突然の再会に春虎は動揺していた。
今の今まで、目の前の彼女とのことを考えていたのだから。
「な、夏目? どうしてこっちに。東京にいるはずじゃ」
とすぐにその答えを察する。彼女は手に大きな荷物を持っていた。そう言えば今は夏休みだ。帰省してきたのだ。
「夏休みか…。あっ、その久しぶりだな」
「お、お久しぶりです、春虎君」
お互いにどこかぎこちなく挨拶を交わす。その後、若干お互いにどこかよそよそしいながらも、近況を伝える。
「じゃあ一週間くらいしかこっちにはいないのか」
「ええ……」
「なんか短いんだな。さすがエリート校ってところか……」
「いえ。本当はもう少しありますけど、私には向こうでやることが一杯ありますから」
どこか淡々と話す夏目に、春虎は気まずさを覚える。
「た、大変なんだな」
「授業の方は問題ありませんが、むしろ『しきたり』の方が……」
しきたりと言う言葉に春虎はずきりと胸が痛む。
「あっ、いえ、何でもありません」
知ってか知らずかすぐに夏目はこの話題を打ち切った。
気まずいと春虎は思い、こちらも別の話題を切り出す。
「その、友達とかできたか? すごい奴だらけなんだろ?」
「……友達、ですか?」
「そうそう。もう半年だから何人か仲のいい奴とか……」
「いえ……」
「あー、その、なんだ。昔から人付き合い苦手だったもんな」
夏目の昔を思い出し、春虎は少しまずい話題だったかと頭をかく。
「まさかいじめられてたりとかは……」
「それは大丈夫です。あそこは実力があれば、軽んじられることはありません」
夏目を心配した言葉だったが、逆に夏目を不快にさせたらしい。どうやら友達はできていないらしい。それはそれで少しさびしい気がする。
友人と語り合うのは楽しい。北斗と冬児のいる今を満喫する春虎は、友達の大切さとありがたみを感じている。
(そうだ。明日の祭りにこいつも誘えばいいじゃんか。北斗も冬児も人見知りする奴じゃないし、北斗ならこいつにいい影響を与えるかも)
北斗のあの天真爛漫な性格なら、夏目とも仲良くなれると思う。うまくすればこいつにも友達の良さを分かってもらえるかもしれない。
「なあ、夏目。明日の夜って時間あるか?」
「……明日の、夜、ですか?」
少しいぶかしげに尋ねる夏目だが、それを気にすることなく春虎は会話を続ける。
「そうそう。もしよかったら夏祭り行かないか? 明日あるんだ。俺の友達も二人一緒に行くんだ。夏目に時間があるなら一緒にどうかと思って」
それに一緒に出掛けるのも久しぶりだしと春虎は笑って言う。
その言葉に若干驚いた顔をする夏目だが、すぐに視線を逸らした。
「あっ、もしかして用事とかあるのか」
「……はい」
「そ、そっか。そりゃ残念だな。でもこの一週間で時間があるなら、一緒に遊びに行こうぜ。二人とも良い奴なんだ。あいつらといると毎日が楽しいんだ」
春虎は夏目も友達をつくった方がいいぞと笑いながら言う。
「……楽しい毎日ですか」
どこか悲しそうな顔をする夏目に春虎は不思議そうに顔をしかめる。
「私にはそんな時間を送っている時間はありません。私には土御門家の次期当主としての義務があります」
「でもさ、少しくらい」
「……ごめんなさい」
ぺこりと夏目は頭を下げる。
「もう今日はこれで戻ります。父に報告もありますので」
おやすみなさいと夏目は逃げるように春虎の前から去っていく。
春虎は何か気に障ることでも言ったかと自分の言葉を思い出す。しかしそこまで夏目を怒らせることを言っていないはずだ。嫌われてるのかと考えたが、何をいまさらと思った。
「俺、あいつとの約束破ったんだもんな」
歩道橋のふちに背中を預け、空を見上げながら、春虎は自嘲気味に呟くのだった。
「で、お前はナンパに失敗したと」
「ナンパって言うなよ」
一夜明け、神社の境内で合流を果たした冬児に、春虎は昨日の一件を報告していた。
