萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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【風りんコラボ】おりんラジオ/最後の審判【風鳴翼さん】

 息を吸う、息を吐く。

 

 心臓に手を当てる、生きている事を確認してみる。

 

 

 この世に生まれた事が消えない事実なら、生きる事はその証明だろう。

 

 

 「翼さんの……友達になっちゃった……」

 

 私なんかが友達になってよかったんだろうか、怖がって誰の手も取らなかった私なんかが。

 

 ……これはあれだろうか、「もう逃げ道はない」という奴だろうか?逃げ続けてきた人生と向き合う時が来てしまったのだろうか。

 

 告知を更新する。

 

 

 「スタジオ配信マジで!?やったな!」「お昼時点で翼さんの公式告知で出てたぞ」「おりんがんばれ、超がんばれ」「おりんもデカくなったな」「大丈夫?おりん生きてる?」「おりん翼さんのファンだったもんね、よかったね」「でもおりん絶対クソザコ状態になってるぞ」「イキれないおりんが楽しみだ」

 次々とリスナーからのコメントが寄せられる、その多くは応援のメッセージだった。

 思わずまた泣きそうになるけれど堪える、このダンゴムシども如きにまで泣かされてたまるか。

 

 「いくらおりんが遠くに行こうともおりんの影に俺達はいるぞ!」「おりんの居る場所がスタジオやステージになっても、おりんがいるならそこは日陰だ」「だから安心して行け!おりん!」

 

 散々、闇の住人なんて馬鹿にしてきたけど……なんですかあなた達は、いつも人を馬鹿にしているくせに肝心な時に応援する様な、そんな奴らでしたか?

 

 涙がボロボロ零れてくる、くっそ、今日はずっと泣きっぱなしだ。

 

 顔を拭い、ボイスチェック、配信を開始する。

 

『これから大きな舞台に立つ私でも、変わらずに日陰と思ってくれるならば、いつも通りあなた達は私の闇を笑え、それが私の救いで、一番の応援だ』

 「おりんポエムだ」「おりんは日陰、俺達ダンゴムシ」「しめっぽくするな」「気取るな」「イキるな」配信開始時は応援の声ばかりだったが段々といつもの私を馬鹿にするコメントが増えてくる。

 

 よし、と笑う。

 

『という事で君達には死んでもらう、今日はBLゲー配信だ、今日は女装少年モノだぞ!』

 「ウワーッ!」「ウワーッ!」「やめて」「ゆるして」「待ってた」「ノンケを引きずり込め」「急に汚りんになるのやめろ」一瞬で感動的だったコメント欄が地獄へと変わる、湧き上がる悲鳴、そうだこれでいいのだ。

 

 

『ちなみにコラボラジオのタイトルは風鳴翼さんと私の名前からとって「風りんコラボ」おりんラジオ/最後の審判で日曜日の20時半から部屋を立てますからよろしく!』

 

 

 さぁ、闇を引き連れて行こう。

 私こそ日陰なり、私こそ萌え声生主おりんなり。

 

 

 まだ少し現実を受け入れられないけど、私には闇がついている。

 

 

 

 

 放送当日まで、何事もなく過ごした。

 嘘、何事も無かった訳ではない、櫻井了子さんが最近来ない、故に立花さんと共に司令に特訓をつけて貰ってる。

 最近はイカロスを纏った私の相手をして貰ってる、相変わらず司令がおかし過ぎる……なんですかゴム弾とはいえ機関銃を全部弾くって……。

 

 私のイカロスが発現しているアームドギアは3つ、一つ目は「フェザークローク(命名)」

 これは全身を包む小型の飛行ユニットと兼用の装甲、任意に切り離して飛ばしたり出来るため司令に掴まれた時に即座にパージして投げられるのを回避したりするのに使って褒められた。

 しかもこれは消費した側から再展開できる、聖遺物の力ってすげー!でも司令に軽く殴られただけで砕け散った、無念。

 

 二つ目の武装は「内蔵機関銃」肩に二門、腕に四門の機関砲、フルバーストすればトラックを10秒で鉄屑に出来る優れものだ!ちなみに立花さんはパンチ一発でトラックを粉砕してた!私はゴミだよ……

 

 そして三つ目「マルチランチャー」私のメイン武装、スモークグレネードやトリモチ、そしてガス缶を発射できる。

 ノイズ相手にはクソの役にもたたなさそうだけどこれがあの司令や立花さん相手によく効いた!

