萌え声クソザコ装者の話【and after】   作:ゆめうつろ

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Even if

 人は神様になんてならない方がいい。

 

 それがあの耄碌したジジイの企みに乗る事だとしても、私以外の誰かがあの力を背負わされる事だけは避けたい。

 

 

 翼さんにも、響さんにも、マリアさんにも……当然他の誰かであっても、この力を背負わせるなんてしたくない。

 だから私が背負う。

 

 

 都合のいい神様にだってなってやる。

 

 皆を守れる強さを、手にしてみせる。

 

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「かつての大戦中に多くの者がこの杖の力を引き出そうと試みた」

 

 100歳を超える老人とは思えない動きと力、ぶつかり合った木剣が衝撃で破片を散らす。

 

「ぐっ!それで、逆に命と心を吸われて死んだわけですか!」

「その通り、勇敢なる戦人にもこの神へと至る為の力の一つは使いこなせなかった」

 

 イカロスを纏った詩織をも圧倒するその力は到底人間とは思えない。

 その力に司令のあのデタラメな強さを想像するが、そこに思考を割いている場合ではない。

 

「私みたいな小娘が使いこなしてご不満でしょうねぇッ……!」

 

 多少卑怯な手段だが詩織は木剣の芯をアームドギアへと「変換」する。

 それによって多少ではあるが、訃堂の剣を逆に押し返した。

 

「ふん……まあ不満ではあるが、それは防人としての心がお前の方が勝るから出来た事だ」

 

 形勢は五分、ようやく巻き返したが詩織が突然の賞賛に苦い顔をする。

 

「私の守りたいという心は……!皆の為にある!あなたの守りたい国とやらの為ではありません!」

 

 一瞬の怒りと無慈悲さが詩織の心を支配し、木剣が砕けて剣のアームドギアとなって訃堂の持つ木剣を裂いた。

 

「じゃが、お前には冷酷な決断が出来る」

 

 間一髪というか、それが訃堂の老体を切り裂く事はなく、床に突き刺さるだけで済んだが。

 詩織は今、自分のした事を恐れた。

 

「お前は自分の守りたいものの為に他の全てを犠牲に出来る……ワシと同じ様にな」

 

 訃堂は綺麗に切り裂かれた木剣を捨て、二本の短い木剣を手にする。

 

「……私は!違う!」

 

「違うものか、たった一つだけの拠り所である愛の為にお前は鬼となり、修羅となれる」

 

 詩織もまた完全にアームドギアに変換してしまった剣を捨て、両の手にプロテクターを構える。

 

「だとしても!私の血は風鳴翼がくれた歌だ!」

 

「ならばなおの事よ、あやつも風鳴!ワシの血を分けた娘だ!あやつの歌という血が流れているのなら、お前もまた真の防人になれるかもしれんな」

 

 隙も見当たらない連撃を拳で防ぐ、少なくとも「衰えて」はいるのだろう。

 司令の連撃よりは遅いし、力も信じられないぐらいで司令程ではない、防ぎ、避けながら耐える。

 

「さて、遊びは終いだ」

 

 一瞬、訃堂の姿が掻き消えた。

 

 詩織は直感で真上に飛ぶ、が同時にイカロスのフライトユニットが甲高い音と共に「もげた」。

 

「今の一撃をかわしたのはまぐれか、それとも直感か……だがこれではっきりとわかった、お前に剣戟や拳闘の才はない。圧倒的な力を振るい、相手を捻り潰すがよい」

 

 冷たい汗と滲み出た血を垂らしながら詩織は息を荒げた。

 

 これで今日二度目の鍛錬は終わり、少し時間を空けて三戦目だ。

 

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「明日には皆さんの方へ戻れそうです」

『そうか、私達も明日には本部に戻る。尤も……うまく神の力の情報が得られればだが』

「翼さんも無理はしてませんか?」

『無理はしてないさ、ただ私よりも月読の方が少し問題だ』

「……どうかしたんです?」

『ユニゾンだ、装者同士の連携が彼女だけ暁以外とはうまくいっていない』

 

 私が鎌倉に呼び出される前、錬金術師との戦いの為に連携の訓練が行われていました。

 しかしその時こそ気にはしてませんでしたが、まさか調ちゃんだけが他の皆とうまく合わせられてないようです。

 

「マリアさんとも?」

『……ああ』

「えぇ……そりゃ……ないでしょうよ」

『マリアも少しショックを受けていた、ついでに雪音も』

 

 付き合いが長い上にそれなりに親密でもユニゾンとはうまくいかないものらしいです。

 私もあまり上手く連携できてなかったので人の事はいえませんが……。

 