「珍しくへこんでるじゃねえか」
「珍しいってな。俺だって悩むこともあれば落ち込むこともあるっての」
「そうかい。しかしいかにも旧家らしいな。それらしい『しきたり』だ」
分家の人間が本家の人間の『式神』になる。
土御門に残る古いしきたりである。
式神とは陰陽道において術者の呪力で操る使い魔的な存在だ。現在、陰陽庁で公式に採用されている汎式陰陽術において、術者の核として紙などでできた形代が用いられている。
いつの頃からあるしきたりなのか、春虎も知らないがかなり以前よりあるらしい。
自分は一度、夏目と約束を交わした。しかし春虎はそれを反故にしたのだ。
「だからあいつが俺を嫌う理由はよくわかるんだよな。逆の立場なら、俺だって腹立つだろうしな」
「女ってのは、約束事を大切にするからな。子供の頃の約束って言っても、当人にしてみれば本気だったんだろうよ」
「はぁ、そうだよな……」
ずーんとあからさまに落ち込む春虎に冬児は肩をすくめる。
「そう落ち込むなって。失恋の一つや二つ。そのうち良いこともあるさ」
パンパンと背中を叩かれ、春虎は冬児を睨む。結構痛かったからだ。
「いや、失恋とかじゃなく……」
「失恋? 誰に?」
ごごごごと音が聞こえてきた気がした。この声は北斗だった。いつもなら気付くが、今日は珍しく意識を集中しきれていなかった。
「って、違う……北斗?」
「何?」
春虎は北斗の姿に目を奪われていた。なぜなら、北斗が珍しく浴衣など着ていた。
「ど、どうしたお前!? 浴衣なんか着て!?」
「お祭りだから着てみただけだよ。悪い!?」
怒ったように言う北斗に春虎は若干おろおろする。
「い、いや。悪くはないけど、そのいきなりだったしな。ああ、その、なんだ……その、似合ってるぜ」
少しだけ顔を横にしながら、春虎は恥ずかしげにつぶやく。
その言葉に北斗も少しだけきょとんとしたが、すぐに嬉しそうな顔をする。
「うん、春虎にしてはよく言えました!」
「おまえなぁ」
「でもありがとうね」
満面の笑みでお礼を言う北斗に、春虎は思わずドキッとした。その光景を冬児はいつものようにニヤニヤと眺めるのであった。
「春虎、春虎!」
今年で三度目の北斗との祭り。冬児が加わっても、あまり変わりがなかった。子供のようにはしゃぐ北斗に苦笑しつつも、いつも通りの彼女で春虎も自然と笑みをこぼした。
「あんまり浴衣ではしゃぐなよ。転んでも知らないぞー」
「あいつ、いつも以上にはしゃいでるな」
冬児は若干呆れながら、露店で買ったジュースを飲む。
「毎年あんな感じだ。ったく。ガキじゃあるまいし」
「しかしなんだかんだ言って、お前は北斗にずいぶんと甘いよな。なんだ、お前、やっぱりあいつの事が好きなんじゃないのか?」
「……どうだろうな」
からかい半分に言った冬児だが、予想に反して春虎から真面目な言葉が返ってきたのに驚いていた。
「正直、自分でもよくわからねぇんだよ。あいつと一緒にいると楽しいってのは間違いない。この時間がずっと続けばいいと思ってる。夏目……、幼馴染を除けば、一番長く一緒にいるのはあいつなんだ」
中学に入って最初の夏休みのある日。それが初めて北斗と出会った日だった。
公園で偶然見かけた北斗は、当時好きだったアイドルに似ていた。思わずがん見してしまった。その時は見知らぬ男に見られたせいか、脱兎のごとく逃げられた。
それでもう二度と会うことはないかもと思っていたが、予想に反して、その日を境に逆に春虎は北斗に付きまとわれることになった。
姿を見せては逃げる北斗を、半ば意地で追いかけ、夏休みの最後の日に、ようやく名前を教えてくれた。
『ぼく……北斗』
その時のひまわりのような笑顔を春虎は今でも覚えている。
「で、意識しだしたと」