 トリモチではあの司令を5秒も足止めできたし、スモークで立花さんから初めて一本取れた。

 

 ちなみにガス缶だけどこれは着火して爆発するモノなので模擬戦では使わず、廃車両に対するテストで使っただけだったがとんでもない威力だったので市街地では使えないし、多分出番は永遠に無いだろう。

 

 ……立花さんから一本取ったけど一日5本で3日間で15本の内の1本で不意打ち初見殺しである。

 

 残りは全敗している、私はザコだよ……。

 

 

 それはそれとして待ちに待った日曜日である、前日はなにやら立花さんとその友達と翼さんの3人で遊びに行ったらしい。

 翼さんからのメールで知った。

 

 …………実はあれから翼さんと顔を合わせて話していない、全部メールや電話でのやり取りである。

 

 都合が合わない訳ではない、私から避けているのだ。

 

 …………まだ怖い、まだ不安が消えない。

 

 でも今日、翼さんと一緒に配信をする、全ては今日という日に決まる。

 

 

 スタジオへ向かう足取りが石の様に重かった、何度も立ち止まり、何度も引き返しそうになった、けれど進んだ、闇を胸に抱きしめて。

 

「こんばんは、翼さん」

「待ってたわ……詩織」

 

 スタジオについて、真っ先に翼さんと顔を合わせる、そして翼さんは手を差し出してくれる。

 

 私はそれを、とれなくて。

 

 俯く。

 

 そうしたら翼さんが私の手に触れてくれて。

 

「大丈夫、詩織が少し内気なのはわかってる、だから私が引っ張って行く」

 

 私はその言葉に顔を上げる、そこには優しい笑顔を見せる翼さん。

 

 

 

 やば、また死ぬ。

 

 

 初めて見る表情、私ちょっと無理かも、死んでしまうよぉ……。

 

「あ……アッ……そう……そうですね!行きましょう!時間はもうすぐです、光と闇のラジオを始めましょう!」

 

 こんないい笑顔をしている翼さんを曇らせたくない一心で、このクソザコハートを燃やす、命を燃やせ。

 

「ふふっ」

 

 やめてくだされ、やめてくだされ、私をまた尊死させるつもりですかこの歌姫様は。

 

 

 

『おりんラジオ、最後の審判』

『ゲストは私、風鳴翼でお送りします』

 「はじまったぞ!」「おりんがイケボを演じているぞ」「萌え声を捨てるな」「マジで翼さんだ!」「というかスタジオ配信っておりん何者なんだ」「余計な詮索は寿命を縮めるぞ、主におりんの」コメントがこれまでに見たことの無い速度で流れていく、視聴者数5万以上って何これ。

 緊張のあまりイケボになるんじゃが。

 

『ええ、私も何が起きたのかさっぱりわかりませんがね、翼さんのお誘いで何故かスタジオで配信してるんですよ、人生何が起きるかわからないから一日一日を噛み締めて生きるんだぞみんな、ところでなんで翼さんは私とコラボしたいなんて思ったんですか?』

『リスナーの皆さんと楽しく話しているのを見たの、それを見て楽しそうだな~私も混ざりたいな~と思って。ところでおりんさんは私のファンという事だけど、私のどういう所を好きになってくれたのかな?』

 

 アッアッアッアッやめてくだされやめてくだされ、むごい事を聞きなさる。

 

『あっあっ……アノデスネ……私にはない輝きが、翼さんという光の輝きが……あまりに綺麗に見えたからです……』

 「クソザコナメクジ」「終身名誉陰キャ」「非イキリ萌え声生主」「人気生主」等の罵倒が私に向けて無数に飛んでくる、それが良く見るといつも罵倒してくる奴らのアカウントで何だか安心する。

 

『ふふっかわいいわね、おりんは……という事で最初の企画、私の持ち込み企画「おりんの可愛い所を上げてこう」これは私のマネージャーと私が過去のアーカイブやログから独断と偏見で選んだおりんの可愛い所をピックアップしてくコーナー』

『ウワァーッ!!!なんて企画持ってきてるんですかね翼さん!?』

 「翼さんおりんを呼び捨てだーッ!」「仲良し」「おりんは可愛さを売って行け」「BLゲームで地獄を見せた女とは思えない」私の可愛さなんて声だけでいいんですよ!私に萌えるんじゃない!私の声と翼さんに萌えていけ!

