萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
血の様に赤い夕焼け、鳥居の下に続く階段に詩織は腰掛けていた。
「かつて我らは皆、一つであった」
隣に立つのは赤い髪をした女、何処と無く詩織と似た顔をしていた。
その手には青いスミレの花、詩織はその花に大切な誰かを思い浮かべる。
「だが意志と言葉は別たれ、不和と共に我らは引き千切られた」
女は悲しそうな顔で語るが、詩織は首を傾げる。
「私にそれを語ってどうして欲しいのですか」
「月の呪詛を解き、もう一度全ての生命を一つとする」
女が持つスミレが「溶けてひとつになる」。
そして詩織はここは人柱の杖の中であり、神の力の中であると気付く。
目の前の女は一つとなった人間達の意識の集合体だ。
「生も死も超越し、我らは再び永遠の存在となる事で悲しみを終わらせる。その為にどうしてもお前と一つになりたい」
女は詩織の後ろから手を回して抱きしめる。
「我らは皆、呪詛によって絆を失い、奪われ、支配され、敵対し、愛するものを失った……だから望んだ、この悲しみが終わる事を」
融合したもの達の記憶がゆっくりと流れ込んでくる。
その少年は親友に裏切られた。
その老人は愛するもの全てに先立たれた。
その老婆は家族に捨てられた。
その少女は仲間を殺された。
その男はまた愛するものに会いたいと願った。
………
人柱となった者達は皆誰かを愛していた。
「加賀美詩織よ、お前にもわかるだろう。我らはやりなおさなければならない……この苦しみに満ちた世界を」
詩織にはその気持ちが痛い程に共感できた。
もしもバラルの呪詛が無ければ、両親に愛され、孤独の中で生きずに済んだかもしれない。
こうして苦しみの中で戦い続けずに済んだかもしれない。
溶けていく安らぎの中で、目を閉じる。
緋色の鳥が、赤い空の向こうから飛んできた。
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ロードフェニックスが周囲を溶融させ、同化する事でさらにその身を巨大で強固なものとする。
『あだむのぉ!てきぃ!ゆるさなぁい!!』
ディバインウェポンも負けじと平行世界を更に追加で生贄とし、再びエネルギーを充填する。
「はぁぁあああ!!!」
『ギャァアアア!』
だが発射直前に響の拳によって顔を殴りつけられ、破滅の光は天に向けて逸らされた。
「雪音が居ない分火力が足りないとして!」
-天ノ逆鱗-
翼が巨大な剣をディバインウェポンへと降らせ、その半身を地に磔とする。
だがロードフェニックスはそれにまるで動じる事なく、再び「破壊光線」を両の手に収束させ始めた。
そこに「守りたい仲間」がいると認識しているのに、心を失ったかの様に諸共に消し飛ばそうとする。
「加賀美詩織、お前は仲間を守る為に随分と無茶をしていたな……そんなお前が守りたかった仲間を自分で殺す……そんな残酷……私は許しはしない!」
サンジェルマンのスペルキャスターの銃口から放たれたエネルギーの青竜がその腕に絡みつき凍結する。
カリオストロが作ったもう一つの「ラピス」それを取り込みファウストローブは強化されていた。
氷は一瞬で解けてしまうが、更に4発続けて撃ち込まれ弾が内部まで凍りつかせ、エネルギーの更なる流入を止める。
「さーておちびちゃん達!しっかり呼びかけるのよ!こういうのは声が大事なんだから!」
「わかってるデス!そっちこそきちんと詩織さんのデタラメに巻き込まれないように気をつけるんデスよ!」
「ここは私達が引き受けるワケだ!」
「……ありがとう」
かつて武器を向け合った敵だった、手を繋げないのだとしても、共に戦う事は出来る。
プレラーティが剣玉の糸でロードフェニックスの凍りついた腕を更に縛りつけ、カリオストロが全力で引っ張り支える。
その上を綱渡りの様に調と切歌が駆け登り、ロードフェニックスの腕に上に乗る。
50メートル近い巨体、その胸に輝く銀の結晶、そこに加賀美詩織の姿はあった。
「詩織さん!目を覚ますデス!皆心配してるデスよ!!」
「私だって皆を守りたい……!詩織さんの事だって守りたい!だからそこから出てきて……!」
隔てる壁の様な結晶に叩きながら語りかける切歌と調の声、だが足元が揺れ始める。
それはロードフェニックスが腕の中に突き刺さった凍結弾を排除して拘束を解こうしている為であった。
「切ちゃん……!」
「こうなれば無理矢理にでも引っぺがすデス!!」
イガリマとシュルシャガナ、二つの刃で結晶を砕いて詩織を助け出そうとするが刃の先が接触した瞬間異常が起きた。
「シュルシャガナが!」
「イガリマの刃が溶けッ!?」
アームドギアが蝋の様に溶け「同化」される。
「いけない!離れて!」
「まずい!こちらの武器も食われているワケか!?」
調と切歌は一度武器を手放して跳躍して距離を取る、プレラーティも武器である剣玉を放棄してカリオストロと共に一度距離を取る。