「意識しだしたのは、最近だよ。っても春先くらいからだ。お前がこっちに越してくる前、ちょっと色々あってな。その時にあいつが親身になってくれたんだ」
「なるほど。それでころっと言っちまったわけだ。青春してるな、春虎」
「バカ。茶化すなよ。でもな、俺の中で踏ん切りがつかないんだ。夏目の件もあったし、昨日ので余計にな。俺だけがこんなんでいいのかって」
「バカ虎もバカ虎で悩むんだな」
「うっせえよ。それに今のこの関係って言うのも好きなんだ。壊したくない」
ある意味情けないよなと言う春虎に、冬児は今回はちゃちは入れなかった。
「まっ、いいんじゃないか。お前がそれでいいなら」
冬児も今の二人を見ていて面白いし、当人が望まないなら無理に進展させることもないだろうと考えた。
「それよりも田舎の祭りの面白さを教えてくれるんだろ? 北斗も待ってるぞ」
「春虎~、冬児~! あれしようよ!」
前の方で手を振る北斗を春虎は見つつ、そうだなと笑顔を浮かべ再び祭りを楽しむことにするのだった。
「ったく。千円も使わせてほしかったのが景品をラッピングしてたリボンだったとは」
春虎は悪態を付きながら、景品のラッピングしていたリボンを嬉しそうに手にする北斗を見る。
「へっへ。いいでしょ? どう、似合う?」
短い髪の毛をリボンで束ねる北斗に春虎はへいへい、似合う似合うと投げやりに答える。
「むっ、その反応は腹が立つ」
「似合ってるのは間違いねぇよ。ったく……ちょっと可愛いと思ってもそれじゃな」
「春虎……。今、可愛いって言った? 言ったのよね? 言っただろ? 言ったって言え!」
「おい、やめ、ひっつくな!」
「ねえねえ、なんて言ったの? 春虎?」
「ああ、もう! わかった、わかったから離れろ! 可愛いって言ったんだよ! これで満足か!?」
無理やり引きはがす春虎に北斗は今度はしおらしげに、うれしそうな顔をする。
「うん。最初から素直にそう言えばいいんだよ」
「いや、熱いな、お二人とも。なんだ、俺を呼んだのは見せつけるためか」
ニヤニヤする冬児に春虎はちげーよ! と叫ぶ。北斗は嬉しそうに景品のシャボン玉を吹かせ、喜びをあらわにする。
「っと、そろそろ河川敷に移動しないといい場所取れないぞ」
冬児が時計を見つつ、花火の時間を思い出し、二人に告げる。
「あっ、そうだ。ちょっとだけ待ってて。すぐ戻るから!」
何かを思い出したように走り出す北斗に、春虎も冬児も怪訝な顔をする。
「なんだ、あいつ?」
「行ってみるか」
二人は北斗の後を追うと、彼女は境内で何かをやっているようだった。そこは絵馬がつるされた場所。何か書いた絵馬を北斗はつるしていた。
「何してんだよ、お前」
「春虎!? ままま、待っててって言ったじゃないか」
「絵馬書いてたのか。なんて……」
慌てる北斗を無視して、春虎は北斗が書いたと思われる絵馬を見る。
『春虎が立派な陰陽師になれますように』
ざわりと、心が乱れた気がした。
なんだろう。この気持は。
「あ、あの、春虎、その、これは……」
春虎が怒っていると思っているのだろうか。北斗はうろたえながら春虎に何かを言おうとする。しかし春虎は絵馬を持ったまま、何かを考える。
「なあ、北斗」
問いかけるように春虎は北斗の顔を見る。
「お前、俺が陰陽師になれると思ってるのか?」
「そ、そりゃ、春虎は土御門家の人間だし、陰陽師になれるよ! 違う! なるべきだ」
「……何のために?」
「えっ、なんのって……」
「俺な、わかんねぇんだよ。陰陽師になって何をするのか。家の再興? 本家を超える? 自分の存在を知らしめる? 俺にはそう言ったビジョンが見えないんだよ」
絵馬をそっと戻し、春虎は北斗に向き直る。
「お前がなんでそんなに陰陽師になるように進めるのか知らないし、詮索もしない。でもな、才能もやる気もない奴が簡単になれるのか?」
