで飛ばされた立花さんも回収されましたが、キャロルの行方は不明。

 

 しかしあれだけの力を出すために記憶を焼き尽くした、という事は生きていたとしても……おそらくはもう何も覚えてない、かもしれません。

 

 戦いの後に、「そこまで」命を燃やしてない筈の私ですら衰弱して二日間、生命維持装置に繋がれて、現在ですら退院どころか、部屋を出る事が許されてないのですから。

 

 これからおそらく、長くて1ヶ月程度、私もこの病室から出る事を許されなさそうです。

 隣の病室のエルフナインちゃんの見舞いにすらいけそうにないレベルです。

 

 生命の焼却は、当然ながら私に甚大な負荷をかけた。

 病院に運ばれた当初は闘病によって弱った末期がん患者と同レベルの生命維持しか出来ず、まさに風前の灯の様な状態で、二日経った今でも回復こそしたけれど、本調子には遥かに遠い。

 

 まったく、この調子では夏休みも、何もする事無く終わりそうです。

 

 …………。

 

 

 ただ、世界が残って、本当によかった。

 

 

 生き残れてよかった。

 

 私はこの奇跡、いえ……この運命に感謝したい。

 

 皆といられるこの時間をありがとうございます。

 

 


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