「同化……!それが力か……!」
サンジェルマンはロードフェニックスの能力を分析する、ディバインウェポンとの戦いや現在の状況から導き出した答え。
ロードフェニックスは全てを同化し、焼却して力を得ている。
「まずいかもしれないわね、このままほっとくとこの星全部を食べちゃうかも」
「大食いなワケだ!」
「それってネフィリムみたいな……」
「言われてみれば、ちょっと似てるデス……!アームドギアを食べたのも!」
確かにネフィリムに似た能力だった、となると普通の攻撃だけでは逆にエネルギーを奪われるだけ。
「……しかし凍結はどうやら効く、まだやりようはあるが……」
サンジェルマンはこれまで生きてきた中の記憶を思い返す、自分が持てる全ての知識を以って、目の前の困難を打ち砕く。
世界を解き明かす錬金術師としての矜持と、自分の信じる正義の為。
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『じゃまをぉっ!しないでぇ!』
一方で響と翼はディバインウェポンに対して善戦していた。
「妙だ、立花が攻撃した部位「だけ」は再生しない」
「やっぱり翼さんもそう思いますか!」
圧倒的火力、圧倒的防御力、だが小回りが利かないが故に翼と響の高機動連携に翻弄され、ディバインウェポンはボロボロになっていた。
『響くん!翼!いい情報が来たぞ!ガングニールは奴を「倒せる」!「神殺し」の力だ!』
「理屈は知りませんが!それはいい情報ですね叔父様!」
「つまりは私が「穂先」になればいいんですね!」
『そういう事だ!!』
本部に届いた情報、それは素性の知りえないどこかの誰かが解析した「バルベルデ・ドキュメント」に記されていた情報。
アダム・ヴァイスハウプトがなんとしてでも秘匿しておきたかった情報。
「神殺し」の力。
「気取られたか、困ったものだよ」
風を切り、刃となった帽子が響目掛けて飛ぶ。
だがそれは翼によって防がれ、アダムの手に戻る。
「アダム・ヴァイスハウプト!」
『あだむぅ~!!おかえりぃ~!』
「悪いね待たせて」
魔力が多少回復したアダムが再びその姿を現した。
それは万全とはいえないが、手に入れた神の力を破壊される訳にはいかない為だ。
「君達が今知ったとおり、ガングニールは神殺しだ。だからあの時壊しておきたかったんだが」
「……裏づけが取れて手間が省けた、立花……!ここは私が引き受ける」
「はい!」
「手出しはさせないよ!ティキにはね!」
響が力を握る、それを妨害せんとアダムが風の刃を放つが、翼の剣によって防がれる。
「それはこちらのセリフだ!友を防る刃は翼と知れ!」
「守れないさ!お前達の歌ではねぇ!」
力任せの錬金術の連撃、炎・氷・風・雷が雨霰と降り注ぐ。
だがそれを翼は的確に撃ち落してく。
-千ノ落涙-
-天ノ逆鱗-
-青ノ一閃-
自身を剣と鍛え、仲間を信じてきた翼。
自分を鍛える事なく、誰も信じていないアダム。
対極の二人がぶつかり合う。
圧倒的な力を持つアダムの前に翼の技は段々と圧されていく、だがそれでも諦めない。
「やはり不完全な存在は支配されるべきなのさ!完璧な僕にね!」
防ぎきれない攻撃を剣で受け流しながらそれでも翼は吠える。
「確かに私は未熟で未完成な剣だ!だが!だからこそどこまでも強くなれる!どこまでも羽ばたいていける!」
「トンチでなると思うなよ!どうにでも!」
一瞬、アダムの攻撃が止む。
それは必殺の一撃を繰り出さんとする一瞬の「溜め」。
だがその一瞬があれば十分であった。
「大切な者達に鍛えられたこの一振り!受けてみろ!」
-真・風凛歌斬-
勝敗を決したのは、共にあろうとする意志が鍛え上げた技。
他人の研究成果の上澄みだけを掠め取り、自分を変えようとしなかったアダムと、仲間の為に変わっていく事を選んだ翼。
剣は悪を切り裂いた。
アダムの「機体」は野望と共に上下に別たれ、地に堕ちた。
『あだむぅうう!!!あぁあああああ!!』
「愛するもの」を奪われたディバインウェポンが絶望の叫びを上げる。
そして無軌道に全てを破壊せんとその口に光を収束させるが。
「貫けぇえええええええ!!!私「達」の歌でええ!!!!」
ディバインウェポンの胸のティキ像を響のガングニールが捉えた。
『アアアアアアア!!!!!』
神殺しの槍が怪物の心臓を貫いた。
翼は一人でアダムと戦っていたのではない。
一人であれば本性を見せていなかったとはいえアダムを断つ事など出来なかった。
響は一人で力を溜めていた訳ではない。
一人であればディバインウェポンの攻撃に間に合わせる事などできなかった。
翼は響が敵を貫く事を信じた。
響は翼が守ってくれると信じた。
互いを信じる「絆」。
ガングニールと天羽々斬の「ユニゾン」の効果であった。
制御装置であるティキを失ったディバインウェポンは全身からエネルギーを噴出させ、ついに爆発して滅びた。