萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
『今日は忙しくなるでしょうが、大事な仕事なのでしっかりやりましょう』
どうしてなかなか、星座占いというものも当たるものですね。
翼さんとマリアさんが乗ったジェットが後少しで着陸という所でアルカノイズの奇襲を受け、空港まで迎えに来ていた私は緊急出動。
迫るノイズを吹き飛ばしつつマリアさんを無事にキャッチ、翼さんはそれを見て安心して残敵掃討、最近鍛え始めておいてよかった。
「助かったわ詩織」
「いえいえ、マリアさんが無事でなによりです」
翼さんはともかく、Linkerがなくなってギアを纏えないマリアさんは自力で地上に降りるのは難しかっただろう。
「詩織!来てくれたか!」
丁度、最後のノイズを始末した翼さんがアームドギアのスラスターでゆっくり降りてきた。
「はい、空港まで来てたので。ですが着陸寸前に襲撃という事は敵はもう……」
「そうね、日本に潜伏していると見て間違いないわね」
「このまま直で本部に向かおう、陸路ではまた狙われかねない上に巻き添えが出る可能性がある」
二人がバルベルデに残り、こうして遅れて帰ってきた理由はただ一つ。
聖遺物に関する情報が纏められた「バルベルデドキュメント」や「パヴァリア光明結社」との繋がりが含まれるかもしれない記録などそういった機密情報の「コピー」を持ち帰る為だ。
とはいっても大部分が暗号化されているらしく、これをさらに日本政府の……言ってしまえば「風鳴機関」の特殊な施設で解読しなきゃいけないらしい。
……めずらしく私がそんな事を知っているのには「理由」がある。
翼さん達が帰ってくる3日程前、私は政府から「鎌倉」に「呼び出し」を受けた。
そこで聞かされたのは日本国の防衛省特異災害機動部「特務官」である私の仕事だった。
「広報担当装者」や「S.O.N.G.特別協力員」以外に私にそんな「役職」がある事も、その仕事の内容もその時初めて知った。
『有事の際、あらゆる手段を以ってして脅威を排除せよ。場合によっては自衛隊の指揮権も認められる』
あきらかに子供一人に持たせる権限じゃないと、私は抗議したがあの男が現れた事でそれは無に帰した。
『風鳴訃堂』翼さんの実の父親であり、とてつもなく巨大な権力の持つ「陰の首領」とも呼べる存在。
――お前が与えられたその「力」で戦わないのは勝手だ、だがそれによって傷つくのは誰だ?死ぬのは誰だ?
そんな事はわかっている。
私の代わりに血を流すのは、戦う力を持たない人達であり、最前線で戦う者達だ。
――国家という力がなければ人は守れない、ならばその国の為に血を流すのも当然の事だろう?
確かに国や政府の力がなければ今の欧州やバルベルデの様に混沌と暴力に満ちた地獄絵図ばかりが広がるだろう。
だけどそれだけじゃない、現にバルベルデは国の力こそあったが間違った方に向かって守るべき人々を弾圧していた。
――それともお前の「救いたい」という気持ちはその程度か?「広報装者」として人々に語った言葉も想いも全てウソだったのか?
は?このクソジジイめ、好き勝手言ってくれますね。
翼さんをこの世に生んだ功績がなければ無限に罵ってやりたいくらいです。
――お前には力と責任がある、戦う力が、
言われなくとも私は戦ってやりますよ、お前が押し付けてきた「力」を使いこなしてみせますよ。
………
……
「詩織、随分怖い顔をしているけれどどうしたの?」
「いえマリアさん……パヴァリア光明結社の奴らがちょっと許せなくて勝手に気が立ってるだけです」
これは私の問題、皆に心配させる事でもないから黙っておく。
本部について、一息ついて肩の荷が下りたとはいえ気は緩めるべきではありませんでしたね。
「確かに、彼らのせいで大勢の犠牲が出た……S.O.N.G.のエージェントだけでなくその暗躍で齎した混沌が世界中で多くの不幸を生んだとも言われている……許せないし、一刻も早くその尻尾を掴んで全てを明らかにしたい気持ちも分かるけれど」
「なんですか……?」
「詩織、貴女は自分一人で何か背負おうとしてる。かつての私みたいに」
……まったく勘が鋭すぎるというか、人を良く見ているというか……。
「どうにも知らない間に「権限」が増えてただけですよ、いわゆる力の責任という奴です。とはいえやる事はこれまでと変わりません、有事の際に戦って人を守る、それだけです」
「ねぇその権限というのは?」
「有事の際に自衛隊や特異災害対策機動部1課の戦力の協力要請および指揮権にはじまり逮捕権や捜査権……滅茶苦茶ですよね」
「……司令と翼のパパさんに相談しましょう」
「まあ実際に使うとなれば相談ぐらいはしますよ、ですがそうそう使う事にはなりませんでしょう。それに有って困るモノでもありませんし」
そう、このクソ重い責任も……出来る事が増えると考えれば割りに合うものです。
「何かあったり、少しでも困った事があったらすぐに誰かと相談してちょうだい、貴女一人で背負うにはやっぱり私もそれは重すぎると思うわ」
「……ああ、それと出来ればこの事は響さん達には内緒で、余計な心配かけられるとそれはそれで気まずいし、この事は司令は一応知っている筈だから」
「わかったわ」
それにしても、話すと少しは肩が軽くなるというもの。
「はぁ……やっぱりマリアさんの包容力すごいですね」
マリアさんに寄りかかると何か滅茶苦茶安心するんですよね、大人の余裕というかよくわからないですけど母性というか。
「そ……そうかしら?」
「癒しのオーラを感じる」
「それは冗談でしょう?」
「本当ですよ~」
時に優しく、時に厳しく。
マリアさんは所謂「母みたい」に感じる、年長者としての余裕でしょうか?
私もこんな母に育てられていたならもうちょっと真っ直ぐな性格になっていたのでしょうか……いやどっかで道踏み外しそうだけど。
「マリア!」
「お帰りデース!」
っとウトウトしてたら切調コンビがやってきましたね……。
「おっと……それではお邪魔虫な私は退散するとしましょう」
「家族」水入らずの時間は大事にするべきだと思う、家族というものをよくわからない私だからこそそう思う。
「詩織……何か困った事があったら言うのよ」
「はいはい、大丈夫ですから」
本当にそう思う。