春虎は自分の内心を吐露する。春虎は陰陽師になりたいと思ってなどいなかったし、なれるとも思っていなかった。
見鬼の才能がない分家の人間がやっていける世界ではない。
持って生まれた才能に左右される世界。陰陽師とはそう言ったものである。
その中で本人にやる気がなければ、なお生き残ることはできない世界だ。
「春虎がその気になればきっとなれるよ!」
「なれてもその後は? もうな、俺にはなる意味もないんだ。昔の約束もしきたりも全部破ったんだ。夏目だってこんな俺をもう必要としないだろうし、誰からも期待されていない。そんな俺が……」
「そんなことない!」
今まで以上に声を張り上げ、北斗は叫んだ。
「春虎が必要とされていないなんて、そんなこと絶対にない! その……幼馴染の子だって絶対に春虎を必要としてるよ!」
「いや、あいつは」
「春虎は確かめたの!? その子から聞いたの!? 春虎が必要ないって!?」
「聞いてないけど、昨日だって」
「じゃあ春虎の思い込みだよ! 絶対にそうだよ! その子も春虎が絶対に必要だって思ってるよ!」
熱弁する北斗に春虎はそうなのかと考える。
「確かめもせずにそんなこと言うのはダメだ!」
「北斗、お前」
「それに春虎に誰も期待してないって? 違うよ。少なくともボクは春虎に期待してる。春虎が立派な陰陽師になれるって思ってる」
まっすぐに見つめ返す北斗に春虎は、こいつにだけは失望されたくないと思ってしまった。
こいつにだけはうそつきと言われたくない。こいつだけは悲しませたくないと……。
(俺になれるのか。いや、違うか)
ぐっと拳に力を込める。なれるかどうかじゃない、なるんだ。陰陽師に。こいつの言うような、立派な陰陽師に。
(師匠、俺、陰陽師になるよ)
自分を鍛えてくれた相手に、心の中で報告する。合格すればその後はどうしようと春虎の勝手だと言われている。
その力を使うもいい。使わないもいい。静かに暮らすも、表に出るのも。
そして陰陽師になるのも……。
(結局、逃げてたのかもな。見鬼がないってことを言い訳に。この力の制御が先だって言い訳にして……)
それが間違っていたとは思わない。力の制御は今でも必要だったと思っている。
唯一自分が恥ずべきは夏目との約束を破ったこと。
それさえなければ、自分は胸を張っていられただろう。
今さらかもしれない。でも、もう裏切りたくない。
「……とりあえず、少し遅いかもしれないけど、頑張ってみるか」
「春虎?」
「お前の言う、立派な陰陽師になれるかどうかは分からないけど、陰陽師になる努力はする」
「ほんと? ほんとうに?」
「ああ。でも少しだけ、もう少しだけ待ってくれ」
もう一度、絵馬を見ながら、春虎は北斗に告げる。
「もう少しで終わるんだ。今、やってることが。それさえ終われば、陰陽師になるための勉強を始められる」
「春虎、何かやってたの?」
「ああ。ちょっとな。そのうち話すさ。それさえ終われば、お前の言うように陰陽師になるようにがんばるから」
春虎の答えに、北斗は今までにない笑顔を浮かべる。
やったーっと無邪気にはしゃいでる。
「やっぱり北斗には大甘だな、春虎」
「うるせえっての」
どこか照れているような春虎をさらにからかう冬児。本当に面白いなと思う。
「っと、お二人さん。そろそろ花火の時間だぜ。急がないと終わっちまうぞ」
「えっ、もうそんな時間!? やっべえぇ。おい、北斗、急ぐぞ」
「あっ、待ってよ、春虎」
三人が移動しようとした時、それは唐突にやってきた。
「ねぇ、そこの天才児」
境内に伸びる階段から、一人の少女がやってきた。
「単刀直入に言うわ。私の実験に付き合ってくれる? 土御門、夏目」
少女はそう言うと、冬児に向かって指を伸ばす。
春虎と冬児は何言ってんだ、こいつ状態である。しかし北斗だけはどこか緊張した面持ちだった。
