萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
暗号解析の準備がようやく整った為に日本政府からの指示で他の装者に先んじて、私は施設警備に当たっていた。
現在は機密保持の為に周囲一帯の住人の退去が行われており、それをS.O.N.G.の人員や特異災害対策機動部1課、そして自衛隊などがその任務に当たっている。
平和を守る為とはいえ、そこに住む人々を追い出すのは非情だと思う、でも施設は大戦時からあってとても移動させられるものではないし、そもそも未だに動きのないパヴァリア光明結社の錬金術師達が襲ってくる可能性も高い……というか十中八九襲ってくると私の勘が告げている。
力を持たない人々が巻き込まれて犠牲になる可能性も考えると、この判断は正しいのかもしれない。
国を守る。
人を守る。
社会を守る。
風鳴司令や翼さんのお父さん*1や私のやらかしで振り回される人達……政治や国防なんかに携わる人達はどんな気持ちで戦っているんだろう。
どんな気持ちでそこにいるのだろう。
「うわっ!加賀美詩織だ!」
「マジマジ!?本物!?」
「おい!任務中だぞ!」
「だってよ、日本一のバカですよ隊長!」
「訂正しろ日本一のバカではない、日本一有名なバカなだけだ」
遠巻きに私を見て何かを言っている自衛官の彼らも、どういった気持ちでここにいるんだろう。
というか聞こえているんですけど!誰が日本一のバカだ!クソが!!
っとこの気配は…!
「警備ご苦労、詩織くん」
「司令どうしてここに?」
「休憩時間中なんでな、差し入れだ」
最近鍛えているおかげか気配で誰が来ているかを感知できるようになってきた気がします。
嘘です、司令か緒川さんか翼さんぐらいしか気配で区別がつきません。
それにしても差し入れはありがたいです、政府から支給された分の昼食は特災一課と同じもので量的に足りなかったので。
「ありがとうございます、中身はなんですか?」
「特訓メニューBだ」
「!!!」
説明しよう!特訓メニューBとはまだ私が装者になったばかりの頃、クリスちゃんがネフシュタンの鎧を着て響さんを狙いつつ翼さんを重傷にした事で自衛の為の特訓が行われた!
その際に燃料不足で戦闘不能になっていた私に支給されたのがこの「特訓メニューB」。
卯の花やつけものなどあっさりして飽きや胃もたれを起こしにくい和風メニュー中心の弁当だ!
『飯食って』『映画見て』『寝る』の司令の強さの支える『食事』は私にあの地獄の様な特訓の日々を(ギリギリ)乗り越えるだけのパワーを与えてくれた!
良質な食事は良質な人生なのです。
「最近、随分と頑張っている様だからな」
「ありがとうございます、本当に助かります」
「無理を通した後にはきちんと道理を補ってバランスを取るのが大事だ」
確かに……!でも私達装者全員を纏めて投げ飛ばせるぐらい道理を蹴っ飛ばしている司令も色々仕事で道理のバランスを取っているような気がしてきた!
……それにしてもこうしているとあの頃を思い出しますね。
「……司令から見て、最初の頃から今の私ってどんな風に変わった様に見えますか」
「そうだな、まず強くなった。力も心も」
「……それはまあ色々ありましたし……」
「次に笑う様になった、心の底から楽しそうにしている事が増えている様に見える」
「そうですね、翼さんだけではなく響さんやクリスさん、他にも多くの人達と出会って私もそれは思います」
この二つは自分でも少しは自覚しています。
私は本当に皆と、この人達と出会ってよかったと思っている。
「その二つはいい変化だと俺も思う、だがそれ以上に今は無理に「大人」であろうとしているのが見える、お前一人で「責任」を背負おうとするな」
「責任なんて……私はむしろ無責任で……」
「ただでさえ「広報装者」として世間と向き合うという大きな荷物を背負っているんだ、もっと俺達大人を頼ってくれ」
大人、ですか。
「司令は、どうして戦うんですか?」
「俺も最初はそういう家に生まれたからだった、国防に携わる風鳴という家に生まれて、そういう教育を受けてきた。何度も戦う事に疑問を抱いた、だが様々な人々を見てきて、仕事をこなしていくうちに自分なりの答えを見つけて来た。今は一人でも多くの人間が平和に生きられる様に願って戦っている」
多くの人に平和を……。
「だがそれはあくまで俺の答えだ、君には君の答えがある、あくまで参考までにしておいた方がいい」
「私もいつか答えに辿り着けるでしょうか?」
「答えは絶対に一つとは限らない、都合といっちゃ言い方が悪いが、時と場合、そしてその時の自分の在り方で変わる。それが絶対の答えと決め付けて立ち止まるんじゃなくて、「一万と一つ目の答え」を探す事も大事だ」
……答えは一つでも絶対でもない、覚えておく事にしましょう。
映画を見て強くなるのはよくわからないけど、ちゃんとこうやって言葉で伝えてくれると本当に為になる。
「ありがとうございます、司令。ちょっと進むべき道が見えた気がします」
私が進むべき道、そこに私が理想とする「明日」があると、いいですね。