萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
現在、S.O.N.G.はいくつかのチームに分かれて活動している。
本部で待機しているのは風鳴司令、エルフナインちゃん、そして私。
川を遡上して化学薬品工場で囚われている人々を解放する為に行動しているのが、響さん・翼さん・クリスさん・緒川さんの4人の班。
適合係数を上げる為のLinkerの残りが「二度」分しかないが故に装者として前に出れないために後方支援をしているマリアさん達の班。
そして、藤尭さんと友里さんが指揮する班ですが。
「強力な電波遮断か……これは当たりを引いたかもしれん」
数分前、バルベルデ政府要人が立てこもっているらしい施設に進入してから完全に通信が途絶えた。
突入前からも電波妨害なのか通信状況が悪かったのですが、いよいよ怪しい感じになりました。
「本当に私が出なくていいのですか……?」
「心配するな、ああ見えて友里も藤尭も修羅場はくぐっているからな、アルカノイズが出てきた場合も考えてマリア達を向かわせている」
「……それはそうですけど……Linkerの節約の為にもやっぱり私が」
マリアさん達はギアを使う為にはLinkerで適合係数を上げなければいけない、けれどその数は限られているし、作れる者が、今は居ない。
「すみません……僕がLinkerのレシピを解析できていれば……」
……しまった、そのことを私より気にしている人がいるのを忘れていた。
「ごめん、エルフナインちゃん。私そんなつもりじゃなくて」
私の異世界行き事件のせいで解析や研究の時間どころかまともな休みすら取れてない、そんなエルフナインちゃんを落ち込ませてしまい、本当に申し訳なくなった。
というか向こうにはLinkerを作れる「フィーネ」が居たのだから1セットといわず1ダース……いや製造法を貰って帰ってくれば現在みたいな状況になってなかった筈なのに。
「まったく、二人とも気負いすぎの心配性だ。もっと仲間を信じてやったらどうだ?」
二人して司令に頭を撫でられた。
「それに詩織くんはそもそも自分の事で精一杯、エルフナインくんも他の仕事で手一杯だったんだ、過ぎた事を気にするよりこれから先の事を考えた方が建設的だぞ」
私達の考えもお見通しだったようだ……。
『本部!応答願います!』
アラートと共に通信が回復したモニターに映ったのは、「巨大な蛇」の様な怪物に追われる藤尭さん達だった。
「装者達は作戦行動中だ!マリア達が向かうまで耐えるか振り切るかしろ!」
最後尾を走っていた車両が怪物の攻撃を受けて脱落したのを見て私は、
「ダメです、詩織さん」
抜け出して向かう事は許されなかった、エルフナインちゃんに手を掴まれていた。
そうこう言っている間にももう一台車両が脱落した。
……私の好き勝手の積み重ねが、また人を見殺しにしている。
もしここで動く事を許されるだけの信頼を重ねておけば。
『――貴方達の命、世界革命の礎とさせて頂きます』
そして藤尭さんと友里さんの乗った車両がクラッシュしとうとう追いつかれた。
モニターに映るのは「3人の錬金術師」、その中の一人の姿に既視感を抱いた。
私は、奴を知っていた。
あの髪型、体形、しぐさ。
「錬金術師カリオストロ……!!」
「何だと!?」
まさか私を騙してくれた奴がパヴァリア光明結社の一人でしたとは。
……前に私に接触してきたのは先制を取る為だった……?
「行きます、借りは返さないと……」
「ダメだ!なおさらお前を出す訳にはいかなくなった」
「どうしてですか!」
「お前の手の内は相手には割れている、つまりお前の知りえない弱点を知られている可能性もあるんだ」
「……」
……それでも、私は奏さんと一緒に戦ってきて前より強くなった筈……。
「それに大丈夫だ。今は仲間を信じろ」
『Seilien coffin airget-lamh tron』
通信機越しに聞こえてきた聖詠は、マリアさんのアガートラーム……そうですか。
マリアさん、切歌ちゃん、調ちゃんの三人が間に合った。
私は……。
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「全く、貴女も随分分かりやすいわね」
何も出来ない、何もしない事に耐えられなくなって、私は自分の部屋の隅で小さくなっていた。
「……私は、何の為にここにいるのでしょうか。戦う事も、誰かを助ける事も出来ないのに」
「典型的な症状ね、私にも心当たりがあるわ」
マリアさんが私の頭を撫でる。
無事に帰って来てくれたのは嬉しい、それにこんな私を気遣ってくれて。
「私は後悔してます、もっと皆と協調できるように振舞ってくればこうやって一人で残される事なんて」
「……貴女の自由奔放さと我慢弱さは確かに貴女を今、縛る事になっているわね」
……そうです、私は我慢弱い。
ただ黙っているだけではいられない。
「でもね、貴女のその性格に救われた人がいる事も忘れないで欲しいわね」
「……?」