「……あいにくだが、俺はただの一般人。で、土御門はこっちの方だ」
と隣の春虎を冬児は指差した。
「えっ、あんた!?」
「いや、確かに土御門だけど」
「ちょっと。あんたが!?」
なんかこの子勘違いしてないかと思った春虎だが、今までに見たことない顔だった。
(東京でできた夏目の知り合いか? それにしちゃ、夏目と俺の事を勘違いしてるっぽいけど)
「雑誌の写真で見たことあるな。その顔、確か国家試験『陰陽Ⅰ種』合格者。日本に十数人しかいない通称『十二神将』、最年少の『神童』大連寺鈴鹿」
春虎の疑問をよそに、隣で冬児が解説してくれた。
「って、十二神将!?」
「へぇ。一般人にしちゃ、詳しいじゃん。そうよ、あたしが大連寺鈴鹿よ」
どこか偉ぶっているが、春虎には子供にしか見えない。
「しっかしアタシ以来の天才児って聞いたけど、想像と違ってアホそうね」
「やかましい! つうか人違いだ!」
「はっ? 人違い?」
「俺は土御門春虎。残念だけど分家の人間だ」
「春虎? 分家?」
その言葉を聞いた鈴鹿はちっと舌打ちし、顔を不機嫌そうに歪める。
「じゃああんたに用はないわ」
と背中を向け、この場を後にしようとした。だがそれを春虎は呼び止める。
「待てよ。十二神将が夏目に何の用だ」
「はっ、あんたには関係ない事よ。それに土御門の分家の人間に用なんてないっての」
どうでもよさそうに、それでいて、目障りそうに鈴鹿は春虎に告げる。
「夏目には用があるってんだろ。なんだったら、俺が案内してやってもいいぞ」
その言葉に鈴鹿は一瞬、動きを止める。
「そうね。土御門の人間に案内させるってのはいい案か。いいわ、あんた、案内しなさい」
「待って! 春虎」
と、今まで黙っていた北斗が声を上げた。
「理由もわからないのに連れていくなんて危険すぎる」
「そんなことわかってるよ。もちろん、理由を聞いてからだ」
春虎としてもその意見には同意だった。目的もわからない相手を夏目に会わせるわけにはいかない。実験と言っていたが、その内容も定かではない。
「あんた達に言ってもしょうがないわよ。いいからさっさと土御門夏目の所に案内しなさい」
「ダメだね。こっちも理由もわからず連れていけない」
話は平行線になりかけたが、先に折れたのは鈴鹿だった。
「まあいいわ。こっちも時間がないし。土御門家の人間のあんたなら知ってるでしょ。土御門夜光が行った大呪術よ」
その言葉に一番動揺を見せたのは、なぜか先ほどと同じ北斗だった。いつものような無邪気な顔ではなく、どこか青ざめているようだった。
「今の汎式陰陽術は、天才夜光の帝国式陰陽術を他人が簡略化した残りカス。その過程で魂を司るあの術も手におえないものとして削ぎ落とされた」
どこか狂気すらはらんでいるかあのような笑みを浮かべながら、鈴鹿は語る。
「大いなる魂の制御法(メソッド)。『泰山府君祭』。それがあたしの目的……。さあ、話してあげたわよ。あたしを土御門夏目の下に連れて行きなさい。もし聞き入れられないようなら……」
鈴鹿が何かを行おうとした瞬間、事態は急変した。
急に境内に続く階段からいくつもの武装が施された装甲車かと思われるハマーが三台、境内に乗り入れてきたのだ。
そんなもんで入ってくるな! と叫ぶところだろうが、状況が急展開過ぎて、誰も何も言えない。
ハマーに装備されている武装から、呪符が飛び出し、鳥のような式神となり、鈴鹿を捕縛するかのように上空を飛び回る。
「あの式神、ウィッチクラフト社の捕縛式だぜ。モデルWA1『スワローウィップ』」
「お前、一般人の癖に詳しいな! つうかそれよりも境内に車で乗りいれたことを突っ込めよ! いや、そもそも落ち着きすぎ!」
解説をする冬児に春虎は思わず突っ込む。
「呪捜官? どうなってるんだ、これ?」
「十二神将が呪捜官に追われてるなんて」
「つうか少し離れようぜ! どうみてもヤバいだろ、これ!」