「まあそれはそれとして、ギアの反動汚染とかいう奴はどうなりました?」

『エルフナインが今除去しているが、かなりの手間がかかるそうだ。詩織の方は大丈夫なのか』

「大丈夫……といいたい所ですがあのご老公の特訓、ちょっと意味わかんないですね……さすが司令の父というか……3回ぐらい死ぬかと思いました」

『……馬鹿な』

「あの人も人間かどうか疑わしい部類の人ですよ、ええ……とにかく後一回訓練が残ってるのでそろそろ準備しないと……」

『詩織、本当に何かあれば直ぐに逃げ出すんだ。……父は本当になにをするか私にも予測できない』

「……大丈夫ですよ、最悪火事になるかもしれませんが」

 

 大丈夫。

 大丈夫じゃない。

 

 でも大丈夫にするのが私のやるべき事。

 

「まあ、明日。明日また会いましょう」

 

 

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「ティキは人間になりたーい!」

「なんだい薮から棒に」

「神の力を手に入れたら、アダムと同じ人間になって子供が生みたい!」

「そうかい」

「だからあの三級錬金術師共を早く生命エネルギーにしちゃって神の力を練成して……」

 

「そういう腹積もりだったワケか」

 

 カリオストロが遺した言葉を追って、プレラーティが掴んだのはアダムとティキの真意。

 これまで自分達をサンジェルマンを利用して成そうとした計画の真の目的。

 

「そうしてきただろう?これまでも、そしてこれからも」

「黙れ!お前らにサンジェルマンの理想は……踏みにじらせやしない!」

 

 理想への裏切りには死の報いを、だが……相手は統制局長アダム・ヴァイスハウプト、自分一人で敵う相手ではないことは分かっている。

 ファウストローブを纏い、その場を離脱しようとするが――

 

「ぐぅっ…!?こんな時にくるワケか!?」

 

 『異常』がプレラーティを襲う。

 完全なる肉体は、加賀美詩織との戦いで「何か」が奪われた事によって不完全となっていた。

 

 

 わかっていた、だがそれを完全に治す時間がない事も覚悟のうちで行動していた。

 

「ほう……失われていたのかい、完全性は」

 

 それに気付いたアダムが笑みを浮かべた。

 

「だとしても!サンジェルマンがくれたこの力は……ッ!」

 

 ラピス・フィラソフィカスの力も、完全な肉体でもない、となればファウストローブも完全ではない。

 現に負荷がプレラーティの体を蝕んでいた。

 

「なら……利用価値はないよ、もう君にはね……」

 

 アダムはもう興味は無い、という表情でプレラーティから視線を外す。

 それに対してティキが驚いた。

 

「えー!?これは使わないのー!?もったいないよアダムー!」

「いいさ、それよりも加賀美詩織だ。プレラーティから完全性を奪ってより強力になった彼女の方が興味深いだろう?」

「そうだね!生命エネルギーもあっちの方が一杯とれそうだし!そうなるとサンジェルマンを生贄にする必要もなくなるかも!?」

 

 その言葉の意味を理解しようとプレラーティは一瞬、意識を逸らしてしまった。

 一瞬の油断が命取りだった。

 

「でもサンジェルマンに聞かせるわけにはいかないだろう、真実を」

 

 万物を両断する程の威力を持った風の刃がプレラーティの体を切り裂いた。 

 ファウストローブのおかげで致命傷は免れたが、血が噴き出し、衝撃でプレラーティは窓を破ってビルの外に落ちた。

 

「あっ!やり損ねたよ!?」

「いいさ、後の始末は任せるさ……シンフォギアにね」

 

 想像以上に事が上手く運んでいる、後は最後の大祭壇の設置の時に加賀美詩織を居合わせるだけ。

 アダムはようやく目的に大きな一歩を踏み出せると心を弾ませた。

 

「さあティキ、サンジェルマンへの連絡は頼むよ。プレラーティはシンフォギアに倒されたとね」

 

 

 

「クソっ!あのヒトデナシの裏切り者が私にトドメをささなかった事を後悔させてやるワケだ……!」

 

 車がクッションとなったおかげで死を免れたプレラーティは血塗れの体を引きずって身を隠す。

 急いでサンジェルマンにこの事を伝える必要がある、かといってこの重傷では急いで合流するのも難しい、念話も妨害されて届かない。

 

 強引に止血して体を休めながら、策を考える。

 

「……背に腹は代えられない……ワケだ」

 

 最後の一つの機能特化型のアルカノイズを呼び出し、プレラーティは一万と一つ目の手段をとる。

 

 アダムの誤算はプレラーティが手段を選ばなかった事。

 

 

 まさか、今まで殺し合った相手に「頭を下げる」事を選ぶなどとは微塵も予想してなかっただろう。


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