「ええっ、ぼく達逃げるんですか?」
「コナンくんと高木刑事がまだあの中にいるのに?」
タイムリミットが近づいてきた頃、捜査員やその関係者達の動きも慌しくなっていた。
佐藤は車に残っていた元太、光彦、歩美、そして灰原へ声を掛けた。
「心配しないで、あの二人もこっちに向かってるところだから…」佐藤は怖がらせないようにと笑顔を浮かべて言う。
「成宮くん、子供達を安全なところへ」
「…分かった」
成宮は何か佐藤へ伝えようとしたが、やめた。
その代わり彼女の肩を軽く叩き、「信じてやれよ」と言葉を残した。
子供達を乗せた車は、走り出した。
「……爆弾、あの二人に解体させるのね」
灰原は成宮にぽつりと呟いた。
「…ああ。だけどなんとかなるだろ」
「……随分と信頼してるのね」灰原は疑うように問いかけた。
「何となくこういうのは分かるんだよ。あの二人は簡単に死ぬような奴じゃない。何とかできる人間じゃなきゃ、俺もあいつらを残してきて子供のお守りなんぞやってねェよ」成宮はきっぱり言った。
車をしばらく走らせているとラジオから二人がまだ救出されていないという言葉が流れる。それを聞いた子供達は騒ぎ出した。
「ちょっとどーいうことですか!」
「まだ二人救出されてねーじゃねぇか!車戻せよ!」
「コナンくん!」
「うるせェな…!」成宮はぴしゃりと言う。
「…信じてやれよ!仲間なんだろ!」
成宮は大きな声を出すと、子供達は黙りこくった。
「………爆弾はちゃんと解体されますよね?」
「…ああ」
「コナンも高木刑事も死んだりしねぇよな?」
「…ああ」
「……歩美、また会えるよね?コナンくんに…」
「ああ。だから信じてやれ。ちゃんと戻ってくるって。ちゃんと生きて帰ってくるって」
***
「信じてやれよ」という彼の言葉。
私は、彼のように強くはない。
失うかもしれないと思うと、手が震える。
タイムリミットが1分を切った。
3年前と同じ…手がかりはあの悪魔の箱の中……。
それを取り出すには、また、大切なものを失ってしまう。
「―…高木くん!」
お願い、行かないで…、
3,
2,
1
東都タワー周辺は静寂に包まれた。
そしてバタバタと報道陣のヘリの音が響く。
目をつぶっていた高木は大きな物音に驚いて目を開けた。
上からコナンが下りてきたのだ。
「うわあぁっ、ちょっとコナンくん!!」
「……死ぬの怖いから、ケーブル切っちゃった……。ごめんね、高木刑事」
***
結局、手がかりは得られずにタワーから出てきたものの爆弾は爆発せず、さらに犠牲者もいないということでタワー周辺は祝福ムードに包まれていた。
お手柄小学生、としてコナンはテレビの取材を受けていると、子供達が駆け寄ってきた。
「よかったー!コナンくん!」
「ほんとですねー!」
「さすがオレの子分だぜ!」
けらけらと嬉しそうに笑う子供達のそばで、灰原も微笑んでいた。
「…まぁ止めて正解だったわね…見ず知らずの人のために命を落とすなんてバカバカしいことなんだから…」
「ああ、そうだな……」
コナンは意味ありげな笑みを浮かべた。
「さ、佐藤さん……」
高木は恐る恐る佐藤へ近寄る。涙目になっている佐藤は嬉しそうに高木の肩を叩いた。
「…無事でよかった、本当に。あと2時間半あるわ。残りの爆弾を見つけましょう!」
「あ、そのことなんですけど………」
高木は佐藤に耳打ちした。佐藤は驚いたような表情を見せる。
「―……ああ、爆弾は爆発しなかった。……あんたが入れ知恵でもしたんだろ?」
「……まあ、あのガキんちょもそろそろ気づいてきた頃だろうな………」
成宮は東都タワーを見上げた。
そして、そのまま微笑む。
「この事件が片付いた後で、これも一緒に片付けてしまおう…。厄介事は後回しにしたくないタイプなんでね」
成宮は携帯電話をポケットにしまうと、もう一度タワーを見上げた。
その表情は、先ほどとは違う、優しい笑みだった。
―……兄さんがあの時出来なかったこと、俺がやって見せる。
だから、信じていて欲しい。