萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
――立花響と加賀美詩織――
夕暮れの校舎の屋上、設置されたベンチに二人の少女が腰掛ける。
「こうして、二人だけで話すのは久しぶりですね」
「いやびっくりですよ、まさか詩織さんから誘ってくれるなんて」
「そういえば立花さんとも付き合いは長いけれど、こうして二人だけで話す機会があんまりなかったなと、思ったので」
立花響と加賀美詩織は真逆の様で何処か似ている。
家族の愛を知って、再び共に歩みだした響。
家族の愛を知らず、もう共に歩めない詩織。
深く自分を知らない者達の悪意に晒されて傷ついた響。
深く自分を知らない者達の悪意をも受け入れ立つ詩織。
ひだまりと共にあったから生きてこれた響。
自らひかげとなって生きる道を探した詩織。
絶対生きるのを諦めない意志。
仲間の為に在ろうという意志。
信じられる「友」と「仲間」と共に、困難を乗り越えて来た二人。
「何よりいつまでも「立花さん」呼びより、「響さん」と呼べるようになりたい……と思いまして」
共にある事で互いに変わった。
過去を乗り越えて、明日へと歩いていく事が出来る。
立花響も加賀美詩織も、自分自身に「出来る」事を知った。
「誰かを守る事」
響はシンフォギアと、その拳の力で。
詩織はシンフォギアと、その言葉で。
「詩織さん……!!」
「響さん、話でもしましょうか」
同じ道を行くだけが友ではない、互いに違う道を歩いていても応援できるのも友である。
「最初の頃、私は響さんが苦手でした。私にはない明るさや人と分かり合える強さを持っていると、避けていました。それは自分の弱さが明るみに晒され、思い知らされる……そんな勝手な思い込みです」
「私だって、詩織さんはいつだって弱みを出さない強い人だって思ってました……でも」
「お互い、一緒に居て互いを知った」
「響さんだって辛い過去や今を生きる悩みを抱えていた」
「詩織さんだって同じだった」
正反対の様な二人だって、同じ様な悩みを抱えている。
「私は響さんが正直うらやましいです、戦う力があって、手を繋ぐ強さを持っている」
「私も詩織さんがうらやましいです、とても多くの知らない人の前に立って、世界を前にして戦ってる」
立花響にとって、加賀美詩織とは「世界と向き合う強さを持っている人間」だ。
加賀美詩織にとって、立花響とは「現実と向き合う強さを持っている人間」だ。
「戦えない私が守れない「皆」を守ってくれませんか。響さん」
詩織にはまともに戦闘できるだけの力がない、だから、一番強いと思う響に打ち明けた。
「わかりました……!でも私が守る皆の中には詩織さんもいますからね!」
「……なら、私は響さんを含む皆を、私に出来る形で守りたいと思います、それが私が、出来る、やりたい事なのですから」
私に出来る事を、私達に出来る事を。
加賀美詩織は、いつの間にか強さを手に入れていた。
立花響はいつの間にか、もっと強くなっていた。
違うけれど、似ている、そんな二人だった。
――加賀美詩織を見る者――
彼にとって加賀美詩織とは悩みの種だ。
日本政府に所属する装者であり、「S.O.N.G.結成」でようやく追い出せたと思ったのに、仲間の危機に再び装者として「広報」に返り咲きつつも「特別協力員」であり「日本政府の特務員」という新たな肩書きまで持ってしまった。
おまけに「護国災害派遣法」という、頻発する特異災害、超常の脅威に柔軟に対応する為の法が設立されてしまったおかげで、彼女にこそ知らされていないが「加賀美詩織」は非常時に自衛隊などの「指揮を執る」事が出来る様になってしまった。
数ヶ月、いや一年程度前までただの子供であった筈の少女が随分と大きな立場になってしまったものだ。と男は溜息を吐いた。
彼は、日本政府が用意した「加賀美詩織」の監視員。主な仕事は彼女が放送中に何かやらかさないかの監視、そして何をしたかを記録する事、そしてS.O.N.G.からの彼女の活動記録を受け取り纏める事である。
「まったく、さっさと石の下のダンゴムシに戻ってくれやしないものか……」
それは叶わぬ願いである、広報装者としてあまりに名が知れすぎてしまった、世界はあまりに彼女を知りすぎた。
だがそのおかげか彼女を狙う者はそうそう居ないし、そもそも彼女に付けられている他の監視員が指揮する警護によって、彼女は、彼女達は守られている。
同じ年頃の娘がいる身として、正直彼にとっては加賀美詩織は見てられない存在だ。
あまりに危なっかしく、あまりに献身的で、そしてあまりに儚い。
「にしても、あのバカ親共ときたら……本当に自分勝手だ、あの親からどうしてこんなに健気な子が生まれるのか、まったくわからんね」
彼女を残して自殺した両親を極秘裏に埋葬しようとする意見を押し留め、彼女に両親の死を知らせたのも彼だ。
彼女には何も知らないままで居て欲しくなかった、せめて向き合うチャンスを与えたいと思ったからだ。
「……ブッ!?!?風鳴翼!雪音クリス!何故そこで来る!?」
監視中の【退院祝い配信】への予期せぬ来客、思わず茶を噴出す。
彼は元々二課のサポートにあったが故に、装者達の個人情報をそこそこには知っている、しかしその動向までは知らない。
まさか退院即日の配信にやってくるとまでは想定していなかった。
「まったく!元気にやってやがる!」
とはいえ、少し安心した部分もあった。
加賀美詩織にも彼女を想う友が居る、信じられる仲間が居る。
監視員の男には娘を見守る親の様な笑みが浮かんだ。
『衆道……だと!?』
だが、切り替わる画面と配信によって聞こえてきた翼の声にその笑みは一瞬で無表情に凍りついた。
「またか!またやるのか!もう勘弁してくれ!何が悲しくてこんなものを見せられなきゃならんのだ!」
加賀美詩織の監視員の彼の受難はまだまだ終わらなさそうである。