「貴女が馬鹿みたいな遊覧飛行放送をしなければ私の立場はもしかしたらもっと悪いものになってたかもしれないわね」
ああ、そんな事も……ありましたね。
あの日、偶然にもスカイタワーでの騒動に私が首を突っ込んだから、マリアさんの処遇について米国が多くを口出しするのを防げた。
でもそれは。
「それは……結果論です」
「そうね「結果」よ、今ある事全て、でも結果ばかり見ててもどうにもならない。それに司令もいつまでも貴女の感情を無視して閉じ込めておく様な事はないと断言できるわ」
「……それは」
「信頼は勝ち取る事が出来る、今からでもね」
……そうですね、ただ黙っているだけじゃ何も変わらない。
私に出来る事は、すべき事は一つだけじゃない。
『マリアくん、エスカロン空港にアルカノイズが出た。切歌くん達と共に出撃してくれ。そして、詩織くん……まだ空港には要救助者が多く残されている筈だ、わかったな?』
「詩織、こうして縮こまっている時間はなさそうよ?」
「……はい!」
私に出来る事を。
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「こいつら味方じゃなかったのかよ!」
「どうみても味方って見た目じゃな――!」
兵士達を囲っていたアルカノイズが熱線と共に吹き飛ぶ。
「死にたくなければ建物の方に逃げる事です!」
フェニックスギアはヘリよりも速い、そして三人までなら、運べる。
詩織はマリア達を連れて空港まで飛び、二手に分かれる。
やるべき事は救助活動、正面切って戦うのはマリア達の役目だ。
「ノイズ相手なら、手加減は無用ですからね」
滑走路を破壊しない様に、炎を収束させて剣へと変えてノイズを切り捨てていく。
まだ人が残っているであろう建物の壁面に張り付くノイズを炎の鞭で叩き落し、炎上させる。
「鬱憤を晴らさせて貰います!」
これまで何も出来なかった分の憤りを込めて、巨大なノイズを殴りつけ、爆発させる。
そこで詩織は気付いた。
「うわ、マジですか……?」
別のターミナルから、滑走路を加速中の航空機。
しかも向きはマリア達の方向で、その後ろにはアルカノイズの群。
やるしかない。
―Laevateinn―
航空機を庇うようにノイズの群に立ちはだかり、炎の剣を横薙ぎに払った。
だがノイズを蹴散らした事で安心したのが悪かったのだろうか。
詩織が振り返ると、車輪を片方失った航空機の姿と、それを下から支える切歌と調の姿。
急いで航空機を追いかけ、
「何してるんですか!?」
「こっちは何とかするのでマリアの加勢に行ってほしいデース!」
「何とかなるの!?」
「何とかするよ!」
――仲間を信じろ。
「わかりました!」
詩織は、すぐさま加速する。
そして、右手に炎を纏わせて、マリアの背後を取っていた小柄な錬金術師、プレラーティにぶつけた。
「加勢します!」
「……助かるわ!」
既にマリア達のLinkerの効果時間は限界に近い、適合係数も大きく下がり始め、このままではギアの展開もままならないだろう。
ここが引きどころだろうが、それは出来ない事はマリア達にも。
詩織にも分かっていた。
だから。
「踏ん張りどころですからね、派手にやりますよ!」
マリアが必殺の一撃を繰り出す為の時間を稼ぐ。
「久しぶりねぇ、どうやらあーしの忠告は無駄になったみたいで残念だわ」
「生憎、私は誰かに生き方を決められたくないので!」
錬金術師カリオストロに距離をつめ、詩織は小回りの利く二本の炎のショートソードで連撃を繰り出す。
ここまで来る間に、話に聞いていた「無敵の怪物」を召喚させない為に相手の意識を釘付けにする必要がある。
もう一人の錬金術師であるプレラーティに向けても、詩織は湾曲する熱線を背中から放ち、狙撃を続けている。
意識が薄れそうな程、脳を酷使している感覚に詩織は今にも倒れたい程だったが、それでも。
大勢の人が乗った航空機を脱出させようとしている切歌と調が居る。
決着をつけるために切り札を切ろうとしているマリアが居る。
何よりも、何も出来ない自分に負けたくない。
「詩織!」
「はい!」
純白の光が輝く。
マリアのアガートラームが必殺の一撃を放つのを見て、詩織は空へと飛び上がる。
そして凄まじいエネルギーを伴った一撃が二人の錬金術師を巻き込んだ。
それと同時に、遠く飛んで行く航空機が見えた事で切歌達もしっかりやりきった事に詩織は安心した。
だが。
「ここまでね」
「流石にこれ以上は無理デース」
マリア達のギアが限界を迎えて解除された。
そして。
「さすがにビックリしたわ」
「でも、一歩届かないワケだ」
煙が晴れたそこには、無傷とまでは行かないがそこまでダメージを受けていない二人の錬金術師の姿があった。
「……時限式ではここまでなの…!」
こうなれば、もうできる事はただ一つだ。
「ここから先は私が相手をします、マリアさん達は下がって」
「さて、おいでませ。無敵のヨナルデパズトーリ!」
そこに追加で巨大な蛇の様な怪物が現れる。
それはマリア達が一度対峙した「無敵の怪物」。
「私が、やります!」