萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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カルマの影

 

「それで、その灰の正体は分かったのか?了子くん」

「ええ、やっぱりこれはただの灰ではなかったわ……第一質料「プリマ・マテリア」つまりは世界の万物を構築する根源物質とされるものよ」

「つまるところ、彼女が?」

「そうね、十中八九、彼女が作り出したものでしょうね。ノイズを逆にプリマ・マテリアに分解しているとみて間違いないでしょう」

「それで、何かまずい事があったのか?」

「そうね……強いて言うなら敵となればシンフォギアのバリアコーティングすら抜けてくる対処不能の相手となるわね」

「……彼女に限ってはそうではないと信じたいが」

 

「彼女自身にそのつもりはなくても、誤射、洗脳されたり暴走したり、いくらでも考えられる危険性はあるという事よ」

 

 

-----

 

 次から次へと新しい敵がやってくる。

 

 あまりものノイズの数に奏の姿も見えなくて、遠くで響く破壊音だけまだ戦っている事を知らせてくれる。

 

「――ッ!!塵と消えろ!!」

 

 歌を炎と変えて、地面に叩き付ける事で炎の津波を起こして周囲のノイズを纏めて焼き尽くす――。

 

 だが無理が祟ったのか、ついに力が抜けて、詩織は膝を突いた。

 

――まだ、まだやれる……!

 

 それをなんとか無理を言わせて、立ち上がろうとして、詩織は前のめりに倒れた。

 

 まるで自分を支えていた何かが失われた様に崩れ落ちたが故に、詩織は自分の足を見た。

 そこには灰色に変色してプロテクター諸共に崩壊した右足と塵の山があった。

 

――っ!!

 

 咄嗟にそれが、自分の末路だと詩織は理解した。

 

 これが力の対価なのだと。

 

 

「嫌です……私は……私は帰るんです……翼さんの、皆の所に……」

 

 顔をあげれば、目の前にはまだまだ大量のノイズが居て。

 容赦なく距離を詰めて来る。

 

「私は……死にたくない!こんな所で!まだ!!」

 

 まだ動く腕を振るい、炎を操って、ノイズを焼き尽くしていくが、指先から段々と感覚が消えていく。

 

「帰るんだッ!!!翼さんの所にッッ!!」

 

 腕を振るった勢いで、右腕が根本から崩れて落ちた。

 

『おい!しっかりしろ!』

 

 ノイズの群を切り裂いて奏がこちらに向かって走ってくる、だがそれよりも早くノイズが近づいて来て。

 

 

 

 

『おい!目を覚ませ!』

 

 

 

 遠くに居た筈の奏が、すぐ側に居て、詩織を抱き起こしていた。

 

 

「か……奏さん、私、私死にたくない……!」

「大丈夫だ……お前は生きてる」

 

 崩れて落ちたはずの詩織の手足は元に戻っていて、段々と視界もはっきりしてくる。

 

 無数に居た筈のノイズは存在せず、景色も違う。

 そこは詩織がセーフハウスとして借りている部屋だ。

 

「……私、生きてる……?」

「ああ、しっかりとな」

「はは……よかった……でもどうして……あれ?」

 

 目が覚めると、ゆっくり詩織の頭が正常に動き始める。

 朝にノイズとの戦いを終えて、奏と話して、それから別れてから一度セーフハウスに戻って体を休ませようとベッドに倒れこんだ。

 

「今のは、夢……?」

「ああ、夢だ」

「でもなんで奏さんがここに?」

 

 セーフハウスの場所は知らされていた筈だが、合鍵はまあ持っているだろう。

 だが奏は何の用事で来ていたのだろうか。

 

「連絡しても出ねえって事で近くに居たから様子見てくれって言われたんだよ、そしたら部屋の前でお前の叫び声が聞こえたんだよ」

「……すみません、お見苦しい所を……」

 

 どうやら端末の連絡に気付かず寝ていた挙句に魘されていた様だ、と奏に抱きかかえられたまま詩織は顔を真っ赤にした。

 

「……あの、もう大丈夫です」

「……」

 

 転げ落ちただけでなく、夢の中と連動して這い回った様でベッドからは距離があり所々ぶつかった様で全身が痛いが、詩織は大丈夫と言う。

 

「……そろそろ離して貰えると」

「本当に大丈夫なのか」

「とびきり悪い夢を見ただけです」

「帰れずに死ぬ夢か」

「はい……」

 

 奏が聞いた詩織の叫びは、彼女が夢の中で叫んだものと同じだった。

 

「私は、帰りたい……皆のいる世界に帰りたいです……でも、どうすれば帰れるんでしょう……?どうやって来たのかすらわからないんですよ……」

 

 詩織の不安に、奏はどうしてやればいいのか考えた、どう答えてやればいいのか。

 

「あたしにはその答えはわからない、けど生きるのを諦めるな……!そうすればチャンスは必ず来る筈だから」

 

 生きてさえ居れば、可能性はゼロじゃない筈。

 奏の答えは目の前で不安に怯える少女を勇気付けてやる、それだけだと思った。

 

――そうだろ?翼……!

 

「お前は絶対死なせない、だから諦めるな」

 

 もう何も、奪わせるものか。

 

 

-----

 

「奏さん、さっきはありがとうございます」

「あたしがしてやれるのは、お前が死なない様に守ってやる事だけだ」

「……私も、諦めない様にしようと思います」

「それでいい」

 

 二人は二課本部の廊下を歩いていた、理由は「呼び出し」だ。

 どうにも到着してから話すらしく、何の用件なのかは詩織は知らなかった。

 

「よく来てくれた加賀美くん、さっきは大丈夫だったか?」

「ご心配おかけしました、やはり超常的な目にあえばやはり不安になるもので、悪い夢を見てました」

「そうか、そんな君に一ついい知らせがある、了子くん」

 

 風鳴司令の合図に櫻井了子はモニターを切り替える。

 

「これって、アウフヴァッヘン波形?」

 

「半分正解で半分外れよ、これが三日前、貴方が現れた時に観測された「時空の歪み」の波形パターンよ」

「時空の歪み?」

 

「そう、ノイズが現れる時のエネルギーパターンに近いわね、そしてこの波形パターンは……過去に数回観測されているわ」

 

 了子の言葉に詩織は目を見開く。

 

「つまり、きちんと帰れる可能性はあるって事かよ」

「そうね奏ちゃんの言うとおり……でも一つだけ悪いニュースもあるわ」

 

 そう言って、もう一度モニターを切り替える。

 そこに映ったのは黒いノイズ、そして崩壊したライブ会場。

 

 

「観測された中で、一番直近なのが詩織ちゃんの来た歪みとして、その次に近かったのが」

「カルマノイズ……ッ!あの惨劇だと!」

 

 奏が叫んだ、それはこの世界の風鳴翼の命を奪った事件だから。

 

「もしかしたら、もしかしたらの段階だけどカルマノイズと何かの関係があるかもしれない……それだけは頭に入れておいてね」

 

「カルマ……ノイズ……」

 

 詩織は、言い知れぬ不安と共に、恐らく近いうちにこの敵と出会うであろう確信を抱いた。

 

 モニター越しの過去のデータからも感じられるその禍々しさに、詩織は手が震えるのを感じた。

 

 だがその震えは別の要因で止められた。

 

「安心しろよ、何が来ても絶対お前を守ってやる」

 

 奏が詩織の手を握っていた。

 

「必ず、お前を元の世界に返してやる」

 

「奏さん……」

 

 その言葉に詩織は、安堵の笑みで返した。

 


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