萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
炎との邂逅
灰色の空の下、何処までも何処までも続く白い砂漠を一人で歩いていた。
いつもの様に眠りについた筈が、気がつくと色の無い世界。
肌身離さず持っていたイカロスもなく、あるのは胸の中の「フェニックスギア」だけ。
「何処まで……何処まで続くんですか…?」
砂の感触、「太陽の無い」が故の肌寒さ、そして聞こえる風の音が、これが現実であると示す。
既に三時間近くは間違いなく歩いている、けれど一向に変わらない景色に詩織は一つの選択をする。
「やるしかない……ですか」
使うな、と散々言われ続けている胸の中にあるギア、その聖詠を唱える。
光ではなく赤い炎が詩織の体を包み、プロテクターを形成、背中からは羽根の様に絶え間なく炎が燃えている。
詩織は力強く砂の大地を蹴って跳躍して一気に灰色の空に飛び立ち、背中から噴き出す炎を推進力と変え、ロケットの様に地平線の向こうを目指し空を駆ける。
「光……?」
そして地平線の向こう砂の山を越えた先、日の出の様に白い光が広がって。
気がつくと詩織は夜の街の上を飛んでいた。
真っ先に目に付いた「スカイタワー」のおかげで、そこが見覚えのある街であると詩織は安堵した。
だが、今の景色は一体なんだったのか、そして何故自分は飛んでいるのか。
謎が謎を呼ぶが、今はとにかく家に戻って、それからS.O.N.G.に連絡を入れるべきだ、と詩織は地上へ降りようとするが――
そこで「家の鍵」がない事に気付いた。
ならば行き先は、クリスの家かと方向転換する。
だがそこで違和感に気付く、空がやけに明るい。
夜空を見上げるとそこには――
「月が……何で欠けてない……!?」
ルナアタック、フィーネにより一部を破壊された筈の月が、丸々と完全な円を描いていた。
詩織はある「可能性」を感じて、リディアンへと向かう、それは新校舎ではなく、二課本部のあった旧校舎の方だ。
「やっぱり……!校舎が移転してない…!街も壊れてない……!」
過去に来てしまったか、あるいは別の世界に来てしまったと詩織は確信する。
――さて、どうしましょうか、原因を探るも大事ですが、今は一文無しで居場所もない、何処を拠点としようか……
1年も非日常に身を置いていたおかげで、詩織は冷静に次の行動を考える。
二課、あるいはS.O.N.G.との接触は避けられない、この超常に対応できるのは同じ超常を扱う者だけだ。
最悪の場合ではあるが、もし二課に相当する組織がなければ他の組織なんかを捜すしかないが……そこに関しては詩織は不安であった。
理由はマリア達が居たというアメリカのF.I.S.など、非人道的な組織等であった場合、まず敵対する事になる。
詩織の目的はあくまで「帰還」だ、拘束される様な事は避けたい。
「……行って、見極めるしかないですね」
リディアン、特異災害対策機動部二課本部。
詩織は「始まりの場所」へと舞い降りた。
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「未知の波形パターンを検知!データに合致無し!」
「リディアン内に降りてきました!映像でます!」
「やはりこれは」
「シンフォギア、ね……私達の知らない」
「とはいえ「ここ」の存在を知っている、とはな……」
「あたしに任せな」
「……穏便に頼む、まだ敵だとは決まっていない」
「わかってるよ、ただ向こうがやる気なら別だけどよ」
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詩織はまた一つ、問題に直面していた。
校舎の何処も開いていない上に、二課本部にアクセスする為の手段がない。
端末やカードキーなど本部に立ち入る為に必要なアイテムが何一つないのだ。
故に途方に暮れながら歌うしかない。
歌ってギアの装着を継続していれば、もしも二課があるならアウフヴァッヘン波形を検知して接触してくれる、そう信じて歌う、おまけにギアを解除すると部屋着になるので、靴もないのだ。
「―いつか、彼方、神様も知らない世界で君と歌えたなら」
フェニックスギアも、シンフォギア同様に歌を力と変える事ができる。
こうして基本性能で使う限りは命を燃やす事もない。
額から伸びる二つの「フェザーセンサー」が周囲の気配が増えていく事を感知する、皆、物影からこちらをうかがっている。
それを確認し、ここがますます自分が居た世界でないと思い知らされた。
「奏で響き、翼の音、無垢たる独奏の調べ歌う……」
「いい歌だな」
