萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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 黒いノイズの左腕が突然「自壊」して消失、周囲の白いノイズもまた突然蒸発した事で翼は難を逃れた。

 

 それから一夜が明け、装者一同はのS.O.N.G.の本部に居た。

 戦闘によって得たデータから可能な限りの解析が終わった為である。

 

 要点を纏めると

・黒いノイズを始めとしたノイズはこの世界のモノではなく、バビロニアの宝物庫由来のノイズ・アルカノイズとは違った出現パターンを持ち、黒いノイズ自体から時空の歪みが検知されている

・周囲の人間がおかしくなっていたのは黒いノイズが放つ波長が人間の精神に影響を与えていた為

・黒いノイズの放つ炎はアルカノイズ同様に解剖器官として機能している、白い灰の様なモノはプリマ・マテリアである、バリアコーティングを突破して来たのは純粋にエネルギー量の違い

 

 エルフナインと他のスタッフが「解析」できたのはここまでだ。

 

 残りは推測となる。

 

「まだ推測なのですがあのノイズは、二つの世界にまたがって存在すると考えられます」

 

 エルフナインの言葉と共に、モニターが切り替わり三つのアウフヴァッヘン波形が表示される。

 

 一つは翼のアメノハバキリだ、あの場で直接黒いノイズと戦っていたのは翼一人だった。

 

「これって……まさか!」

「私達が纏っていた……」

「ガングニール!?」

 

 響とマリア、そして翼はこの波形に見覚えがあった。

 

「はい、ガングニールです。これは黒いノイズが突然ダメージを受けて崩壊した際に、数秒間だけ検知されたモノです。当然ながら響さんがまだ現場に到着していなかった為、これは響さんのモノではないと思われます……そして三つ目ですが、これは「詩織さんのギア」の波形パターンです」

 

「詩織のッ!?」

 エルフナインの言葉に翼が驚きの声を上げる。

 

「はい、これまで完全に秘匿されていたデータですが、これは詩織さんのギアの波形パターンです……これも微弱ですが何度か検知されています。おそらく、翼さんが見たという突然のノイズの自壊は別の世界で詩織さんと、もう一人……誰かがこのノイズと戦っていた為に起きたと考えられます」

 

「つまりは……どういう事?」

 響はさっぱりという顔をする。

 

「簡単に言ってしまえばあのノイズは巨大な壁の様なもの、僕らの世界の側から見ると裏側は見えない、けれど裏側は存在しているのです」

 

「……あ!裏側から詩織さんと誰かがノイズに攻撃をしたから穴が開いたという事!?」

 

「そういう事です、二つの世界の壁に穴があいたが為に向こう側のアウフヴァッヘン波形が検知できた、という事です」

 

「待て、それではまるで詩織は「別の世界」に居る事に……」

 

 エルフナインの説明に翼が気付き、他の装者達の表情が曇る。

 突然消えた仲間が、別の世界に居る。

 今まで超常と戦って来たがそれはあくまでこの世界の中での事だ、別の世界となればどうすればいいのかなど分からない。

 

 

「……行ったのなら、帰ってこれる筈」

「そ、そうデス!調の言う通り!バビロニアの宝物庫に入った時みたいに入り口があるなら出口もあるはずデース!」

 

 そんな中、調と切歌が自分達が過去の戦いで体験した事を思い出す。

 

「でも、あれはソロモンの杖があったから出来た事……何か鍵となるモノがあれば……」

 

 ネフィリムとの戦いの際、実際にソロモンの杖を使い宝物庫への扉を開いたマリアが考える。

 

「つまりよ、そのノイズが鍵なんじゃねぇか?」

「どういうことだ雪音……?」

「黒いノイズは自壊せずに「逃げた」つまりは世界を渡る力を持ってる訳だ、ならそのノイズを使えば世界を渡れるんじゃねぇか?」

「だがどうやって?ソロモンの杖の様にノイズに命令する事が可能なのか?」

「そりゃ……わかんねえけど……」

 

 翼とクリスのやりとりを聞いてエルフナインが閃く。

 

「可能性は、あります……!ノイズを扉として扱う事が出来れば世界を渡る事が出来るかもしれません!」

 

「なんだと!?それは本当か!」

 

「はい、しかしそれには大きなリスクが伴います、もしかしたらこちらから行ったきりで戻って来れなくなる可能性も、それに詩織さんの居る世界に辿り着けるという保証もありません」

 

 

 

 

-------

 

 カルマノイズとの戦いから一日、詩織はまだ目を覚まさない。

 

「なあ了子さん、ちゃんと詩織は起きるんだよな……?」

「ええ、ひどく消耗こそしているけど命に別状はない筈よ……ただ、アームドギアそのものになる事で他者と「合体」してギアの出力を飛躍的に上昇させるなんて、とんでもない機能……いえ能力というべきなのかしら」

 

 加賀美詩織とフェニックスギアは一体である。

 その力を得た詳しい経緯などはまだ語られていないが、少なくとも開発者である櫻井了子をして理論も不明、再現性もない力だ。

 

「…………了子さん、あのカルマノイズにあたしだけで勝てるかな」

「難しいと言わせて貰うわ、それに……あのカルマノイズと戦っていて何か気付く事はなかったかしら?」

「何って……やたら強くて、ギアのバリアを貫通する炎なんて使ってきて……炎?」

「そう、あの炎は……詩織ちゃんが使う炎と全く同じモノなのよ……これはどういう事かしらね」

「何が言いたいんだ了子さん」

 

 櫻井了子にとっても、フィーネとして生きてきた過去の歴史の中でもカルマノイズはここ最近現れた未知の存在だ、おまけに突然現れた異世界の、自分の知らないシンフォギアシステムの装者まで現れ、それが同じ能力を持っている。

 

「これまでただ一度しか確認されなかったカルマノイズが、この子がこの世界に迷い込んできて再び現れた、そして同じ力を使う、何の関係もないなんてありえない。つまり何かの繋がりがある筈なのよ」

 

 何者かの思惑などではない、ただ何かの事象が連続して繋がっている、了子はそう確信している。

 

「とにかく、カルマノイズに挑むとしても詩織ちゃんの回復を待ってからの方がいいわ、その方が確実だわ」

 

 

 二課のメディカルルーム、了子が去り、奏と残るのは眠ったままの詩織だけ。

 

「……こうしてると、翼と居た頃を思い出すな」

 

 誰に語りかける訳でもなく、呟く。

 

「あいつよりむしろあたしの方が無茶をして……」

 

 俯いて、拳を握り締める。

 

「あたしは……あの頃から、一歩も進めちゃいない……」

 

 


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