萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
「局長、祭壇の設置にあたって……必要な生命エネルギー……生贄が不足しています」
パヴァリア光明結社の拠点、先日の装者達との全面的な衝突で少なからず計画に乱れが出ていた。
想定以上の消耗に加えて、プレラーティの大きな負傷と「妙な症状」。
具体的には「知らない記憶」の流入による混乱、さらにはファウストローブの不具合。
それが「儀式」の為の祭壇の設置を遅らせていた。
「とってきなよ、その辺りの人間を使って……と言っても嫌がるだろうからね、君は。だったら任せてくれよ、僕に」
「えー!?アダムがめずらしく乗り気ー!?」
ティキの言葉の様に、アダムが自発的に動くというのは珍しいらしくサンジェルマンも驚く。
といっても、前の黄金練成の時の様に余計な手出しかもしれないと少し身構える。
「局長自ら?」
「そうさ、責任もあるからね、装者を始末しそこなった時の。たまには僕の有能さに驚くといい……生贄は」
名誉は取り戻されなければならない、汚名は雪がなければならない。
計画の障害になりえるものは取り除く、風鳴機関の解析施設を消したのもまた計画の邪魔となるそれを排除する為。
だが利用できるものは利用した方がいい。
そうした方が、うまくいく。
「加賀美詩織、彼女が適任だ」
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「そっちに飛ばすデース!」
切歌ちゃんが突っ込んできたアルカノイズをイガリマで迎え撃つ。
ボールの様に跳ねたアルカノイズは私の方に回転しながら高速で飛来する。
動体視力は鍛えたつもり――ですが!
「3!」
イカロスのプラズマクローで突き刺してキャッチ。
ノイズは赤い煙になって消し飛――ばずそのまま鎌のような解剖器官を振るってくる。
「うむ……やはり詩織が先に仕掛ける方がいいんじゃないか?」
しかし間一髪、翼さんの剣がアルカノイズを貫いて消し去る。
「私でもダメデスか……」
「……ですねぇ……昔にくらべたら火力はあがってると思ったんですが」
無事サルベージした「愚者の石」を使い、それぞれのギアを強化調整が開始されました。
一斉にアップデートした場合、何かしらの不具合が発生した際に大変な事になるという事なので段階的に改修しているんだそうです。
ですが実の所、この改修は私にはあまり関係がないのです。
というのも、私のギアには強化がない……そもそもイグナイトが搭載されていないのです。
だから愚者の石を搭載するメリットがないという……。
まあそれはそれとしてあくまで愚者の石は「前提」です、錬金術師達との戦いに備えて自分達の「技」も鍛えないといけない。
なのでこうして「連携」の訓練をしているのです。
「詩織の破壊力は「熱量」的なもの……三人以上で連携を組む場合ならトドメとして機能するが「二人」で組むとなると中々考える必要がある」
前は使えたホーミングレーザーがナーフされてしまいましたからね……航空支援にしてもなかなか難しいです。
「私も影縫いが使えればよかったんですが……」
「アレを習得するのには私もかなりかかった、そう急ぐな」
そう、前々から緒川さんに出来るだけ訓練をつけてもらって忍術を覚えようと頑張ってるんですけど……全然覚えられないんですよね。
イカロスのフルパワーで残像は出せるようになったんですけど。
「あっ!私にいい考えがあるデース!」
「案があるというのか暁」
お、切歌ちゃんが何か思いついた!
「合体デス!」
「……暁、ユナイトは」
「いえ、ユナイトをしなくても「合体」なら使えますよ」
「……そうか!アームドギアの機能か!」
「そうデス!クリス先輩に聞いたのデスよ!」
なるほど、初陣でやったアレですか……超がつくほどの付け焼刃じゃないですか……。
「その、自分で言うのもなんですがすごい酔うらしいですよ……私の飛行」
「大丈夫デース!回転は調の無限軌道で慣れてるデス!」
ほんとかー?本当に大丈夫かー?
私のは回転じゃなくて雑飛行ですよ?
「それなら、試してみま―-」
『訓練中にすまない詩織くん、呼び出しだ』
「ありゃま、詩織さんこんどは何をやらかしたんデス?」
「呼び出し……?一体誰から……」
連絡じゃなくて呼び出し……?ああ。
「すみません、ではちょっと行ってきます。多分広報とかの話でしょう、最近やってませんでしたから」
「……そうか」
「なるほどデス」
皆さんを心配させる必要はない。
これは私の仕事です。
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「戦前から積み重ねられてきた多くの資料が失われた」
「バックアップぐらいとっておかなかった方が悪いです」
「フン……自分の立場が分かっていないのか?貴様が守(さきも)れなかったのだぞ」
「……わかってますよ、あの時……私が間に合っていれば多くの命も失われずに済みました。その点は……」
加賀美詩織は――風鳴訃堂という人間が嫌いだ、これまで出会ってきた人間の中でもドクターウェルやフィーネ、まだ始末できてないアダムなどに並んでトップクラスで嫌いな人間だ。
「わかっておらんな」
「いいえ、わかってます。持ち帰ってきた情報が解析できなかった事によって「無駄」になった者も、これから犠牲になるものも」
国は人の為にあるもの、人を守らない国に正義なんてない。
バルベルデの一件で詩織はそう考えた。
その過去の所業だけではなく、その在り方として、訃堂とは絶対に相容れない。
だとしても、訃堂を知るものならとてもではないがこんな態度に出る事などできない。
命知らずにも程があるが、詩織はある意味そんな「命知らず」だ。
耄碌したジジイとしか思っていないのである。
「で、それでこんなくだらない説教をする為に私を呼んだのですか?さっさと帰ってまた私は鍛えたいんですが」
訃堂の鋭い眼光と圧、それでも詩織はひるまない。
まだ視聴者からの圧の方が怖い、と自分に言い聞かせる。
「賢者の石、あの夷狄(いてき)どもと同じ力であり、神の力に通ずるもの」
「だとしてなんです」
「そして、不死鳥……貴様の為にいくつかの「秘」を明かそう」
外に控えていた黒服の男が長い木箱を運んでくる。
「どういうつもりですか」
「国防の為に貴様は「使える」と儂は思う、故に貸してやる。風鳴の家が古くから蒐集してきた品の一つだ」
「……私に何をしろというんです」
厳重な封印が解かれ、開かれた箱の中身を見て、持ってきた黒服の男が思わず後ずさった。
詩織もその「力」に圧され、思わず吐き戻しそうになった。
「こんなものを、私に渡して何を」
「加賀美詩織、この国を守る為の「礎」となれ」
ただの一人の少女でしかなかった彼女を利用とするのは何もアダムだけではなかった。
風鳴訃堂も、加賀美詩織のその力を利用しようとする者の一人だった。
それだけの話だった。