萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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明日なんて見えない、だけど踏み出せる


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 解せない。

 

 私がメディカルルーム常連なのはいいとして、いやよくはないが。

 

 

「なぁにやってんだ」

 

 クリスさんにめっちゃアホを見る顔で見られているのが解せない。

 

 

 パヴァリア光明結社が繰り出した「無敵の怪物」は響さんによって倒された。

 そして奴らは手札が破壊された事でそのまま撤退、そして無事バルデルデでの案件は終わり、今は帰国の途。

 

 

 私のアームドギアである「炎」は私の意思で自在にコントロールできる……収束も拡散も自由、だけどその分頭を酷使する。

 そのせいでまたもや私は倒れてしまったのだ。

 

 どうにもイカロスと同じ動き……主にホーミングレーザーみたいな技をフェニックスでやるとギアの補助が無いので私の脳を使うらしく、その過労が原因と聞いた。

 

 

「いや、すみませんマジで油断してました。次からは気をつけます」

 

 翼さんとマリアさんはバルベルデに残り調査を続けるらしく、今この本部には居ない。

 

「ったく、突然何も無い所で倒れるから本気で心配したんだぞ。また無茶ばかりしやがって……倒れる辺りあのバカよりひどいぞ」

 

 確かに無茶をやるのは響さんの特権ですね……私も別にやりたくて無茶をやってる訳でもないんですが。

 

「……それで、クリスさんも大丈夫なんですか?」

「何の事だよ」

「言わなくてもわかってるでしょうに」

「……」

 

 バルベルデは、クリスさんにとって因縁の深い場所だ。

 かつて両親を失った場所であり、かつて親しかった人の弟をアルカノイズの分解から助ける為とはいえ傷つけてしまったという事まではもう聞いている。

 

「弱音を聞きましょう、ほらほら」

 

「……ったく……なんでお前はそう変なトコで首を突っ込んでくるんだ」

 

「なんというか相談係というポジションが確立されている気がしたので」

 

「一番相談しないのはお前じゃねぇか」

 

「相談しないんじゃありません、気がついたら行動に移してる事が多いだけです」

 

「余計にダメじゃねぇか」

 

「私の事はいいんです、というか私達の仲じゃないですかとにかく吐いちまった方が楽になりますよ、初めて一緒に戦った時みたいに」

 

 

「そっちの吐くはダメな方じゃねぇか……まったく……確かにアタシにも思うところはある、ステファン……ソーニャの弟の足を撃ったのは仕方のない事だった、同じ状況なら何度でもアタシは同じ選択をする……」

 

 確かにアルカノイズに接触した以上、接触部分を切り離すしか助かる道はない。

 クリスさんは確かに最善の選択をした。

 

「うーん、確かに……私でも多分同じ事をしますね。それで関係が拗れたのも分かる気がします」

 

「どうしようもなかった、でも……」

 

「割り切るのが難しい問題ですよね。確かに片足を失うのは大きな痛手かもしれませんが、本人がどう思っているのかって結局まだ聞いていないですよね」

 

「……ああ、病院に搬送してからは会ってない」

 

「ステファンくんの気持ちを聞いて、向き合っていく方向しかないんじゃないでしょうか。結局当事者はクリスさんと彼なんですし、許す許さないは彼に聞くしかない。その上で償うなら償う、背負うなら背負うしかありません」

 

「……そうか」

 

「まあ、まずは落ち着いてからその二人にコンタクト取る感じでしょうか?確か国連預かりの重傷者でしょう?司令に話を通しておきましょうよ。そういう気持ちの問題も戦っていく中では大事な部分ですし、仮に同じ状況が起きて躊躇って死なせてしまったなんて起きたら取り返しがつきません、割り切りましょう」

 

「……わかった、そうしてみるよ……確かに吐いちまえば少しは楽になるもんだな」

 

「まあ私もこんな勝手な事を言ってしまいましたが結局どうなるかはその二人とクリスさんの気持ち次第ですから……ダメだったらダメだったで、私も背負いますよ」

 

「背負うって……」

 

「仲間として、友達として私にも出来る事ですから」

 

 戦う事で避けられない痛みが生まれるなら、それを共に背負う事を出来るようになりたい。

 

「はぁ……お前はいっつもそうだ」

 

「あだっ」

 クリスさんに頭を小突かれた。

 

「お前こそどうなんだよ、いっつも気がついたら厄介事を抱えてるしよ、おら吐け」

 

「あででほっぺ引っ張らないでくださいな」

 

「前々から言っておこうと思ったんだがお前はお前で他人の問題に首を突っ込んでおきながら自分だけ突っ込まれないと思ってる節があるからな、ほら吐け」

 

 まったく、私のほっぺが赤くなってしまうではないですか。

 

「わかりました、わかりましたから……私は後悔してるんですよ、装者として真面目にやってこなかった過去を」

 

「それって何時の話だよ……?」

 

「装者になってすぐの頃からの話です、私はイカロスの適合者としてのデータ取りの為に始めたという話は前にしましたね?」

 

「ああ、そうだったな。最初は戦うつもりなんて無かったってな」

 

「……こうして誰かの為に戦う様になって、もっと戦いの経験だとかを積んでいれば……今みたいに力不足で悩んだりしなかったんじゃないかって」

 

 戦う事を避けてばかりだったあの頃の自分、傷つく事を怖れていたあの頃の自分。

 もしも、もっと強くあれたら。

 

 

「……ったくお前もバカだなぁ」

 

 ……どうして頭を撫でてるんですかクリスさん?

 

 

「なら今日からやりゃいい、明日に強くなりゃいいじゃねえか」

 

 …!

 

 

「そう、ですかね」

 

「よく考えてみろよ、たった15年程度の昨日までとこれから生きて続いてく人生、どっちが長いかなんて一目瞭然じゃねぇか」

 

「……クリスさん、そんな事言うキャラでしたっけ?」

 

「うっせえな!お前の為に態々こんなクサい言葉考えてやったんだよ!感謝しやがれ!」

 

「あだだだほっぺはダメ、ほっぺはダメですって!」

 

 

 バイオレンスとやさしさを交互に振るのはやめて欲しい、暴力系ツンデレはいまどき流行りませんよ!

 

 

「そんな訳だから、うだうだ悩むより建設的な事を考えるんだよ……アタシもお前も」

 

 今のは自分自身に向けた言葉、でもあったんですね。

 

 

「そうですね、となると……気は進みませんが司令のトレーニングも受ける事を視野にいれますか……当然クリスさんも一緒ですよ?」

「オッサンのトレーニングはなぁ……」

 

「お?逃げるんですかクリスさんは?」

「ありゃトレーニングっていうかオッサンのハチャメチャじゃねぇかよ」

 

 確かに司令のアレはハチャメチャですけど、なんであの人はシンフォギア相手に生身で圧倒してくるんでしょうかね。

 

「っていうか普通にアタシらのトレーニングに交ざるだけでいいんじゃねぇかな……」

「それもそうですね……」

 

 いきなりそんな超高カロリーな司令のトレーニングより、標準的な皆のトレーニングから始めた方がいいかも……。

 

「んなわけで、まずは体と頭を休めるこったな、言っとくがアタシらのトレーニングも楽ではないからな」

「……そうですね……でも、ありがとうございます。悩みが少し軽くなった気がします」

 

「気にすんな、アタシも少しは気分が晴れたからよ」

 

 

 ……そうですね。

 昨日までの私より、今日の私。

 そしてそれよりも明日の私。

 

 こんな単純な事、だったんですね。

 

 そうだ、明日から頑張ろう。


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