次々に車から出てきて呪符や拳銃を構える呪捜官達。鈴鹿はそれでも余裕の笑みを崩さない。
「大連寺鈴鹿。陰陽法に基づき、禁呪行使容疑で拘束する! 投降しろ!」
「はぁ、マジうざい。もう新手が追いついたってわけ?」
「庁舎では部下が遅れを取ったが、今度は逃がさんぞ。抵抗するなら命はない」
「逃げる? ざけた事いってんじゃねーよ」
くすくすと笑う鈴鹿の背後に、突如それは現れた。
「あれは陰陽庁製人造式モデルM3『阿修羅』!?」
「いや、冬児、解説はありがたいけどお前詳しすぎるから!」
阿修羅の出現は、さらに状況を一変させた。阿修羅より放たれる呪符。呪符は鈴鹿を拘束していた結界にびっしりと張り付いた。
呪符よりあふれ出す水。この場に大洪水が起きる。水は結界を突き破り、展開していた呪捜官達に襲い掛かる。呪捜官達も呪符により土の障壁を展開させ乗り切ろうとするが、鈴鹿の術はレベルが違い過ぎた。
一瞬の抵抗はできたものの、ハマーごと流されていく。下手をすれば死んでしまうかもしれない流だった。
水の流れは容赦なく春虎たちにも襲い掛かろうとしていた。
「春虎! 冬児! ボクの後ろに!」
「北斗!?」
迫りくる水を前に、北斗は自らの体を二人の前に滑り出させる。
呪詛を唱えながら、北斗は指で五芒星を描く。瞬間、五芒星に霊力があふれ、水をせき止める。
「北斗、お前!?」
「逃げて、二人とも! 長く持たない!」
悲痛な叫びが春虎の耳に届く。それは北斗を見捨ててと言う意味か。歯を食いしばり、苦しそうな表情を浮かべる北斗。
ふざけるな。お前を見捨てていけるか!
「冬児、北斗! 飛ぶぞ!」
「春虎!?」
「お前!?」
二人の手をつかみ、春虎は自らの力を解放する。
呼ぶのは風。大気に満ちる、友人。
この力を使う条件。術師として結んだ契約。
『その力は……。大切な者を護るために使え。それが『精霊術師』との誓約だ』
風が三人を包み込む。風はそのまま三人を水の影響が届かない空へと運ぶ。
「なっ、なにこれ!?」
「説明は後だ。それよりもお前らは安全な場所に避難してろ」
「待って! 春虎!」
そう言って春虎は風で二人を安全な場所へ運ぶ。できれば遠くがいいが、さすがに完全に安全地帯まで運ぶことができる程、自分の能力は高くはない。せいぜい百メートル先が限界だ。
二人の安全を確保しつつ、春虎は大連寺鈴鹿に向き直る。向こうも春虎がいきなり空を飛んだのを驚いているらしく、目を丸くしている。
同時に用が無くなったのか、水を一瞬で消滅させた。
「何よ、あんた。分家の術者の癖に浮遊術なんて使えるの?」
「あいにくと、俺はそんなもん使えねぇよ」
北斗と冬児を百メートル先に降ろし、さらに乱入されないように風の結界で身動きを封じる。先ほどのやり取りで北斗が陰陽師である可能性が高いと知ったが、陰陽術と違う風術の結界なら、すぐには破れないだろう。
「なに、あんた? あたしとやろうっての?」
「ああ。お前を夏目の所に行かせるわけにはいかなくなった」
「バカバカしいわね。あんたみたいな雑魚が十二神将のあたしに本気で勝てると思ってんの?」
「さあな。一度、試してみろよ!」
地を蹴り、風を纏い阿修羅へと突っ込む。
「はっ! なめんじゃねぇ!」
阿修羅の腕が春虎に迫るが、春虎は風を操り、空中で器用にそれを避ける。同時に風を操り、刃のようにして阿修羅の腕に叩き込む。
「なっ!?」
驚愕の声を上げたのは鈴鹿だった。阿修羅の腕が、切り裂かれたのだ。
「おらぁっ!」
次の瞬間鈴鹿が見たのは、阿修羅の顔面を殴り飛ばす春虎の姿だった。
ええ、同じ角川つながりで風の聖痕より精霊魔術を取り込んだ、春虎強化でした。
それにしてもアニメの春虎はマジでイケメン。
漫画はどこか子供くささが残っていましたが、やはりアニメのほうが絵が好きですね。