萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

88 / 151
Arcana

 バラルの呪詛、力による支配からの解放、ヒトの為の世界。

 理想の為に誰かに犠牲を強いるやり方。

 

「くっふふ……」

「数が多くなって気が大きくなったところでお前達で私達に敵うワケではない!」

 

 響さん達が合流したのでこっちがやられた様に分断して逆に消耗戦を仕掛ける事が出来る。

 私は今、プレラーティの相手を引き受けましたが、1対1ならなんとかなると思っていた数分前の私をぶんなぐってやりたいです。

 

「あはは!」

「何を笑っている!」

 

 とはいえ散々痛めつけられた恨みというか、やられっぱなしではいられない。

 というか正直滅茶苦茶に腹が立っています。

 

「くっくく……あははは!バカでしょ!面白すぎでしょう!」

「何がおかしいワケだ……!」

「あなた達の理想!」

「何だと?」

「そう!真っ向から答えと逆方向!今までやって来た事は無駄無駄の無駄ですよ!こんなアホどもに私達は苦しめられて来たと思うと逆に笑えてきますよ!」

 

 別に本気でバカだと、愚かだとこの人らの「理想」を否定するつもりはありません。

 ですがこの人達は、本気でその「理想」に命を懸けている。

 私達と同じ様に。

 

 

 だからこそ。

 

「ふ……ふざけるなッッ!」

「ふざけてるのはあなた達ですよ!そもそも自分達が正しいと思うのなら最初っから表に出て戦えばいいんですよ!私みたいに!」

「私達を闇に押しやったフィーネの忘れ形見がッ!!」

「フィーネもそういやバラルの呪詛を解きたいって言ってましたね!だったら協力するとかいう発想はなかったんですかー?あっそっかあ!結局は自分達が新しい支配者になりたいってだけの事なんですよね!!!」

 

 煽られたら絶対に乗ってしまう、そういう所まで私達と変わらない。

 

「ふざけるなああああッッ――!!!」

 

 

 腹を突き破る刃を固め、プレーラティの腕を掴む。

 

「……捕まえました」

 

 黒い血反吐を吐く。

 傷口が変質してアームドギアを形成して止血。

 

「このバケモノが!!醜い本性を現したワケダッッ!」

 

 

 構造的には概ね人間、精神的には人間、しかし根本的存在は人にあらず。

 

 そりゃ普通の人間は自分の体を分解してアームドギアと合体したり、そもそも生命を意図して燃やしたりできませんからね。

 

 でもやっぱり内臓をかき回されても、痛いとも思わないのはショックですよ。

 

 貴女の言うとおり、私は「ヒトデナシ」ですよ、でも。

 

「誰かを愛していられるなら!!私は異形のバケモノでも十分です!!」

 

-Plasma Talon-

 

「ぐぅぁああああッッ!」

 

 クローをプレラーティの肩に突き刺して、そのまま地面に縫いとめて差し上げましたが、私の体の方も限界で、もう動きません。

 

「プレラーティッッ!」

「詩織ッッ!」

 

 

 意識が落ちる感覚は、随分と久しぶりに感じます。

 

 

----------

 

------

 

 

 振り返ればクソみたいな人生だった。

 ジャンに錬金術の教えを乞うたのが悪かったのか、自分自身の生まれ持った気質が悪かったのか。

 とにかくロクでもない事ばかりしてきた。

 快楽を求め、退廃に満ちた人生だった。

 

 だが私は光と出会った、サンジェルマンの「本当」の錬金術によって私は本当の自分を見つけられた。

 だから私は彼女の為ならこの命を賭しても惜しくは無い。

 

 全ては彼女の、笑顔の為に。

 

 あれ、でも私は加賀美詩織で――?私が守りたいのは皆の笑顔で……ああ。

 

 これはプレラーティの記憶の一部分……?

 

 ……意識が随分とはっきりしてきました……。

 

「はぁ、随分と……やりにくくなりましたね」

 

 ここはお馴染みメディカルルーム。

 

「目が覚めてそうそうに何が「やりにくくなった」だ!詩織!どれだけ私達を心配させるつもりだッ!!」

 

 げっ!つ……翼さん!っていうか翼さん泣いてる!?!?!!?

 

「まっ!どうどう!とりあえず落ち着いてくだされ!翼さん!」

「取り乱してなどッ!!!」

「取り乱してる人ほどそういうんですよ!ほらほら無事生きてますから!」

 

 お腹の傷はヨシ、無事アームドギアで溶接して元に戻せてますね。

 

「お前は!本当に!!本当に!どうしようもないバカだ!」

 

 オオウ……ついに翼さんにまでバカ扱いされる様になってしまったか……

 

 まぁでも敵を煽って刺されて肉切骨断するのはバカだよなぁ……

 

 

「ハイ……詩織バカです……ハイ……」

「そういうことではない!!とにかく!」

 

 え?

 

「生きててくれてよかった……本当に……!」

 

 アワワ……アワ……抱きつくのはホントだめですって!翼さん!私の脳が沸騰する!

 

 っと冗談はさておき。

 

「すみません、いつもイカレた行動してしまいがちで」

 

 再生するから、どうにかできるから、死なないから、使える。

 多分これは翼さんや皆にはわからない、理解してても受け入れられない事だと思います。

 これがきっと私がイカレている様に見える原因だと思います。

 

 

 この世界に「完全な不死」はない、それはきっとおかしくなるからなんでしょう。

 

 

 フィーネぐらいに最初からおかしくてタフな奴でもなけりゃこうやって何度も死ぬ機会もまずありませんし、っていうかフィーネも厳密に言えばもう死んだらしいですけど。

 

「でも心配しないでください、私は……私は翼さんを置き去りにどこかへ行ったりはしませんよ」

 

 私は加賀美詩織であり、フェニックスであり、おりんであり、翼さんのファンであり、皆の仲間である。

 

 どれか一つだけでも残っている限り、私は、私で居られる。

 

 なるほど、これが不死。

 

「あ、それはそれとして翼さんにお願いがあるのですが」

「……何だ」

「語尾にとってつけた「にゃん」をつけてくださると私の精神が高揚し、エネルギー出力が上がって体力の回復が早まるのですが」

 

 

 

 

 にゃんが聞けたかどうかは、想像に任せます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。