 

 というかこの最後の審判ってタイトルにあわせてこの企画持ってきたんですか翼さん!?

 

『おりんの可愛い所その一「声」その可愛らしい声を巧みに使い分けていく』

「確かに」「それに釣られたのが俺達だ」「基本よね」ま、まぁわかるけど……。

 

『おりんの可愛い所その二「イキリ失敗」頑張って強がって見せるけど強がれてない所』

 「クソザコおりんの代名詞」「おりん惨敗シリーズ」「わかる」いきなり突っ込んでくるな!というか翼さんにも私のイキリ失敗を見られてたのか……。

 

『おりんの可愛い所その三「緊張するとふにゃふにゃになってしまう所」普段からおりんと接してるとよくわかるけど私の前だとすぐに弱々しくな……』

『ワァーッ!翼さんちょっとまっ』

 「『普段』から!?」「まっておりんとリアルで繋がりあり!?」「いや待ておかしくないぞ、おりん……萌え声……全ては繋がった!」「音楽系でつながりねーなるほどなるほど…!?」ヤバしヤバし身バレしちまうーッ!炎上しちまうーッ!

 

 「まぁ、別に不思議じゃないよね」「むしろおりんのトークスキルとかから只者ではないと感じていた……」「でもおりんの闇は本物だから……」「クソザコ化がリアルでも発動している時点で……」あれ?予想していた反応と違うぞぉ?

 

『こんな風に心配性な所も可愛い所ね』

 「わかる」「翼さんにならおりんを任せられる」「おりんをいじっていけ翼さん」あれー?もしかして……。

 

 「最初から心配しているのはおりん一人だったというオチでは?」

 

 …………ウワーッ!!!!!!

 

『とこんな所ね、さて私の持ち込み企画はここまで、次はおりんの企画だけど大丈夫?』

 

 すっごいいい笑顔でこっちを見てくる翼さん、このっ…このっ……!!!翼さん!!!

 

 そんないい笑顔しても……許す!!!!!!!

 

 「悲劇のライブ」の日からずっと見れなかった、優しい笑顔を翼さんがしている。

 

 それだけで私の生まれてきた意味はあったのだろう。

 

『翼さんの笑顔に免じて……許します……ですが、その代わり私のワガママを一つだけ聞いてもらいます』

 

 一度思い浮かべて、すぐに「無い」と封じた企画。

 それが喉元まで上がってくる。

 

『たのしみね、おりんの企画』

 

 私は、息を呑み、笑顔の翼さんに伝える。

 

『いっ……一緒に歌って欲しいんです!!!』

『ええ、一緒に歌いましょう』

 「おりん、良く頑張った」「泣いた」「大 勝 利」「おりん優勝シリーズ」「ありがとう翼さん」私の気持ちを代弁するようなコメントが流れていく。

 

 私は今日という日を絶対忘れないだろう、こんなに楽しい気持ちで、こんなに嬉しい気持ちで歌う事が出来るなんて。

 私は半ば涙声になりながら『ORBITAL BEAT』を共に歌った。

 

 この曲を選んでくれたのは翼さんだった、私は負けない様に必死に歌った、私の全てを懸けて歌った。

 

 この時を7万以上の人が見ていてくれたのがとても、嬉しかった。

 

 

 

 こうして私達の初めてのコラボ配信は無事に終わった、いつか第二回の約束も交わして。

 

 

 

 ただ翌朝、おりんメトロノームというタイトルで私達の昨日の配信の切り抜きと私の醜態を交互に見せていく動画が動画サイトで日間一位になっていて、恥ずか死しそうになった。


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