萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:青川トーン
人々は皆、同じ様に上を見上げた。
そこに映るのは街頭放送。
『やあS.O.N.G.と日本政府の諸君、僕はパヴァリア光明結社統制局長のアダム・ヴァイスハウプトだ。君達の回線を知らないものでね、あいにく。こうして公共の回線を乗っ取らせて貰った』
夜の空に巨大な要塞の様なアルカノイズ達が浮かぶ、しかしそれらが人々を襲う事はない、今はまだ。
『見ての通りだ、空にはアルカノイズ。間に合わないだろう?いくら対抗できるシンフォギアがあるとはいえこう数が多ければ。どれだけの犠牲が出るか、つくかい?想像が』
恐怖に取り乱す者もいれば、その場にへたり込むもの、そして困惑の表情で固まるもの、人々の反応は様々だった。
『「加賀美詩織の引渡し」と「明日の朝まで装者を動かすな」この二つだけだ、そうすればこのアルカノイズ達は自然に消え、人死には出ない。まあ逆に言えば、それをやぶればわかるだろう?どうなるか』
ただ一人、世界に名を知られる「装者」の引渡し要求。
その理由を知る者は居ない、だが大勢の者にとってはそんなことはどうでもよかった。
何処に居るのかさえ分からない少女を、言われたとおりに引き渡せ。
それだけを願っていた。
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「ふざんけんなッ!!!」
クリスは思わずモニターに殴りかかりそうになり、それを弦十郎が止める。
本部の空気は最悪だ、言葉に詰まる程に重く苦しい雰囲気がその場を支配していた。
「……ヒトデナシのロクデナシのやる事だ……私から言わせてもらえば絶対に奴は約束を破る、引き渡した所で大勢の人間が犠牲になるワケダ」
その空気を打開したのは皮肉にもパヴァリア光明結社でアダムの下で働いていたプレラーティだった。
「無論、俺たちは大事な仲間を渡すつもりはないさ、どうやって事態を打開するか、そこだろう?」
「現在プレラーティ…さんが渡してくれた「ラピス」の技術を元にエルフナインちゃんが反動汚染の除去を行っています。そうすれば装者6名全員が動けます。被害を出さずにノイズを殲滅する為の計算を今してる所です!」
「既に避難誘導は始まっています、生憎アダム・ヴァイスハウプトは住民の避難までは禁じていませんでしたので」
ここにいる者は絶対に誰も見捨てない。
弦十郎も藤尭も友里も、他の職員だってこの事態の打開の為に、ここに居ない少女を守る為に既に行動している。
「……甘い奴らだ……だが悪くない。引渡し場所に指定されているのは「例の場所」つまりは儀式の生贄に加賀美詩織を使う積もりだろう、そこには間違いなく儀式の要であるサンジェルマンも居る……説得は問題ないワケだが」
「やはり人質、そしてアダム・ヴァイスハウプト本人か」
「既に空の星は位置についている、儀式を強行してくる可能性もあるワケだが……レイラインの遮断許可は降りたのだろうな?」
「ああ、とっくのとうにな」
「となると……」
プレラーティを突き動かしたのはサンジェルマンへの想いだった、目的を果たす為ならたとえ敵だった者の手を取ることだって、ワケはなかった。
今、自分自身にできる事を考える。
今ある手札は不完全状態の「賢者の石」だけ、特別に設備を借りて修復したとはいえ、万全の純度ではない。
覚悟は既に出来ていた。
「鎌倉からの通信……!?」
その時、モニターにその姿が映り、弦十郎が表情を強張らせた。
相手は父である風鳴訃堂だ。
『ふん、我が息子とはいえ不甲斐ないものよな……やはり真の防人には程遠い……今しがた奴の望みどおりに「あやつ」を送ってやった。お前達は動かなくて良い』
訃堂はアダムの要求どおりに詩織を目的地に向かわせた。
それに対して皆一様に驚愕の表情を浮かべた。
「詩織を……詩織を奴に渡すというのですか!!!」
翼はまるで射殺すかの様な視線でモニター越しの「父」をにらみつけて叫んだ。
『甘いぞ翼、防人の血を継ぐ者であるのならば常に冷静な判断を』
「知るものか!私の防人としての生き様は!天羽奏と、ここにいる皆がくれたものだ!」
『……フン、まあよい。当然だが、ただただ無策で引き渡してやったわけではない。あやつもまた「防人」として自分から戦う事を選んだぞ?』
「それは……どういう……」
『神の力は一つでよい、それを持つに相応しきは国防の守護神。「力」を持たせて送ってやった、その姿を見てやるとよい』
通信が切れ、再び街の上空に映像が切り替わる。
「上空に高エネルギー飛翔体が接近!?これは……絶唱並みのエネルギーです!!」
「絶唱……だとぉ!?」
夜空を埋め尽くす様にに浮かんでいた要塞型のアルカノイズを地平線の向こうから現れた「赤」が跡形も無く焼き尽くした。
「上空のアルカノイズ60%消滅!!でもありえない!これだけのエネルギーを出せば体が持たない筈!なのにエネルギー量がまるで減っていない!?」
遅れる様に現れた「流星」が空を翔ける。
それは赤い炎と銀の装甲を纏った詩織だった。
『――奴は、アダム・ヴァイスハウプトは私が動いてはいけないとは言ってませんでした』
「詩織くん!」
「詩織!」
それは聞きなれた声だった、共に戦って来た少女の声だった。
だがその雰囲気はまるで違って、その場に居た者達は困惑した。
『手出しは無用です。直ぐに始末をつけますので』
信じられない程に冷たい声、向こう見ずであったとしても心を燃やして戦っていた彼女とは思えない声だった。
「アウフヴァッヘン波形……照会……ですがこれは……ッ!」
聞くに堪えない、デタラメな「音」が表示される。
「何を……何をするつもりだッ!詩織くん!」
その様子に弦十郎も冷静ではいられなかった。
『私は、守るのです。皆を』
優しくも、恐ろしい声が響いた。
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「信じられないね、あれは」
「どうするおつもりですか」
「変わらないさ、アレを生贄にして生命エネルギーを確保するのは……ただ、どうにもできなかったらその時は……」
圧倒的な力がノイズを消し飛ばす、その単純な威力だけ見ればアダムの力と対等に見える。
データにあったシンフォギアのエクスドライブや絶唱にも引けを取らない、むしろ上回っている様にさえ見える。
「その前に力尽きるのでは……?」
「死なないさ、見てみるといい……随分と元気にしてるじゃないか、彼女は」
「もーアダムー!あんなのの何処がいいのー?」
「別に彼女にあるわけじゃないよ、気が」
「だったらおっけーかな!」
アダムが珍しく真面目な表情を見せる、それに対してサンジェルマンは少し違和感を感じる。
「とはいえ、案外梃子摺るかもしれないよ……僕とサンジェルマン二人がかりでも」
「局長……まさかあれと戦う気で?」
「ならないさ、戦わなければ。僕の想像以上に向こうが「仕上げてきて」いるんだから」
加賀美詩織がここまでの力を手に入れる事など想定していなかった、正直内心ではアダムも焦っていた。
最初から全力で叩きのめす気で「手」を考えている。
「さあ、神の降りる日だよ」