萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
バルベルデ地獄変
登校日、私はなんとか課題を提出できていたが響さんは提出できずになんとか始業式まで期限を延ばしてもらっていた。
というか原因が「私」なのでとても申し訳ない気分になる、とはいえ本部で待機している間とかやっていればよかったのではとも思ったが……過ぎた時は戻らない、とにかく始業式までに終わらせればなんとかなるので頑張れとしか言えないのだ。
こっちに戻ってきてからは切調コンビに監視しつつされつつ時々クリスさんがやってきて、それにプラスして響さんと未来さんが加わる感じ。
マリアさんは「仕事」でイギリス行き、翼さんも事件解決後直ぐにイギリスに行ってしまった。
でも向こうで会った奏さんの事は多く伝えられた。
奏さんも元気でやってるといいな。
また、会える……かな?
そして私が平行世界から帰って来て数日、休む暇も無く次の戦いがやってきた。
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バルベルデ共和国、軍事政権が独裁を敷くこの地に私達は来ていた。
目的はいくつかあるが、その内の一つは武力介入。
はっきり言ってしまえば戦争だ。
どうにもフロンティア事変・魔法少女事変に関わり、なおかつ今現在の欧州を混乱に陥れたとされる「パヴァリア光明結社」を追っていた中、このバルベルデで錬金術によって作られた「アルカノイズ」が軍事利用されているとの情報が出てきたのだ。
いくら他国への内政干渉、しかも武力介入が忌避される事でも、こればかりは放っておくわけにはいかない。
速やかにアルカノイズを打倒・無力化しつつ、政権によって弾圧されている人々を救い。
そして、謎多き「パヴァリア光明結社」についての情報を得る事。
その重要さは私にだってわかる。
必要ならば人間と戦う事になる事も。
とはいえ私は基本的に本部で待機だ。
人間相手に向ける力としては私のギアは加減が利かない。そして何より、S.O.N.G.へ出向しているとはいえ私は「日本政府」の人間なのだ。
国連の大義名分の下に居るとはいえ、日本政府所属の人間が他国の人間に武器を向けるのはマズい。
なら何故ここにいるのか?
一言で言えば、監視だ。
装者全員が日本から動く以上、私だけ日本に残るとまた何か事件に巻き込まれる可能性が高い。
故に一番安全な移動式の本部にいるのが一番マシというもの。
モニター越しに響さん達がアルカノイズを倒し、現地の戦力を無力化していく姿を眺める。
「昨晩見た対戦車用の映画の効果は覿面です!」
………。
いや、対戦車用の映画って何ですか……。
そういえば昨日はブリーフィングとかなんとかで翼さん達がなにやら集められてたのは知っていましたけど。
「司令、いつも思うんですけどどうして司令を含む皆さんは映画でパワーアップできるんですか」
「鍛えてるからな」
答えになってないですよ……。
いやまあ、前にクリスさんや響さんの真似して色々と映画を借りて見てたんですけど、私にはまるで効果がなかったんですよ。
響さんはカンフーなんか、クリスさんだとガンカタとかでしょうか、映画の影響かそんな戦術を編み出していたのに、私はまるで変化がなかったんですよ。
ギアの相性でしょうか?それとも映画と私の相性なんでしょうか。
「この任務が終わって日本に帰ったら久しぶりに特訓をつけてやろうか?」
「いえ……特訓なら緒川さんに忍術教えてもらいたいと思います」
司令とのトレーニングは地獄だから……それだったらまだ緒川さんに忍術教わるくらいがいい。
とはいえしばらくトレーニングサボってたから厳しいかもしれない……。
思い返せばあの頃は大変だった、今も大変さはそんなに変わらないが、体力がついた事で少しはマシになった。
突然現れた空中要塞を響さん達が瞬く間に片付け敵を壊滅させた事で国連軍が難民キャンプの展開を開始する。
「とりあえず、まずは一歩だな」
この国では人々が奴隷の様な扱いを受けている。
危険な化学兵器工場などでの作業に従事させられているとも聞いている。
この機会に、彼らが自由に、平和に生きられる様になって欲しいと思う。
ただ、力で押さえつけていた政府が消えたからといって直ぐに平和になるとも限らない。
この混乱に乗じてまた他の組織が台頭して、もっとひどくなるかもしれない。
答えは、どこにあるのだろう。
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「おかえりなさい、翼さん」
「ああ、ただいま」
次の作戦の為に皆が戻ってきた、当然翼さんも。
……こうして皆が無事に帰って来て安心する。
キャンプ地の中継映像では大勢の人が痛々しい姿をしていたから。
誰かを心配しながら待つ気分がよくわかった。
「気分は大丈夫ですか?」
「……あまりいいとは言えんな、いくら悪政が相手とはいえ……この力を向けるというのはやはり気分がいいとはいえない……それに弾圧されていた人々を見るとな……」
そう言いつつも、誰一人相手を殺す事も大きな傷を与える事も無く無力化した皆はやはり凄い。
私は……昔よりはマシになっただろうが、それでも相手の事を考えながら戦うなんてできるだろうか。
「私も色々、思います。正直……これまでこんな世界があるだなんて気にも留めて来ませんでした、だから色々思うところはあります……でも今はただ……皆さんが無事でよかった、皆さんのおかげで救われた人々がいる、とだけ伝えたいと思います」
「……ああ、そうだな」
翼さんの手をそっと両の手で握る。
シンフォギアの力があれば、あれだけの相手を容易く蹴散らす事が出来る。
だけどシンフォギアを纏っていない時を狙われたら。
この温かく柔らかい手を握ると、そんな心配ばかりが湧き上がってくる。
「大丈夫だ、詩織。常在戦場……どんな時も不覚を取るような事は」
「私の側ぐらいは戦場じゃないといいな」
………って何言ってるんですか私は!?
「あ、とえとですね、これはですね、つまり戦い続けてるとやっぱり休息も大事というかなんというか」
「はぁ、詩織」
「……はい」
翼さんに頭を撫でられた……。
「何が言いたかったは分かってる、つまりは気負いすぎるなという事だろう?」
「まぁ……はい、大体そんな」
「『日陰』として、誰かの休める場所でありたい。だったな……今でも十分、皆の支えになってくれている、当然私の支えにも」
あぁ、やっぱりかなわないなぁ。
「……まぁそういうことで」
かなわない。