「ありがとうございます」
ようやく接触してきたのは一人の少女――詩織が知っていた者だった。
「天羽奏さん……で、間違いない……でしょうか?」
「ここだけじゃなくてあたしの名前まで知ってるのかよ……」
燃える様なイメージを持った、ツヴァイウィング、風鳴翼の片翼、そして死んだ筈の装者。
「……ええ、色々知ってますが、それが正しいとは限りません」
天羽奏はガングニールの装者であった、だが適合率が低く、リンカーという薬品で無理に動いている様な状態だったとそう詩織は「聞かされていた」本来ならこんな、未確認な相手との接触に出てくるべきではない。
もしも正規装者がいるのなら、そちらが出てくる筈、少なくとも元居た世界ではマリア達よりも先に響達が出る。
故に、詩織は「ここに翼はいない」か「出てこれる状態でない」とあたりをつける。
「で、アンタは誰で何が目的だ?」
「私は加賀美詩織――目的を率直に言えば、私が帰還するのを手伝って欲しいのです…自力で帰れない場所から来たのです」
死んだ筈の者と、ありえなかった筈の可能性。
出会う筈のない二人が、ここに出会った。
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「すると君は、違う世界の二課と、国連のタスクフォースに所属していたのか」
「はい、リディアン入学後にイカロスの装者として適合し、データ採取を行って、色々訳があり現在は融合症例という状態です」
風鳴司令、その姿はよく知るもので、オペレーターの人達も見知った顔がいくつかある。
けれどそこには翼さんの姿も、クリスさんの姿も、響さんの姿もない。
「……それにこちらでは大きな事件は無い、様ですね」
「ああ、月は欠けていないし、落下する事もない、おまけに錬金術師との戦いもない」
「それよりも気になるのは貴方のそのギア、一体何かしら?私の知らない聖遺物!」
おまけに「櫻井了子」……つまり「フィーネ」が居る。
「……イカロスを纏っていた頃に私は一度死んでいます、その際にイカロスの素材として使われていた欠片の羽根……フェニックスの羽根と便宜上呼びますが、それが私を蘇生し、心臓でギアの特性を持って再生したモノで……意図せず完成したシンフォギア「フェニックスギア」と呼んでいます」
「フェニックス!ソレは凄いわ!ぜひ研究させて欲しいわ!」
……研究させていいものか、それはこの世界のフィーネを強化してしまうのでは?
それよりも私は「帰らなければならない」、あまり長居も、したくは無い。
もしこの瞬間も元の世界の時間が流れていたらどうしよう、皆を心配させたくない、何より私が翼さんが、皆が居ない世界で生きていられる自信がない。
この世界では、風鳴翼が天羽奏の代わりに死んだ。
黒い、カルマノイズと呼ばれるノイズの変異体と戦い死んだそうだ。
私の居た世界にはいなかったノイズの変異体、それだけでも十分不安要素なのだけれど、更に不安なのは、この世界に居る装者が奏さん一人だという事だ。
「とにかく、元の世界に帰る手段を探す間、互いに利益をもたらす形で協力しましょう、その中にはノイズとの戦いやこのギアの研究なんかも含みます。代わりに私の一時的な拠点や所属の証明などをお願いできないでしょうか?」
この世界に私を知る者は誰も居ない、私は孤独。
「いいだろう、明日には二課のセーフハウスの一つを貸し出せる様に手配しよう。二課は君を歓迎するぞ、加賀美詩織くん」
けれど、世界が変わっても司令はいい人です、やっぱり。
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「話は終わったのか?」
「ええはい……」
「……あんたの世界じゃ、あたしはどうだった」
扉を出て休憩室を向かおうとすると、外で奏さんが待っていた。
おそらくこれを聞きたいが為に、ずっと待っていたのでしょう。
「……奏さんとは話した事がありませんでした、私が装者となった時にはもういませんでした」
「そうか、それで翼は」
「……翼さんは、居ます。今も戦っています……夢を追いながら」
これは話すべきか、迷った、けれどやはり伝えるべきだと思った。
それが残酷な事であっても。
「……よかった」
「……翼さんは向こうの「天羽奏」の想いを胸に抱いたまま進む事を決めました」
でもそれは響さん達が居たからであって、この世界の奏さんは一人ぼっちだ。
司令達が居るとはいえ、共に戦う仲間は、いない。
「……何かまた聞きたい事があったらいつでも聞いてください、話せる限りは話します」
今の私に出来る事は……これだけです。