萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
降り注ぐ灰を吸い込み、げほげほと咳をする。
「ここは…?」
体に積もる白い灰を崩しながら身を起こしたのは詩織だ。
「ッ!!」
空はまるで夕焼けの様に赤く染まり、街は見渡す限り黒い焦土と化していた。
スカイタワーもまるで飴細工の様に溶けて倒れ、地獄としか形容できない景色。
「そうだ……奏さんは……ッ!二課の皆さんはッ……!?」
詩織は貸し与えられた通信端末を手にするが、それさえも黒い炭と化していた。
「そんな……一体どうして……」
身に纏ったギア一つ、それ以外には何も無い。
頭をよぎるのはあの黒いノイズ、だがそれならば何故自分だけは無事なのか。
「どうして……私だけ?」
「それはお前が、許されない存在だから」
よく知る声だった、人生と同じだけ付き合ってきた声だった。
鳥を模した仮面、砕けて半分露出した部分から見えるのは紛れも無く。
「わ…たし…?」
「そうだ、私は未来の加賀美詩織。仲間を殺し、信じてきた者を殺し、全てを殺したお前自身だ」
もう一人の加賀美詩織だった。
「違うッ……!私が皆を殺すなんてありえない!お前は私じゃない!!」
「……それでもお前は私になる、それは避けられない運命……だから私はお前を……加賀美詩織を殺しに来た」
何処までも深く、何処までも暗い絶望と怨恨、そして後悔の篭った声に詩織は反射の様に炎を収束させ、槍として目の前の「鏡写し」の自分目掛けて放つ。
だがその炎はすり抜け、霧散する。
「――とはいっても、既に私自身も「残照」に過ぎない。あれだけあった「神の力」もお前に直接干渉できる程も残っていない」
「何を訳の分からない事ばかり並べて!結局何をしに…!」
「そう、お前に忠告に来た……というよりは、お前が心安らかに死ねる様に説明に来た。あの黒いノイズ……カルマノイズには私の「残り火」を与えている、あれには「神の力」が宿っていてな……詳しい理屈を説明してもお前にはわからんだろうが、結論から言うとお前が死ねばカルマノイズは消え、私自身も完全に消えるだろう」
仰々しく、身振り手振りを交えながら目の前の「壊れた」詩織が笑う。
「お前は、風鳴翼を犠牲に生き残り、雪音クリスを騙して殺し、暁切歌を死なせ、月読調の喉を焼き、マリア・カデンツァヴナ・イヴの心を折り、最後には立花響の願いをも砕き、世界を焼き尽くした……だからこの世界で死ぬべきなのだ、この世界で死んで、居なかったことになれ、そうすれば……」
まるで祈るように、まるで願うように。
「そうすれば、皆が救われる」
かつて詩織だった女は、それが最後の希望だと告げた。
「そうですか」
だが詩織はそれを冷ややかな目で見返した。
「確かに、私が思いつきそうな事ですね……私も皆を犠牲にしたらお前みたいになるのでしょう」
「わかってくれたか」
「でもお前の思い通りになるつもりはありません」
詩織は再びフェニックスの炎を纏い、それを収束させる。
「だが、カルマノイズを倒したとしてお前は元の世界には帰れない」
「いいえ、帰ります。私は必ずあの日の続きに帰ります……私は皆を信じています」
「信じたとして!お前はここで一人朽ちる!」
「いいえ、一人ではありませんね、この世界には奏さんもいる、それにまだ私の知らない人達だっている、だから」
繋ぐ手、立花響が、風鳴翼が、雪音クリスが、皆が教えてくれたひだまりのあたたかさを失わない為に、右手に「太陽」を握り。
「私はお前にはならない!」
目の前の虚像を燃える拳で打ち抜き、景色諸共に焼き尽くす。
――その甘さが!絶望を招くと知れ!そして後悔するがいい!その時、お前は私となる!
まるで負け惜しみの様に劫火に焼かれ、「亡霊」が燃え尽きる。
そして世界がガラスの様に砕け―――
------
「ここは……」
「詩織!ようやく目を覚ましたか!」
目を覚ました時、そこは二課のメディカルルームであり、そばにいたのは奏さんでした。
あの光景、あの亡霊の様な存在は夢――……の様でしたが、まるっきり夢と断言するには少し無理がありそうです。
拳を握れば力が漲ってくる、フェニックスの力の使い方が少し理解できた気がする。
ひだまりのあたたかさを忘れないための手。
拳を開いて右手を奏さんの手に重ねる。
「……あたたかいですね、奏さんの手」
「……どうしたんだ詩織?もしかしてまだ寝ぼけて……」
「いえ、自分から手を繋ぐのって初めてだなって思って」
「やっぱり寝ぼけてるんじゃねえか」
確かに寝ぼけているかも、でも。
どうして今まで気付かなかったんでしょうか。
……いえ、遠くなったからこそ、一度見えなくなったからこそなんでしょう。
私はいつだって皆と一緒に居た、皆に支えられて生きてきた。
それがようやくわかった気がします。
だから。
だからこそ、私に出来る事を、私のすべき事を。